IoTシステムと企業情報システムの違い
周知のように、企業情報システムを構築する場合、各種データは必ずデータベースに格納することが原則であった。データベースに蓄積したデータをもとにウェアハウス(時系列に整理された大量の統合業務データ)をつくったり、あるいはバッチシステムによってデータを一括処理していた。
しかし、例えばビデオ・サーベーランス(映像監視)のようなケースでは、大量なストリーミングデータ(音楽や映画のように受信しながら再生するデータ)が次々に発生するため、データベースに蓄積するということ自体に意味がない。人間の行動に関する映像、例えば不審な行動をする怪しい人間などのイメージデータは、なるべく早い時点で、アラート(警告)を発することが重要となる。この場合は、極端な話ではあるが、画像のフレームは、1フレームや2フレーム落ちてしまってもよい。また、このような映像監視システムでは、ネットワークにデータがストリーミングしている(送受信されている)間に、映像データをリアルタイムに分析するような手法が求められる。
以上の例に見られるように、IoTシステムを設計する場合は、非常に複雑なシステムであると同時に、短期間で、かつ安いコストで設計することが求められる。そこで、IICでは、新しいIoTデザイン・チャレンジに向けて、IIRAの役割が重要となる。
IIRAのインダストリアル・インターネット・ビューポイント
〔1〕IIRAの3つのハイライト
次に、IISの心臓部でもあるIIRAについて、もう少し詳しく見てみよう注7。
IIRAは、IICのテクノロジーWGによって策定された、全17章で構成され101ページのドキュメントであり、「IIRA Version 1.7」(2015年6月)が最新バージョンである。
このIIRA注8に関して、ここでは、IIV(インダストリアル・インターネット・ビューポイント)、すなわちIISシステムを、どのような視点(ビューポイント)から考察すればよいかを中心に解説する。
このIIVには、図2に示すように、①ビジネス・ビューポイント、②ユーセージ(利用)・ビューポイント、③ファンクショナル(機能)・ビューポイント、④インプリメンテーション(実装)・ビューポイントという4つのビューポイントがある。
図2 IIV(Indusirial Internet Viewpoint)の4つのビューポイントの構成
出所 山本 宏(IBM)『Experimental IIRA adaptation to the actual IoT solution』、2016年6月3日
〔2〕4つのビューポイント
この4つのビューポイント(視点)は、図2の右側に示すように、システム設計から見ると、それぞれ求められる要件定義注9(上流工程)から、ユースケース(使用例)、論理設計、物理設計(下流工程)に対応している。
次に、図2中、赤字で示した部分を中心に、例を挙げて解説していく。なお、表1に示すように、この4つのビューポイントについて、例えば、一番上のビジネス・ビューポイントと一番下の実装ビューポイントとでは、立場によって、システム(IIS)の見え方(視点)が、かなり異なって見えることがわかる。
表1 4つのビューポイントの内容
出所 山本 宏(IBM)『Experimental IIRA adaptation to the actual IoT solution』、2016年6月3日
▼ 注7
IIRA:「Industrial Internet Reference Architecture Version 1.7」、2015年6月、http://www.iiconsortium.org/IIRA-1-7-ajs.pdf
▼ 注8
IIRAに関しては、1IIV(Industrial Internet Viewpoint、インダストリアル・インターネット・ビューポイント)、2セキュリティーとプライバシー(Security, Trust and Privacy)、3どのようなサービスを提供するか(Dynamic Composition)という3つのハイライト(IIRAの価値)がある。
▼ 注9
要件定義:システムを開発する場合、開発する前にシステムに組み込む(実装)機能や性能などを明確にしていく作業のことで、上流工程とも言われる。