[特集]

ガスの小売全面自由化に向けて動き出したガス業界

― ガスエネルギーの新・市場規模は2.4兆円へ ―
2016/10/13
(木)
SmartGridニューズレター編集部

ガス小売全面自由化に向けたガス・水道スマートメーターの実証

〔1〕ガススマートメーターの設置・実験

 一方、目前に迫った、ガス小売全面自由化に向けて、東京電力と東京ガスは、2016年1月から、東京電力のスマートメーターおよびスマートメーターシステムを活用した、東京ガスの検針業務の自動化に関する共同実証試験を開始している。

 具体的には、表4に示すように、東京都小平市の約500戸の住宅において、東京電力がすでに顧客宅に設置しているスマートメーター(電気メーター)と、東京ガスが新たに設置した試験用のガスメーターを無線通信で接続したうえで、東京電力のスマートメーターシステムを活用し、東京ガスが試験用ガスメーターの検針データを取得する通信試験を実施している。

表4 東京電力・東京ガスの共同実証試験の概要

表4 東京電力・東京ガスの共同実証試験の概要

出所 プレスリリース「東京電力、東京ガス」、平成27(2015)年12月21日

〔2〕共同実証試験のシステム構成

 東京電力・東京ガスの共同実証試験のシステム構成は、図6に示すように、①東京ガス設備側のゲートウェイと②東京電力設備側の電力スマートメーターを920MHz帯のWi-SUN(無線国際標準規格IEEE 802.15.4g)で接続されている。

図6 東京電力・東京ガスの共同実証試験のイメージ

図6 東京電力・東京ガスの共同実証試験のイメージ

出所 プレスリリース「東京電力株式会社、東京ガス株式会社」、平成27年12月21日

 東京電力設備側の電力スマートメーターからは、

(1)一方は、携帯網(3G)の基地局経由でスマートメーターシステムと接続し、さらに東京ガス設備の実証試験用システムと接続する。

(2)他方は、Wi-SUNで電柱上に設置されたコンセントレータ注15を経由してスマートメーターシステムと接続し、さらに東京ガス設備の実証試験用システムと接続する。

というように、2つのルートで通信する実験が行われた。これによって、東京ガス設備側に設置された試験用ガスメーターのガス検針業務を自動化できる可能性を実証した。

写真 ガススマートメーターの外観

写真 ガススマートメーターの外観

出所 ガススマートメーターに関する当社(東京ガス)の取組み状況

 東京ガスでは、これらの実証実験をふまえ、さらに研究開発を重ね、2018年から一般家庭へガススマートメーター(写真)を設置していく予定となっている。

(3)また、図6左の東京ガス設備側に設置された試験用ガスメーター(ガススマートメーター)は、920MHz帯のWi-SUN上にUバスエアを搭載した無線通信機を通して、マルチホップ(多段:芋づる式)通信を行っている。

 このUバスエア規格は、都市ガス業界、LPガス業界、水道メーター業界が参加する「NPO法人テレメータリング推進協議会」において標準化されている無線用の通信規格で、スマートメーター用の無線国際標準規格IEEE 802.15.4gに準拠している。

〔3〕横浜市がガス・水道メーター無線自動検針に挑戦

 また、国際都市である横浜市は、東京ガス、日立製作所とともに日本で初めて、横浜市水道局が管理する市内2地区の集合住宅合計32戸において「ガス・水道メーター無線自動検針システム」の実証実験を進めてきた〔図7左:実証期間は平成27(2015)年4月から平成28(2016)年3月まで〕。

図7 横浜市のガス・水道メーター(愛知時計電機製)無線自動検針システム

図7 横浜市のガス・水道メーター(愛知時計電機製)無線自動検針システム

出所 http://www.city.yokohama.lg.jp/suidou/press/press-20160330.html

図8に、水道・ガスメーター無線自動検針システム実証実験の現場における実証実験の状況を示す。

図8 水道・ガスメーター無線自動検針システム実証実験の概要

図8 水道・ガスメーター無線自動検針システム実証実験の概要

出所 http://www.jwrc-net.or.jp/kenshuu-koushuu/handout/sk02_04.pdf

 この平成27(2015)年度の検証では、自動無線検針による正確な検針や通信成功率に問題もなく十分な結果が得られた。また、ガスと水道使用量データの同時取得による「見守りサービス」など付加価値の活用にも一定の成果が見込まれる。

 平成28(2016)年度(2016年4月1日〜2017年3月31日)は、これまでの実証実験に加えて、戸建住宅(4戸)の実証を行っている(図7右)。

図9 無線通信機能付水道メーターユニットのイメージ

図9 無線通信機能付水道メーターユニットのイメージ

出所 http://www.aichitokei.co.jp/news/20160330.pdf

 戸建住宅への利用を想定した実証実験として、これまで国内で活用事例がない、日本初の「Uバス通信機能付き電子式水道メーター(図9)注16」(愛知時計電機製)を利用する。インフラ共用による将来的な「見守りサービス」のモデル化も見据え、データの複合的活用などを検証する計画となっている。図7右における通信は、量水器ボックス(水道メーター)から多段中継無線機まではUバスエアを搭載したWi-SUNによるマルチホップ通信で行い、多段中継無線機から自動検針システムまでの広域通信は、PHSで通信している。

*    *    *

 以上、2017年ガス小売全面自由化に備えた、電気とガスの一体的な制度改革による総合エネルギー市場がどのように創出されていくのかを、国のエネルギー基本計画の流れに沿って、電力システム改革専門委員会やガスシステム改革小委員会の役割を見てきた。

 また、日本のガス産業の現状を見ながら、ガス小売全面自由化に向けた、先進的な横浜市のガス・水道メーター無線自動検針システムの実証も見てきた。

 電力小売全面自由化とは異なるガス小売全面自由化が、日本に新しく歴史的な総合エネルギー市場を創出していくことになるのか、今後に期待したい。


▼ 注15
コンセントレータ:各家庭のスマートメーターからの情報を集約する屋外の装置(電柱上に設置されるケースが多い)。

▼ 注16
NPO法人テレメータリング推進協議会で、平成28(2016)年3月29日に標準化された、「Uバス通信機能付き電子式水道メーターインターフェース仕様書」に準拠した水道メーターである。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...