電力・ガスの一体的な制度改革
このようなガス小売全面自由化に向けた新しい動きの背景には、法制度の面からと、政府の「エネルギー基本計画」がある。
〔1〕法制度:改正電気事業法の第3弾
まず、法制度面からは、日本の電力・ガス・熱供給などのエネルギーの全面自由化を目指して「電気事業法等の一部を改正する等の法律」(改正電気事業法)の第3弾(発送電分離ほか)が2015(平成27)年6月17日に成立し、同月24日に公布された注6。
第1弾(電力広域的運営推進機関)、第2弾(電気小売全面自由化)に続く、この第3弾(送配電分離ほか)の法律は、第1弾、第2弾と異なり、歴史的な法律となっている。
すなわち、第3弾は、電力・ガス・熱供給に関するエネルギー分野の一体改革を行うため、電気事業法、ガス事業法、熱供給事業法、経済産業省設置法等を改正する「総仕上げの法律」となっており、第1弾、第2弾の改正電気事業法とは大きく異なるものとなっている。
この第3弾の改正電気事業法には、次の内容が盛り込まれている。
(1)法的分離による送配電事業及びガス導管事業の中立性の確保
(2)小売電気料金・小売ガス料金の規制の撤廃に係る措置の整備
(3)ガスの小売業への参入の全面自由化
(4)ガス供給における需要家保護と保安の確保
(5)熱供給事業者注7に対する規制の合理化及び需要家の保護
(6)電力・ガス取引監視等委員会の設立を図る等の措置
〔2〕エネルギー基本計画と2つの委員会
また、電力システム改革の断行や、ガスシステムおよび熱供給システム改革の推進を明確にした、政府の「エネルギー基本計画」(2014年4月注8)も大きな影響を与えている。
このエネルギー基本計画の流れと前後(同期して)して開催された、
(1)電力システム改革専門委員会注9
(2)ガスシステム改革小委員会注10
における議論などをベースに実施された、電力・ガスの一体的な制度改革は、図2に示すように、日本に新しく「総合エネルギー市場」を拓き始めている。
すなわち、従来は地域独占であった電力市場も都市ガス市場もともに開放され、その垣根が取り払わる流れができた。まず電力が先行し、次にガスの小売全面自由化が行われるなど、新しいビジネス機会が到来しようとしている。
これによって、図2に示すように、電気事業者がガス事業を、ガス事業者が電気事業を、さらにIT企業や自動車企業から石油、LPガス企業などに至るまで、異分野からの参入も活発化し、総合エネルギー市場を形成し始めている。この結果、異業種間の新しい連携やアライアンスをはじめ、サービス内容も電気とガスのセット販売から通信(モバイル)も含めたセット販売、さらにポイントカード企業との連携など、従来では考えられないようなサービスが続々と登場している。
今後、さらに、現在敷設の途中にある電気メーター(スマートメーター)の設置の進展や、2017年のサービス開始に向けたガススマートメーターが導入されるようになれば、スマートメーターを利用した、より魅力的なサービスが登場すると期待されている。
〔3〕エネルギーシステム改革のスケジュール
(1)電力・ガス取引監視等委員会のスタート
図3は、このように進展する、電力とガスの一体的な制度改革、すなわちエネルギーシステム改革のロードマップを示したものである。
図3の下段に示す電力取引監視等委員会は、①小売全面自由化などを踏まえた電力の取引の監視、②ネットワーク部門の中立性確保のための行為規制の実施等を行うために設立(2015年9月1日)されたが、2016年4月1日から、同委員会の所掌事務に、ガス事業法および熱供給事業法に関する事務が追加されたことに伴って、委員会の名称が「電力・ガス取引監視等委員会」に変更された。
(2)ガス導管部門の法的分離:2022年4月1日から
また、2017年4月1日からガスの小売全面自由化のあと、(2020年4月に電力の送配電部門の法的分離を経て)2022年4月1日に、ガス導管部門の法的分離が行われる予定となっている。ガス導管部門の法的分離は、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手3社が予定されている。
参考のために、表1に日本のガス事業のプロフィールを、表2にガス事業者の種類と需要の区分を、表3にガス事業者別データ(上位10事業者)を示す。ガス導管の場合、電力網のように全国的なネットワーク(導管)が整備されていない(例:電力網は鉄塔で山を越えているが、ガス管は山越えが難しいなどの理由もある)。
表1 日本のガス事業のプロフィール(平成25年3月末現在)
出典 一般ガス事業及び簡易ガス事業:ガス事業便覧、LPガス販売事業:資源エネルギー庁調べ
出所 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/gas/summary/
表2 ガス事業者の種類と需要の区分
※1 一般ガス事業者について
※2 簡易ガス事業について
出所 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/gas/summary/
表3 ガス事業者別データ(上位10事業者)
出所 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/gas_system/pdf/01_05_00.pdf
また、一般ガス事業(209社)、簡易ガス事業(1,452社)、LPガス販売事業(21,052社)とガス事業者の数も電気事業者に比べてケタ違いに多く、全国的に中小規模のガス会社が営業しているが、実際には、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手3社でガス売り上げの70%を占めている。さらに、ガス導管の距離も長く3社で約13万km(表3)も保有していることなどの理由もあり、この3社の導管の法的分離が検討されている。
▼ 注6
「電気事業法等の一部を改正する等の法律」:2015年6月17日成立
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/system_reform006/
▼ 注7
熱供給事業:冷水や温水などを1カ所でまとめて製造し、熱導管を通じて複数の建物に供給する事業。日本熱供給事業協会の「全国の地域熱供給事業者一覧」を参考されたい。
▼ 注8
http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf
▼ 注9
電力システム改革専門委員会:2012年2月からスタートし、2013年2月まで12回開催。
▼ 注10
ガスシステム改革小委員会:2013年11月からスタートし、2016年6月まで33回開催。