誰が最初に「ネガワット」(Negawatt)と言ったのか?
ネガワット(Negawatt)とは、「節電」のこと(電力消費を抑えること)である。これに対して、「発電」のことをメガワット(Megawatt)あるいはポジワット(Posiwatt)という場合がある。
ネガワットとは、例えば、真夏などにエアコンなどの冷房温度を3℃上げて電力消費を少なくする「節電」のことであり、その「節電した(使用されなかった)電力分」をあたかも「発電した電力」であるかのように取り扱うのが、ネガワット取引である。
例えば、従来の消費電力100Wの白熱電球を最新のLED電球に取り換えた場合を比較すると、100Wの白熱電球と同等の明るさを実現できるLED電球の消費電力は、わずかその1/5の20W程度で済むため、80W(=100W-20W)も節電できることになる注1。
このネガワットを最初に提唱したのは、米国の国際的なエネルギー学者の、エイモリー・ロビンス博士(Dr.Amory B. Lovins)注2である。
ロビンス博士は、図1に示すように、The Conference Board(全米産業審議会)が発行するマガジンの1990年9月号に、‘THE NEGAWATT REVOLUTION(ネガワット革命)’という論文を発表している注3。
図1 ロビンス博士の論文「ネガワット革命」を掲載した、The Conference Boardマガジンのタイトル(第27巻第9号1990年9月発行)
この論文では、ネガワットを‘Negawatts(saved watts)’、すなわち「セーブされたワット」(節電)と表現している。また、ロビンス博士は、同論文の中で、名案(Bright Idea)として、当時、白熱電球を蛍光灯に換えると75%節電できることを写真で紹介している注4。
さらに、博士は、有名な著書『ソフト・エネルギー・パス(Soft Energy Paths、ソフト・エネルギーの道)』を出版注5しているが、この本のテーマである「ソフト・エネルギーの道」(ソフト・パス)では、エネルギー供給の中心を太陽光、風力などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)におき、今後は、電力の供給を増大させるのではなく省エネによって需要減を目指す道を示した。
増大するエネルギー不足を、従来の限りある石油や石炭、あるいは原子力などでまかなおうとする「ハード・エネルギーの道」(ハード・パス)は、今後、設備コストの異常な上昇、困難な核廃棄物処理などによって行き詰ってしまうことを、ここで指摘している。来たるべき破局が来る前に、「ソフト・パス」の道を選ばなければならないことを提言した。
このような太陽光、風力、小規模水力などの再エネによる分散電源が、従来の大型火力発電などにとって代わることが可能であるというロビンス博士の先見性のある提言は、まさに、今日注目されているVPP(仮想発電所)とも大きな共通点がある。
▼ 注1
この「-80W」のことを「80Wのネガワット(Negawatt、節電)」と言う。言い換えると、「減少させた分の電力(80W)を発電したのと同じ効果がある」という考え方である。
▼ 注2
ロビンス博士の略歴:エイモリー・ロビンス博士(Dr. Amory B. Lovins)。1947年11月13日生まれ。物理学者。米国ハーバード大学卒業後、さまざまな大学で教鞭をとる。1982年に米国コロラド州に、非営利団体「ロッキーマウンテン研究所」を設立し、同研究所の会長。名著『ソフト・エネルギー・パス―永続的平和への道』(時事通信社、1979年)や『Small Is Profitable(分散電源は高い収益を生む)』(省エネルギーセンター、2005年)、研究論文‘THE NEGAWATT REVOLUTION’など、数百にのぼる著作物を発表。2013年2月には、日本で「KYOTO地球環境の殿堂」を受賞。http://www.eco-linx.jp/amory/
▼ 注3
The Conference Board(全米産業審議会。米国の民間経済調査機関の1つ)が発行するマガジンの第27巻第9号(1990年9月発行)
▼ 注4
まさに今日のように、「蛍光灯」を「LEDランプ」に換えて節電するイメージである。
▼ 注5
“ Soft Energy Paths”,Friends of the Earth Inc.(地球の友社)から、1977年に発行されている。