電力小売全面自由化に備えた東京電力の新体制
─編集部:いよいよ2016年4月から、電力システム改革注1の第2弾「電力の小売全面自由化」がスタートします(図1)。これに伴って東京電力はどのように対応されるのでしょうか?
図1 日本の電力システム改革の全体像
出所 経済産業省 資源エネルギー庁「電力システム改革について」、2015年11月、http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/pdf/system_reform.pdf
佐藤:はい。当社(東京電力。表1)は、電力システム改革に対応するために、3年前の2013年の4月に社内カンパニー制を導入し、その際に、私が現在所属しているカスタマーサービス・カンパニーという組織も発足しました。
2016年4月からは、東京電力ホールディングス注2の下に、
- 東京電力フュエル&パワー株式会社(燃料・火力発電事業会社)
- 東京電力パワーグリッド株式会社(一般送配電事業会社)
- 東京電力エナジーパートナー株式会社(小売電気事業会社)
の3つの会社が連なる新体制で運営されることになります(図2)。
図2 ホールディングカンパニー制に移行(2016年4月)する東京電力の新組織構成(3つの事業部門を分社化)
図2でわかるように、一般送配電事業会社である東京電力パワーグリッド株式会社だけは、送配電事業の中立性を担保するため、他の2つの事業会社(商標:「TEPCO」)とは異なる「独自商標」を使用します。
─編集部:中立性を担保するというのは、具体的には、図3に示すように、送配電ネットワーク部門を中立化注3し、どの電力会社も自由かつ公平・平等に送配電ネットワークを利用できるようにするためですね。
図3 送配電部門の中立化(図1に示す電気事業法第3弾改正)
出所 経済産業省 資源エネルギー庁「電力システム改革について」、2015年11月、http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/pdf/system_reform.pdf
佐藤:その通りです。現カスタマーサービス・カンパニーは、2016年4月からは、東京電力エナジーパートナー株式会社と名称を新たにスタートすることになります(図4)。
図4 図2に示す東京電力エナジーパートナー株式会社の組織構成イメージ
出所 取材をもとに編集部作成
─編集部:東京電力エナジーパートナーとは、具体的にはどのような規模の組織で、どのようなビジネスを展開されるのでしょうか?
佐藤:前出の図4を見ながら説明いたします。「東京電力エナジーパートナー株式会社」は、販売に特化した事業会社で、全面自由化という新しい競争環境下で戦っていくことを意識した組織構成としています。
現在の人員規模は2,700名程度ですが、このうち、福島復興の推進および賠償業務などに、200名ほどを送り出しています。
〔1〕E&G(電気とガス)事業本部
佐藤:図4に示すE&G事業本部は、電気(E:Electric)とガス(G:Gas)を扱う事業部です。ここでは、大口の法人顧客向けの販売営業活動を担当しており、産業事業部と都市事業部が設置されています。
もともと当社は、日本で一番ガスを購入し、年間のガス輸入量は約2,500万tで、東京ガス様の約1,400万tと比べると約1.8倍の量です。
─編集部:東京ガスよりも東京電力のほうが、ガスの購入量が多いというのは驚きですね。
佐藤:はい。さらに2015年4月には、中部電力様と共同出資した合弁会社JERA(ジェラ注4)を設立しました。これによって、よりバーゲニングパワー(交渉力)を生かし、世界市場から競争力のあるコストで燃料を調達できるようになることが期待されます。
〔2〕暮らし&ビジネスサービス事業本部
佐藤:2つ目が「暮らし&ビジネスサービス事業本部」です(前出の図4参照)。この事業部は、中小規模の法人向けの「法人事業部」と、家庭向けの「住生活事業部」の2つから成り立っていて、これから小売全面自由化になる市場を担当する部署です。販売電力量でいえば、すでに60%を超える大規模工場、中小規模工場、スーパーなどの需要家に対する市場は自由化されています。
─編集部:それは、図5で見るところの、黄色部分の「自由化部門」(62%)のことで、4月からの小売全面自由化の対象は図5のピンク色部分の「規制部門」(38%)部分注5ということですね。
図5 日本における電力の小売販売自由化の歴史
出所 経済産業省 資源エネルギー庁「電力システム改革について」、2015年11月、 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/pdf/system_reform.pdf
佐藤:はいそうです。全電力市場のうち38%の電力量に相当し、金額にすると約8兆円の規模と言われており、今回の小売全面自由化の舞台となります。
また、図4に示した「お客さまサービス部」は2つのセンターから構成されています。1つはお客さまからの問い合わせ対応を行う「カスタマーセンター」、もう1つは、契約済みのお客さまへの料金請求などを担当する「業務センター」です。
▼ 注1
①広域的な送電線運用の拡大、②小売の全面自由化、③法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保、の3つを大きな柱としている。
▼ 注2
東京電力ホールディングスグループは、経営管理、水力・新エネルギー発電事業、賠償・廃炉・復興推進など、原子力発電事業などを担当する。
▼ 注3
送配電部門の法的分離(送配電部門の分社化)。2020年4月から実施(図1参照)。
▼ 注4
JERA:Japan(日本)の頭文字「J」、Energy(エネルギー)の頭文字「E」にEra(時代)の「RA」を組み合わせたもので、「日本のエネルギーを新しい時代へ」という意味が込められている造語。所在地は東京都中央区日本橋。
東京電力は、東京電力燃料・火力発電事業分割準備株式会社を通じて出資。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu15_j/images/150415j0301.pdf
http://www.jera.co.jp/information/20150430_01.html
▼ 注5
図5を参照。これまで各地域の電力会社(10社)が独占的に電気を供給していた電力市場(約8兆円)が開放される。具体的には、全国で契約数約8,500万件(一般家庭部門:7,795万件、商店・事業所など:718万件)の家庭・小規模事業者が潜在的な顧客となる。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/pdf/summary.pdf