[【創刊6周年記念】 発送電分離直前! 次世代の電力システムはどうあるべきか]

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本浩氏に聞く!日本の電力システム改革と今後の展望

— 発送電分離からUtility 3.0のビジネスモデルまで —
2019/01/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

いよいよ、日本の電力システム改革の第3段階となる発送電分離(正確には送配電部門の法的分離)が2020年4月に実施される。2019年は、電力業界にとってその準備の年としてたいへん重要である。この発送電分離をトリガーにして、電力システムは変貌を遂げようとしている。それがUtility 3.0だ。電力業界が運輸業界(電気自動車)などと連携しながら融合するというダイナミックな展開である。
ここでは、Utility 3.0を提唱し推進する第1人者である、東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本 浩(おかもと ひろし)氏に、Utility 3.0とは何かについて語っていただいた。Utility 3.0を実現する5つの要素から、パリ協定の実現を目指して推進する脱炭素化戦略、東京電力パワーグリッドの具体的な取り組みや、サイバー攻撃やレジリエンス、そしてビジネスモデルは何かに至るまで、次世代電力システム「Utility 3.0」の全貌を詳述する。

日本のエネルギーシステム改革と法的分離

Hiroshi Okamoto, Ph.D.

─編集部 現在、日本では、電気事業法やガス事業法の一部改正注1を背景に、エネルギー(電力・ガス)に関する小売の全面自由化が実施されました。画期的な総合エネルギー市場が誕生し、新サービスも提供されるようになり、エネルギーの大競争時代に突入しています。

 今後の法的分離も含めてエネルギーシステム改革が進行中ですが、このような現状をどのように捉えておられますか。

岡本 はい。図1に示しますように、日本のエネルギーシステム改革は、当面、電力に関しては2020年の送配電部門の法的分離、ガスに関しては2022年のガス導管部門の法的分離を目指して、全面自由化の基本的な整備が行われている真最中です。

 この新エネルギー市場には、多くの企業が続々と新規参入しています。例えば、2018年12月7日現在で、登録小売電気事業者の数は、旧10電力会社も含めて、543事業者にも達しています注2

 一方、国際的には、地球温暖化を防止するため2020年からのパリ協定注3の実現に向けたルール(実施計画)が、2018年12月15日に策定されたこともあり注4、脱炭素化に向けた関心も高まっています。

 これらの流れの中で日本では、先に発表された「第5次エネルギー基本計画」において、太陽光発電などの再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化への動きも活発化しています。

 このような動きについては、テレビや新聞、ネットメディアを通して、10年前には考えられなかったほど、連日のように発信されています。

 しかし、エネルギー関連市場の動きは活発化していますが、現実的に、何か新しい革新的なサービスが、お客様にどんどん提供できるようになるのは、これからだと思います。

─編集部 ということは、法的分離が実施された後の2020年から2022年にかけて、エネルギー(電力・ガス)ビジネスやサービスの本格的な新しい波がやってくるということでしょうか?

岡本 おっしゃるとおりです。国の制度や市場の仕組みが、特に2020年以降にどんどん整備されていきますので、それが1つの大きなきっかけとなります。もう1つは、例えば電力関係の場合、技術面から見て、2020年以降にどこまで進んでいるかということが重要です。

 具体的には、太陽光発電やその電気を貯める蓄電池などの新しい技術が、どの程度の価格で提供されるようになっているか。また、デジタル技術を駆使したIoT時代を迎えていますので、そうした太陽光発電や蓄電池、あるいは電気自動車(EV)などを含めたさまざまなデバイスを、相互に連携させるデジタル技術やネットワーク技術とのマッチングが重要になってきます。さらに、市場の仕組みが整備されるようになるのも、2020年の法的分離がきっかけになっていくと思います。

─編集部 いま、IoTも含めてデジタル化の重要性というお話が出ましたが、電力業界でデジタル化というのは、どの程度浸透していると見ておられますか。

岡本 IoTとかデジタル化という言葉は、広く浸透しています。現場の作業で見てみますと、どの電力会社でも、従来は社員が現場に出向き、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を用いて、データを記録したり、分析したり、制御したりしていた仕事を、IoTに置き換えて効率化しています。

 しかし、お客様との間でどのようにデジタル技術を使ってサービスを提供していくかという面は、まだこれからです。例えば、現在各家庭に設置しているスマートメーター注5のデータをどう活用するか。その活用の際に、どのようなサービスを提供する事業者と提携して、どのような新しいビジネスを展開するかという部分は、まだこれからの課題となっています。


▼ 注1
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/hoan/gas_anzen/pdf/011_s01_00.pdf

▼ 注2
登録小売電気事業者一覧(平成30年12月7日現在)

▼ 注3
パリ協定:2015年12月にパリで開催されたCOP21で採択され2016年11月に発効した、2020年以降の地球温暖化対策の新しい枠組み。世界の平均温度の上昇を、産業革命以前(1750年前後)に比べて2℃以下に抑える(できれば1.5℃に抑える)。21世紀の後半には、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする。

▼ 注4
日本時間では12月16日朝。

▼ 注5
東京電力パワーグリッドの場合、2020年度までにすべてのサービスエリアの顧客宅に約2,900万台のスマートメーターを設置する。スマートメーターは、30分ごとの電力使用量(積算値)を30分ごとに送信・処理を行う。現在(2018年10月末時点)、約1,900万台を設置済み。
http://www.tepco.co.jp/pg/technology/smartmeterpj.html

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