[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

240社を超えた新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力取引所」の役割と課題 ─第1回─

2014/07/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

図3は、「日本卸電力取引所」のWebサイトで公開されているスポット取引の結果である。グラフの横軸は、0時から夜中の24時まで24時間の目盛となっている。価格の曲線を見ると、ビジネスが開始される朝(8:00)になると電力の需要が立ち上がり、昼休み(12:00)に少しくぼむ。その後、ビジネス活動を再開する13:00から午後のピークが続き、終業後の夕方(18:00)から少し下がり、さらに夜中になって徐々に下がっていくことが見てとれる。夜中でも動いている負荷もあるので、ある程度の需要はあるということもわかる。

それぞれの電力事業者が、毎日このような需要曲線(ロードカーブ)に合わせて電源となる発電所の運用計画を立てるわけである。もちろん、土曜・日曜は平日とは少し違うし、季節によっても違うロードカーブとなる。このような需給の実勢が取引の結果に反映されており、それを発信するのが取引所の重要な機能である。

〔2〕スポット取引とは:1日前市場

図3をもう少し詳しく見てみよう。

図3に示すスポット取引とは、卸電力取引所で行われている電力取引市場のひとつで、「Day Ahead market」(DA市場)とも言われる。インデックス情報とは、24時間の平均の電力価格の指標のことである。

スポット取引とは、次の日(翌日)に発電または販売する電気の量(最低の取引単位は1コマ当たり1,000kW)を1日前(前日)までに入札しておき、その入札した電気の売買を成立させる仕組みである。このため、1日前市場と呼ばれることもある。

電力のスポット取引は、図3に示すように、1日(24時間)当たり48コマの電力商品がある。すなわち1コマ30分(24時間÷48コマ)単位で取引されている。電気を売る側としては発電会社、新電力、一般電気事業者(9電力会社)などがあり、買う側としては、新電力や一般電気事業者などがある。具体的には、売る側は取引日までに「売りたい電気の量と価格」を、買う側は「買いたい電気の量と価格」をインターネット経由で申し込んでおく。日本の卸電力取引所が扱う市場は、沖縄を除く全国市場となっている。

〔3〕実際のスポット取引の場合

次に、図3に示す実際のスポット取引の場合(2014年6月12日受渡分の場合)を見てみよう。

図3の「システムプライス」のグラフには、1日前の6月11日に取引された翌6月12日の0時から24時までの電気(受渡分)の卸価格が30分刻みでプロットされている。図3の右上には、6月12日分の合計電力量TTV(Total Transaction Volume)が、33,665,500kWh(約3,400万kWh、1日分)と記入されている。この3,400万kW/日は、1年(365日)に換算すると、約120億kWh(3,400万kW/日×365日)程度になる。

120億kWh/年がどれぐらいの規模かというと、東京電力の販売電力量が2,700億kWh/年であり、その3倍程度がほぼ全日本の電力量である(8,500億kWh/年)。この卸売取引所を通っている電気は、今はまだ日本全体の1〜2%ぐらいということになる。これに対して、外国の取引所のシェアは、もっと多くなっている。

図3のインデックス情報は、卸電力価格の例えば24時間の平均値である。10円/kWhを切っていた時期もあるが、現在は、原子力発電がほぼすべて停止していることなどもあり、図3に示すように15円/kWhを上回る水準となっている。

ここで、図3に示す用語を簡単に説明すると次のようになる。

DA-24:Day Ahead 24 hours、24時間の平均価格。
DA-DT:Day Ahead Day Time(8:00−22:00)、電力会社の約款でいう昼間の時間(8:00−22:00)に当たる。
DA-PT:Day Ahead Peak Time(13:00−16:00)、1日前のピークタイムであり、電力会社が節電をお願いする時間帯でもある。
TTV:Total Transaction Volume、1日の合計電力量(kWh)である。図3では、33,665,500kWhとなっている。
システムプライス:30分ごとの電力卸価格(1日で48個)の推移をプロットして示したもの。図3に示すように、深夜の0:00〜6:00の間は15円/kWh円を切っている。また、9:00〜18:00の間は20円程度に上昇していることがわかる。その後18:00以降(夜)は徐々に下がっていく。

図3の下に示す棒グラフは、30分刻みで1日分は48本立っている。このグラフの縦軸に示す1,000の箇所は100万kWの高さであり、大体100〜150万kW、すなわち大型の原子力発電1基分が、この卸電力取引所を通っていることになる。これが先述した全日本の電力需要の1%強となり、1つの県ほどの電力量に相当する。

現在、卸電力取引所では、先述した取引形態のうち、スポット市場(前日スポット市場)が一番メインの市場となっている。

また、図3には電力価格の指標が表示されているが、これを使えば電力の先物取引も可能である。政府の審議会では電力の先物取引をやってはどうかという議論もされているが、当所の価格指標を用いた金融的な取引は現在でも実施可能である。


◆図3 出所
〔出所 http://www.jepx.org/

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