[特集]

「ネガワット取引市場」の創設を目指し動き出したVPP構築事業/DR実証事業

― 電力・ガス・通信・自動車・電機・コンビニなど多彩な企業が推進 ―
2016/09/01
(木)
SmartGridニューズレター編集部

続々とスタートする「ネガワット取引」に向けた実証事業

 次に、前述したVPP構築事業のうち、関西VPPプロジェクト(14社)や東京電力など9社によるリソースアグリゲーションビジネス実証事業、NTTファシリティーズ(東松山市と共同)による蓄電池を活用した高度制御型DR実証事業を紹介する。

〔1〕VPPプロジェクト1:関西VPPプロジェクト(14社)

(1)実証システム

 表2に示した、関西VPPプロジェクト(14社)は、関西エリアを中心とした企業内設備および一般家庭の設備を対象に、平成28(2016)年7月21日(交付決定日)から本格的なVPP実証事業を開始した〔期限:平成29(2017)年2月28日まで〕。

 同プロジェクトは、電力系統に点在する需要家の機器(以下、「リソース」)をIoT化して一括制御することによって、需要家の設備から捻出できる需給調整力注3を有効活用し、あたかも1つの発電所(仮想発電所)のように機能させる仕組み(図5)を目指す。これによって、電力系統における需給調整力が増強され、再エネ電源のさらなる導入・拡大を目指し、低炭素社会の実現に貢献していく。

図5 関西VPPプロジェクトが目指すVPP構築実証事業のイメージ図

図5 関西VPPプロジェクトが目指すVPP構築実証事業のイメージ図

出所 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/0728_3j.htmlhttp://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/pdf/0728_3j_01.pdf

(2)VPPのシステム構成

 VPPシステムでは、リソース(需要家の機器)の種別ごとに、統合サーバからの電力需要増減の指令に対する特性が異なるため、提供可能なサービスも異なる。そのため、図6に示すように、設備種別ごとにリソースサーバを構築し、統合サーバでリソースサーバ群を管理するシステムを構築する。

図6 関西電力グループのVPPシステム構成のイメージ図

図6 関西電力グループのVPPシステム構成のイメージ図

出所 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/0728_3j.htmlhttp://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/pdf/0728_3j_01.pdf

 統合サーバは、小売電気事業者や送配電事業者などとの取引に基づき、リソースの特性を考慮したうえで、各サーバに制御量を配分する。また、リソースサーバはその指令に基づいて、各リソースへの制御量を配分する。なお、各システムおよびリソース間の連携にあたっては、将来のリソースの量的拡大を見据えて、標準的な通信プロトコルを採用する。

(3)実証で検証する制御対象リソース

 VPPの制御対象としては、図7に示すリソースの活用が考えられるが、今回の実証では、図7に示す一部のリソース(ブルーで囲んだ機器)について、各事業者が連携しつつ、IoT化や監視・制御システムを構築する。また、今後、VPPの制御対象として活用できるリソースの種類・規模の拡大についても検討していく。

図7 VPPで活用できる需要家のリソース一覧

図7 VPPで活用できる需要家のリソース一覧

※1 上図の企業名は、それぞれのリソースの実証を行う企業 出所 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/0728_3j.htmlhttp://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/pdf/0728_3j_01.pdf

〔2〕VPPプロジェクト2:東京電力など9社によるリソース
アグリゲーションビジネス実証事業

(1)実証システム

 前出の表2に示した、VPP構築を通じたリソースアグリゲーションビジネス実証事業(9社)は、平成28(2016)年8月1日から本格的な同事業を開始した〔期限:平成29(2017)年3月31日まで〕。

 近年、太陽光発電などの再エネ導入が急速に進んだ結果、再エネ出力の大きな変動や余剰電力の大量発生といった、電力系統の安定運用に影響を及ぼすさまざまな課題が顕在化しつつある。電力系統を安定化させるためには、一般的に火力発電などによる「調整電力」が必要であるが、火力発電設備を保有・維持するためのコストが発生する。このため、継続的な再エネ導入と電力系統の安定化を低コストで両立させる新たな仕組みが必要とされている。

(2)実証事業の内容

 共同申請9社は、この実証事業を通じて、将来にわたる継続的な再エネ導入と電力系統安定化の両立を目的として、社会に分散して存在するエネルギーリソース注4をメガワット級の調整電力にするVPPの構築に取り組む。

 将来的には、需要家が所有する蓄電池、給湯設備、電気自動車(EV)、太陽光発電などの多種多様なエネルギーリソースもVPPの一部を構成し、それらエネルギーリソースが束ねられて1つの大きな電力として社会で利用されるよう、VPPを拡張していく。

(3)事業がもたらす価値

 今回の実証事業ではさらに、構築したVPPを活用する「リソースアグリゲーション事業」の可能性を検討する。リソースアグリゲーション事業は、電力事業者および需要家を顧客として、価値(サービス)を提供する。すなわち、リソースアグリゲータは図8に示すように、

