東日本大震災の規模と被害
まず、東日本大震災の被害状況を見ていく。
〔1〕東日本大震災の規模
東日本大震災は、東北地方で西暦869年に発生した貞観大地震以来の大地震である。地震は、2011年3月11日14時46分に、宮城県三陸沖の北緯38.1°東経142.5°、深さ24kmを震源として発生し、地震の大きさを示すマグニチュードは9.0であった。最大震度7の激震に加え、東日本太平洋地域の広範囲にわたり巨大津波を発生させた。
大津波の規模は海岸部の地形により異なるが、多くの地域で巨大な津波が観測されており、現地で行われた調査によれば、特に岩手県大船渡市で16.7m、宮古市で9.3m、福島県相馬市で8.9m、宮城県石巻市で7.7mと報告されている注2。
なお、東日本大震災の規模であるマグニチュード9.0は、日本における観測史上最大規模であり、阪神・淡路大震災のマグニチュード7.3の約1,450倍のエネルギーをもった巨大地震であった(表1)。
〔2〕東日本大震災による
人的およびインフラの被害
次に、東日本大震災による人的および家屋の被害状況を表2に示す。
人的被害に関しては、阪神・淡路大震災では、死者が6,434名、行方不明者が3名であるのに対し、東日本大震災では、死者が1万5,872名、行方不明者が2,769名と、死者、行方不明者の数は3倍にものぼっている。
また、家屋被害に関しても、阪神・淡路大震災では全壊10万4,906棟、半壊14万4,274棟、一部損壊39万506棟であるのに対し、東日本大震災では全壊12万9,591棟、半壊26万6,216棟、一部損壊が72万7,814棟となっている。
東日本大震災の被害の特徴としては、津波による被害が大きい点であり、人的被害では行方不明者が多く、死者については水死が93%を占めている。
家屋被害については、マグニチュード9.0という巨大地震ではあったが、直下型地震ではなかったため、阪神・淡路大震災のように、地震自体による建物の全壊や崩壊は顕著ではなかった。しかし、津波による被害が甚大であり、瓦礫(がれき)を伴った津波による被害や、窓などから侵入した海水が生んだ浮力によって建物が流出してしまう被害が多かった。
〔3〕東日本大震災のインフラ被害と阪神・淡路大震災の被害との比較
電気・ガス・水道など、ライフラインとも言われるインフラの被害について、東日本大震災と阪神・淡路大震災の比較を示したのが表3である。
それぞれについて見てみると、東日本大震災では停電した世帯が約870万戸、ガスの供給が止まった世帯が東北3県で208万戸、水道が遮断された世帯が180万戸となった。一方、阪神・淡路大震災では、電気の供給が止まった世帯が約260万戸、ガスが約84万5,000戸、水道が約127万戸となっている。
なかでも、東日本大震災では、特に電気の供給が止まってしまった世帯は、阪神・淡路大震災の3倍以上にのぼっている。これは、3月11日の本震による影響で、東北電力エリアと東京電力エリアの多くの発電所が運転を停止したことに加え、4月7日と4月11日の余震によっても、発電所の停止と送電網の被災が起こり、広域にわたる停電が長期間発生したためである。
また、地震によって千葉県および宮城県の石油貯蔵施設が炎上するなどの被害を受け、神奈川県、千葉県、宮城県および仙台市で合計6カ所の製油所が停止し、燃料の調達が困難となった。さらに、政府備蓄の活用や西日本からの供給など、全国的な支援体制が確立されるまでには時間がかかった。
〔4〕電気通信システムの被害:固定通信
次に、電気通信システムの被害について見ていく。
東日本大震災の地震の威力がいかに大きかったかは、電気・通信サービスの被害の面においても、阪神・淡路大震災との比較を行うことで理解できる(表4)。
特に重要な点は、大地震と大津波によって、385棟の通信ビル(通信事業者のビル)が機能停止に陥ったことである。特に、大津波により全壊した通信ビルが16棟、浸水したビルが12棟、また中継伝送路も約90ルートが切断や流出で失われた。この結果、全体で約190万回線の通信回線が被災した。
一方、阪神・淡路大震災では、機能停止に陥った通信ビルは1棟もなかった。
また、大震災による障害回線数で比較すると、東日本大震災による被害は、阪神・淡路大震災の被害の5倍以上となっている。
復旧については、サービス影響範囲が広域であったため、広域停電の影響によって電力が枯渇したビルへは、全国から移動電源車を配車し、電源の供給を行い、サービスの回復につなげた。津波被害が特に大きかったエリアについては、中継伝送路の仮復旧、他通信ビルへの収容替えや応急復旧用の可搬型通信設備の利用などを行い、まず重要拠点を復旧させ、次に建物・通信設備、さらにはアクセス区間の応急復旧などの措置により、固定通信サービスを復旧させた。
これらの復旧活動や商用電源の回復によって、一部のエリアを除き、2011年4月末までに通信ビルの機能を回復し、ほぼすべてのサービスが復旧した。図1に、固定電話の利用不可回線数の推移を示す。
〔5〕電気通信システムの被害:移動通信
続いて、携帯電話およびPHSの移動通信の被害を見ていく。移動通信の被害は、電源の状況で時間とともに変化したが、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムの基地局全体で、最大約2万9,000局が停波した。
この要因は、地震や津波による直接的な通信設備への被害、基地局と交換局、また交換局同士間の光ファイバの切断、さらに基地局の主電源の停電と予備バッテリーの枯渇が要因である。
一方、携帯電話からの通信の要求は安否確認を中心に急激に増加し、NTTドコモの例では通常の50〜60倍の通話量が発生した。これは、阪神・淡路大震災の際の携帯電話の契約数(1995年)が約433万契約であったのに対し、東日本大震災(2011年)の際は、30倍の約1億1,823万契約と、携帯電話の利用が急速に普及したことも要因となっている。
停波基地局数は、大震災発生翌日の3月12日がピークとなっており、その後、商用電源の回復や、伝送路の仮復旧、商用電源が途絶しているエリアなどへの移動電源車や移動基地局車の配備などの応急復旧対策により、一部エリアを除いて、各社とも2011年4月末までにほぼ復旧した。
この状況を示したのが図2である。
▼注2
気象庁 津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する検討会 第1 回会合資料津波の高さと被害(http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/studypanel/tsunami_keihou_kentokai/kentokai1/siryou2-2.pdf)より。
◆表1 出所
〔独立行政法人情報通信研究機構耐災害ICT 研究センター アドバイザリー委員会報告書(平成25 年3 月)を元に編集部作成〕
◆表2 出所
〔独立行政法人情報通信研究機構耐災害ICT 研究センター アドバイザリー委員会報告書(平成25 年3 月)を元に編集部作成〕
◆表3 出所
〔独立行政法人情報通信研究機構耐災害ICT 研究センター アドバイザリー委員会報告書(平成25 年3 月)を元に編集部作成〕
◆図1 出所
〔独立行政法人情報通信研究機構耐災害ICT 研究センター アドバイザリー委員会報告書(平成25 年3 月)より抜粋〕
◆表4 出所
〔独立行政法人情報通信研究機構耐災害ICT 研究センター アドバイザリー委員会報告書(平成25 年3 月)より抜粋〕