[特集:特別対談]

可決・成立した新FIT法と再エネ・新エネ戦略〔後編〕―地域に産業と雇用が生まれるビジネス構造への転換―

経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー課長 松山 泰浩 vs. 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
2016/08/03
(水)
SmartGridニューズレター編集部

被災地の経験から出てきた自律的エネルギーのアイデア:エネルギー供給と暮らし

江崎:東日本大震災(2011年3月11日)の少し前に、コンテナ型のコジェネやデータセンターが流行り出しました。コンテナですから仮り置きで、自由に動かせます。コジェネがコンテナですと、災害地にそのままもって行って支援ができるのです。コジェネとデータセンターがあると、かなりのことが可能になります。

 また、2016年4月に発生した熊本地震では、米国によくあるトレーラーハウスで仮設住宅を作ることにしたそうです。余震が続くなか、比較的安定している場所に家ごともって行ってしまおう、というわけです。するとお年寄りたちが家ごと動ける。次にまた動かすこともできる。現在の不動産の構成は、土地があってその上に減価償却で建物を作っている。これが分離されると、土地の流通も速度が上がるし、建物が自由な場所へ移動できる。

 例えばソーラーパネルを設計する際にも、発電システムとして動かせるように作っておく。固定概念にとらわれずに設計していくと、先ほどのお話のように、地域が自律的に仕組みを作ることができる。例えば、シニア層が増えた場合にサポートできるインフラを作っていく、などです。現在30代くらいの人が首長になった頃に、どのようなポートフォリオ(発電構成)のインフラを提供するか、というビジョンの中にこういう考えが位置づけられています。

松山:20年後、30年後の世界で、高齢化が問題になったとき、見えてこないといけない世界は、「エネルギー供給」と「暮らし」なのだと思います。エネルギー供給をいかに柔軟にして、モビリティを高められるか。

 これを進めるうえでは、パッケージ化注7というのも課題です。ハウスメーカー各社はもう太陽光パネルを標準搭載して、約9割を造り付けている企業もあります。もう当たり前の時代になってきてはいますが、他方、中小工務店への広がりは遅れているのが実情ですし、既築住宅のリフォームを進めることも課題です。ですから、次に取り組みたいのは、中小工務店や既築向けに対していかにパッケージ化して広げていくかということなのです。

 今後の太陽光発電の導入拡大と暮らしや社会の改革については、将来に向けたロードマップを描かなければいけないと思っています。それには、地域との連携が不可欠です。昨年来、知事会などを通じて地域自治体の方々に問題提起を行い、議論を始めています。自家消費型の住宅モデル、地域モデルを実現し、そのうえで地域グリッドというものを作っていこう、エネルギーの面に着目して、未来型の暮らしや地域社会を作っていかないといけない、という議論です。

江崎:今後に期待しています。(終わり)

◎Profile

松山 泰浩(まつやま やすひろ)

松山 泰浩(まつやま やすひろ)

経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー課長

1992年 東京大学法学部卒業後、通商産業省(当時)入省
2001年 米国ミシガン大学経済学修士課程修了。
その後、環境エネルギー政策、IT政策、FTA政策、産業人材政策等に従事。
2009年 家電エコポイント制度の企画立案・制度実施を担当。
2009年7月より3年間、在ロンドン産業調査員として、欧州・中東の政策調査を担当。
2012年7月より、石油・天然ガス課長
2012年12月より、経済産業大臣秘書官
2014年9月より現職(新エネルギー対策課長:2016年6月より新エネルギー課長に名称変更)

江崎 浩(えさき ひろし)

江崎 浩(えさき ひろし)

東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授

1987年 九州大学 修士課程修了後、(株)東芝入社。
1990年より2年間 米国ニュージャージ州ベルコア社。
1994年より2年間 米国ニューヨーク市コロンビア大学CTRにて客員研究員。
高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。
1994年 MPLS技術のもととなるセルスイッチルータ技術を提案。
1998年10月より 東京大学 大型計算機センター助教授。
2001年4月より 東京大学 情報理工学系研究科 助教授。
2005年4月より現職(東京大学 情報理工学系研究科 教授)。
WIDEプロジェクト代表。ISOC(Internet Society)理事。
日本データセンター協会 理事/運営委員会委員長。工学博士(東京大学)。


▼ 注7
パッケージ化:ひとまとめにして機能させること。誰であっても同じクオリティの商品・サービスが提供できるという仕組み。

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