≪3≫今後の展開:求められるトータルな電力事業の効率の向上
〔1〕すべて汎用品を使用し自社開発
現在、タブレットは、袖ケ浦火力(14台。うち4台を巡視点検作業用に使用)、千葉火力(26台)、鹿島火力(9台)、横浜火力(4台)、富津火力(4台)の5つの火力発電所を含めて合計95台配布されており、各火力発電所のデータはクラウド経由で、どこからでも閲覧可能(当然ながら書換え不可能)となっている。
また、現在導入されているタブレット(Windows)とクラウドサービス(Office365)は、いずれも誰もが購入できる汎用品であり、従業員が使い勝手に慣れているExcelとセキュアなクラウドサービスである。このため、特別な開発費用もなく、システムインテグレータへの依頼もなく、すべて自社開発となっている。自社開発のため、95台のタブレット代(リース)やOffice365の利用料なども含めても、年間経費は1,500万円程度とかなり少ないコストとなっている。
写真3 メガネ型 Web カメラデバイス(NTT ネオメイト製)を装着して点検作業の実験
出所 インプレスSmartGridニューズレター編集部撮影
このように、自社の業務内容に合わせたシステムを開発するのではなく、既存の汎用品に自社の業務内容を合わせたシステムを利用するという、従来の情報システムの在り方とまったく逆転の発想によって、導入コストを大幅に抑制しているところが大きな特徴である。
さらに効率化を推進するため、作業員がウェアラブルな「メガネ型 Web カメラデバイス」(NTT ネオメイト社製)を装着した点検作業の実験も行われている(写真3)。
今後、タブレットによるICT化は、東京電力フュエル&パワーが保有する15カ所の火力発電所すべてに普及させていく計画となっている。
〔2〕求められるトータルな効率の向上
従来の一般電気事業者(旧電力10社)は、公益事業であり地域独占事業であり、また総括原価方式によって、安定した経営ができる制度となっていた。しかし、2016年4月から電力小売全面自由化のスタートにともなって、これらの制度は基本的になくなり完全自由化となったため、市場競争が激化している(2016年5月12日現在295事業者が登録小売電気事業者として参入)。
このため、通常の民間企業と同じ競争の原理の下に、電力会社の企業運営が求められるようになり、1人1人のさらなる生産性の向上が必須となる時代を迎えた。今回の袖ケ浦発電所のICT化は、このような電力自由化時代における、旧火力発電所システムにおける生産性向上に向けた、改革の一環でもあるのだ。
これまで見てきたように、次世代の電力システムであるスマートグリッド/マイクログリッドなどを推進しながら、既存のシステムの効率的な運用を実現し、トータルに電力事業の効率を向上させることが求められている。
袖ケ浦発電所のICTプロジェクトは、「タブレットによる現場データの電子化」と「現場における設備状況の人間による目視点検」、「セキュアなクラウド」のバランスを考慮した、電力自由化時代の電力事業の在り方を示す先進的な取り組みの1つであり、今後の展開が期待されている。(終わり)