[特集:特別対談]

可決・成立した新FIT法と再エネ・新エネ戦略〔後編〕―地域に産業と雇用が生まれるビジネス構造への転換―

経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー課長 松山 泰浩 vs. 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
2016/08/03
(水)
SmartGridニューズレター編集部

20年後のビジョン: 自治体の自立と超スマートシティ

〔1〕地域のゴミ発電所と人口問題

江崎:私のほうから提案したいことが2つあります。

 1つは、ゴミ処理場の発電についてです。

 東京都はゴミの焼却によって発電した電気をかなり外に売っている(例:図2参照)。普通の規模の焼却所が500kWくらいの規模の発電所になっていて、500kWというと、だいたい大きいビル1棟分くらいを賄える。火力によって蒸気を発生させて発電しているので当然水も出て、水素も簡単に作れてしまう。熱も出るので隣はだいたい温水プールなんですよ。つまり、コジェネ注4ができて水もあるという、これは実は病院が一番欲しいものなのです。ゴミ発電所の隣に病院を作るなんて、ほとんどの人があまりいいイメージをもたないと思いますが、病院と高齢者用の施設をくっつけると、ものすごくエネルギー効率的にいいのです。

図2 清掃工場における発電と熱併給(コジェネ)の仕組み

図2 清掃工場における発電と熱併給(コジェネ)の仕組み

出所 http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/pickup/20150423.html

 さらにショッピングモールをもってくると、モールに遊びに行って、おじいちゃんやおばあちゃんのところに寄って子供はお小遣いをもらって帰る、というモデルが作れる。ある意味エコシステムができるわけです。また、駐車場があり、食べ物と医療があるので、このような場所は避難所にも一番いいのですよ。

松山:なるほど。

江崎:つまり、自治体の自立と、超スマートシティみたいな話とを組み合わせられる。そのためには資金がやはり必要です。そう考えると、やはり、20年後の未来を作るための制度だと言えるでしょう。

 もう1つの私からの提案は、以前、国土交通省の全国総合開発計画の責任者の方にお話を聞いた際に出てきた、「日本は今後人口が減る」ということについてです。

 現在の政令指定都市ですら、市として成立しなくなるようなところがある。ですが、小さくなったもの(人口が少なくなった市)同士をものすごく速いトランスポート注5でつなぐと、1つの市になります。つまり、コンパクト化、ネットワーク化して組み合わせることによって、1つのシティとして成立させようというのが、これからのプランなのだそうです。

 同じことを、エネルギーで行ってもいいのです。ソーラーパネルをつないで大容量の給電システムを作ることができれば、これが1つのシティになりますよね。そのとき伺った話ですが、人口減に悩む2つの市に1個ずつ病院があるが、その間が自動運転できる速い高速道路になれば、病院は1個にしてもいい。そこで集約化されてコストが安くなる、というシステムがいいのではないか。水素自動車や電気自動車を、2つの間に専用道を作って走らせればうまくいくのではないか、と。

松山:面白いですねえ!

江崎:今、仲間とこういう計画の議論を行っています。政府が描く20年後のビジョンの中に、例えば、私たちが今考えているアイデアを入れられると面白いかな、と思っています。

〔2〕次なるビジョン:売電モデルから消費モデルへ

松山:この次のビジョンがそういう話になってきます。

 ここまで、ビジネスの姿として話をしてきました。特に太陽光が向かう先は、メガソーラーを軸とした電力供給の源としての姿です。できるかぎりそれが大規模にネットワーク化していくのが1つの流れです。

 もう1つが、売電モデルではなく、いま江崎先生がおっしゃった地域や消費と一体化させて暮らしをどう作っていくか、という議論です。その一番軸になるのが「家」なのですね。

 屋根置きの余剰太陽光を軸としつつ、自宅で発電してそれを自宅で使うゼッチ(ZEH、ゼロ・エネルギー・ハウス)を進めていく。これを、建物全体としてのゼブ(ZEB、ゼロ・エネルギー・ビルディング)に広げて、さらに地域全体のゼロ・エネルギー・コミュニティに広げていく、という議論があり、私たちもそれらを推進しているところです(図3)。売電価格はだんだん下がっていきますから、それに伴って「売る」から「使う」ほうへ変わるだろうと考えます。

図3 ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の定義

図3 ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の定義

出所 経済産業省 資源エネルギー庁、省エネルギー対策課、ZEHロードマップ検討委員会「とりまとめ」、平成27年12月、http://www.meti.go.jp/press/2015/12/20151217003/20151217003-1.pdf

 その1つの契機として、2019年をターゲットにしています。いわゆる「2019年問題」です。余剰買取制度注6は2009年11月1日に始まったので、10年後の2019年10月末で切れるのです。この買取期間が切れてもパネルはある。そこから先は、「売ると8円/1kWh、使うと24円/1kWh」という時代になってくるので、ビジネスモデルがパラダイムシフトを起こすはずです。これは住宅メーカーもパネルメーカーもみな同じなので、まさに先生のおっしゃったモデルに近くなってくると思います。

江崎:なるほど。

松山:地域のレベルで考えると、商業ビルや工場などでの低圧(50kW未満)の自家消費型の太陽光発電器というものが、ここから新たな動きとなるでしょう。これを応援していって、それをコンパクトシティとしてつなげていき、コジェネをつなげるという動きがこれからどんどん起こってくるはずです。そして、これと地域づくり・街づくりというのはすごく相性のよい世界だと思うのです。

 今後、2019年をターゲットとしていろいろなことが起こってくるはずです。デベロッパー、発電事業者、小売電気事業者などによるプロジェクトや、VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)なども、それにつなげていきたい、というのが次のコンセプトなのです。そこがうまく動けば、国土交通省、総務省、厚生労働省など、いろいろな省庁とつながってくるのだと思います。


▼ 注4
コジェネ:コジェネレーション(Cogeneration)。熱と電力を同時に供給する熱電併給システムのこと。石油やガスを燃焼させて発電を行う場合、従来は大気中に廃棄していた排熱を回収して冷暖房や給湯などに利用する。すなわち1種類のエネルギー源から複数のエネルギーを取り出して利用すること。

▼ 注5
速いトランスポート:超高速の交通インフラのこと。田舎では車になるが、ここで自動運転のみの高速道路にすれば、車は、200km/hくらいで走ることが可能になる。マイカーに1人乗る形態ではなく、シェアード・ライド(Shared Ride)なども導入可能となる。高速道路の近くに、動きにくい人々の住居を作って、ここに、介護施設や病院を置けば、流通の拠点にもなる。

▼ 注6
太陽光発電の余剰電力買取制度。2009年11月1日〜2012年7月1日に実施されていた制度。現在は固定価格買取制度(FIT)に移行されている。
国民全員参加による低炭素社会の実現を目的とし、太陽光発電によって発電した電力のうち、余剰電力(使い切れずに余った電気)を電力事業者(大手10社)が買い取り、その買い取り費用は電気料金に上乗せされ、電力利用者が公平に負担するという制度。

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