 ①電力事業の各プレイヤー(送配電事業者、再エネ発電事業者、小売電気事業者:図8の上部)には要求に応じて調整電力を、

 ②VPPに参画した工場・オフィス・家庭などの需要家にはその対価を、

それぞれ提供する。需要家は、VPPという新たな仕組みを通じて、継続的な再エネ導入と電力系統安定化といった社会価値の創造に参画し、貢献できるようになる。

図8 リソースアグリゲーション事業の取り組みのイメージ

図8 リソースアグリゲーション事業の取り組みのイメージ

出所 http://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2016/1314752_8661.htmlhttp://www.tepco.co.jp/press/release/2016/pdf/160801j0101.pdf

 この事業は、世界的なエネルギー・環境課題の解決に向けて、VPPを社会で機能させるためのビジネスモデルである。共同申請9社はVPPの構築を通じ、社会課題を解決するためのICTをベースとしたエネルギーマネージメントシステム(EMS)と、リソースアグリゲーション事業のビジネスモデルの確立を目指す。この実証事業は、前述した経済産業省が主催している「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)検討会」とも同期して実施する。

〔3〕VPPプロジェクト3:蓄電池を活用したNTTファシリティーズのネガワット取引

(1)実証システム

 NTTファシリティーズは、「VPP構築実証事業(高度制御型デマンドレスポンス実証事業)」に応募し採択され(前出の表3)、埼玉県東松山市の公共施設などに設置した蓄電池を、高度に制御するネガワット取引のサービス実証事業を、2016年8月8日から開始した〔期限:平成29(2017)年1月31日まで〕。

 これらの事業を通じて、エネルギー・リソース・アグリゲーション注5サービスの提供につなげ、一層の省エネ社会の実現を目指す。

(2)事業内容

 同事業では、2015年度に構築したデマンドレスポンスシステムに、需要削減量(ネガワット量注6)の制御性を高める機能などを追加開発し、東松山市が保有する蓄電池を活用してサービス実証を行う(図9)。この実証によって、需要家の需要変動に追従する「蓄電池制御アルゴリズム」(処理手順)やその有効性などの検証を行い、精度の高いネガワット取引の実現を目指す。

図9 NTTファシリティーズと東松山市の実証事業の実証イメージ

図9 NTTファシリティーズと東松山市の実証事業の実証イメージ

DRAS:Demand Response Automation Server、DR(デマンドレスポンス)信号の送受信を自動的に行うサーバ。
出所 http://www.ntt-f.co.jp/news/2016/160808.html

(3)事業の特徴

 2016年度の高度制御に関する実証事業の要件「需要削減量がDR削減要請量に対し±10%の範囲から外れないこと」を満たすため、次のような開発を目指したアルゴリズム(処理手順)を導入する(図10)。

図10 NTTファシリティーズと東松山市の実証:蓄電池制御のイメージ

図10 NTTファシリティーズと東松山市の実証:蓄電池制御のイメージ

出所 http://www.ntt-f.co.jp/news/2016/160808.html

 ①DR通知から開始までの10分以内に、各施設に設置した蓄電池残量を計測するとともに、DR時間中の電力需要を予測し、DR契約容量注7を達成するための最適な蓄電池制御計画を策定し、需要削減を実行する(図10左)。

 ②DR発動期間中は、削減要請量と計量した需要削減量との乖離を確認し、実績が±10%の範囲内に収まらない場合は蓄電池放電量を見直し、新たな制御指示を行う(図10右)。

(4)今後の展開

 今後は、同事業で得られる蓄電池の高度制御に関するノウハウなどを活かし、次のようなサービスを展開していく。

 ①省エネサービスを提供する需要家に対して、需要家自身のエネルギーコストとCO2の削減を実現することに加え、需要家のエネルギーリソースを活用したネガワット取引を行うことによって得られるメリットを還元する。

 ②需要家の施設に設置されるエネルギーリソース〔創エネルギー機器・設備(再エネ発電設備、エンジンなど)、蓄エネルギー機器・設備(蓄電池)、負荷機器・設備(照明、空調など)〕をIoTでつなぎ、遠隔監視によって機器の劣化判定や保守運用を実現する。


▼ 注3
需給調整力:従来、電力の需給調整は、火力発電所の稼働・停止など、「供給側」で行ってきたが、VPPでは晴天時に太陽光の出力が増えた場合など、電気が余る場合は需要家の設備である蓄電池を充電することで需要を創出し、逆に、供給力不足の場合は、蓄電池から放電を行うなど、「需要側」で需給の調整を行うことを目指す。

▼ 注4
蓄電池などのエネルギー設備やデマンドレスポンスなどの電力を消費する需要家側の取り組みを含む。

▼ 注5
エネルギー・リソース・アグリゲーション:需要家などの①創エネルギー機器・設備(再エネの発電設備、エンジンなど)、②蓄エネルギー機器・設備(蓄電池)、③負荷機器・設備(照明、空調など)をIoTにより集約し、1つのエネルギーリソースとして機能させること。

▼ 注6
需要削減量(ネガワット量):ベースライン(DRがなかった場合の需要量)から計量した需要実績値を減算した値。

▼ 注7
DR契約容量:一般送配電事業者に対して提出する、DR発動時間における需要削減容量のこと。

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