[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

240社を超えた新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力取引所」の役割と課題 ─第1回─

2014/07/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

なぜ電力の自由化が叫ばれるのか

〔1〕「発電所」が市場の競争になじむ時代

ここまで、卸電力取引所の概要と垂直統合などについて解説してきた。従来の電力のビジネスでは、中央給電指令所などによって電力供給の最適化が図られてきたが、それでは、なぜ今、電力の自由化が言われるようになってきたのだろうか。

この背景の最大の理由として、「発電所」が市場の競争になじむというように、世の中の見方が変わってきたということであろう。これまで、電気事業とは、いわゆる自然独占注4だと言われることがあった。すなわち、大きな発電所や送電線設備などを、1人(1社)でドーンとつくってしまえば、ほかの人は後から参入しにくい状況となるからだ。

このため、電気料金も自由競争ではなくて、政府による規制料金にするという思想で何十年も行ってきた。しかし現在、発電所の規模としては大規模なものではなく、小規模な、例えば10万kWのガスタービンや、2MW(2,000kW)の太陽光発電などの再生可能エネルギーが続々と設置されている。

さらに、石油会社やガス会社をはじめ、ある程度大きな会社であれば、自家発電所も含めて、発電所は電力会社でなくてもつくれる動きになってきた。すなわち、電力ビジネスに参入する障壁が低くなってきたのである。例えば、経済産業省 資源エネルギー庁の発表(2014年6月9日)によれば、新電力(特定規模電気事業者、PPS:Power Producer and Supplier)への参入は244社にも達しており、電力ベンチャー時代を迎え始めた様相を呈している。

さらに、例えば、国内最大級規模の電力卸供給事業者(IPP:Independent Power Pro-ducer)で、すでに140万kWの発電設備をもち、関西電力向けに電力卸売(IPP)事業を行っている神戸製鋼は、さらに140万kW(供給開始時期:2021年度〜2022年度目処)の増設を発表(2014年4月25日)するなど、新しいビジネスモデルに挑戦してきている。

〔2〕 発電所と送電・配電を分離する「発送電分離」

前述した中央給電指令所は経済性の最適化を考えて、発電所の稼働計画を立てるが、その場合、すべて自社の発電所であればよいが、電力の自由化が行われると、その中にいろいろな会社の発電所が混在してくる。発電所とは稼働していくらの事業であるから、公平なメカニズムで発電所に出番を与える必要が出てくる。これを実現するには、従来の電力会社が一体の設備としてもっている、発電所と送電・配電を分離する「発送電分離」が必要だという議論が出てくる。

すなわち、中央給電指令所も含めて、電力ネットワークを扱う組織は、公共財的な位置付けであり、発電所をつくって電気を売ろうという人は、ビジネスとして公平に競争できるようにする必要がある。そこで、電力ネットワーク(送電・配電網)を、電力会社が自社の発電所だけではなく、他社の発電所にも同じように公平な経済原則の下で稼働の機会が生じるように運用すべき、との観点を含めて政府の審議会で議論が行われ、発送電分離の方向性が示されたのである。


▼ 注4
国の制度によるのではなく、経済的な要因によって、規模の経済が働く場合に、自然に発生する独占状態のこと。

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