サープライチェーン全体のCFPを自動算出/可視化するためのシステム
三菱電機株式会社(以下、三菱電機)、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)、韓国SK Inc. C&C(以下、SK C&C)の3社は、企業間で安心、安全、円滑に情報を交換できるデータスペースの技術を活用し、サプライチェーン全体で発生する温室効果ガス(以下、GHG)排出量を把握するためのシステムの実証実験を、2025年6月1日〜同10月下旬の予定で実施する。欧州の自動車産業を中心に利用が始まっているデータスペース「Catena-X」注1を活用し、サプライチェーン全体におけるカーボンフットプリント(以下、CFP)注2を効率的に可視化するためのシステムの開発を進める。
図1 実証実験のイメージ
出所 NTTコミュニケーションズ株式会社 ニュース 2025年5月19日、「サプライチェーン全体のカーボンフットプリント可視化に向けた実証実験を開始」
データ主権を保ちながらのデータ連携を可能に
同実証では、製造現場の装置から電力、エア、生産のデータを収集し、装置単位のCFPを自動算出および可視化するまでの流れをシステム化する。さらに、「Catena-X」データエコシステムの国際標準(以下、「Catena-X」標準)に沿ったシステム間データ通信機能を備えた実験環境を構築し、運用する。これにより、「Catena-X」標準の通信動作制御が可能になり、データ主権注3を保ちながらデータ連携が可能になるという。
実験環境として、電気自動車の主要部材となるリチウムイオン電池の製造工程におけるCFPを算出するため、完成車メーカと、完成車メーカにリチウムイオン電池を供給するサプライヤを想定したシステムを構築する。
サプライヤ側は、製造工程のうちの「積層工程」注4を担う装置から、産業用機械やプロセスを自動制御するための専用コントローラ(シーケンサ)を活用して電力、エア、生産実績などのデータを取得し、それを自社側のCFP算出/モニタソフトへ送信しCFPを算出する。算出結果は、「Catena-X」標準データ形式に変換し、自社側のストレージへ自動格納する。
メーカ側は、サプライヤ側へ算出結果のリクエストを実行し、データを取得。その後、自社側のCFP算出/モニタソフトへ取り込み、完成車としてのCFPを算出する。
図2 CFP算出/モニタソフトの画面イメージ
出所 NTTコミュニケーションズ株式会社 ニュース 2025年5月19日、「サプライチェーン全体のカーボンフットプリント可視化に向けた実証実験を開始」
三菱電機が製造現場での模擬環境の提供と、製造現場のデータ収集/関連開発を担当する。NTT Comは、「Catena-X」標準の通信手順/データ形式に対応するシステム間データ通信機能を提供するとともに、実証実験用のIT環境を提供。SK C&Cは、CFP算出/モニタソフトを提供する。
実証後、3社は自動車産業を中心とした製造業全体に同システムを提案していく。
製造業では、企業が個別にGHG排出量を把握したり、エネルギー使用量を削減してきた。しかし、近年、サプライヤ各社が品種や納入先ごとに算定したCFPの情報を、データ主権を確保した上で取引先企業と共有し、サプライチェーン全体のCFPを可視化する必要性が高まっている。サプライチェーン全体のCFPを可視化するため、異なる企業間でセキュリティを確保しつつ効率的に情報を交換できるように、データを第三者に預けることなく自社の管理下に置いたまま取引先に開示できるデータスペースの構築が進められている。
注1:Catena-X:欧州の自動車産業を中心に推進されている、企業間のデータ共有を目的としたデータエコシステム。サプライチェーン全体でのデータ連携による効率化や透明性向上を目指す。
注2:カーボンフットプリント(CFP):製品のライフサイクル全体(原料調達から生産、輸送、使用、廃棄・リサイクルまで)を通して排出される温室効果ガスの量をCO2量に換算して表示したもの。
注3:データ主権:データに関して、その生成者や所有者が自らの意思に基づき、データの所在、利用、管理、移転などをコントロールできる権利や概念。
注4:積層工程:リチウムイオン電池の製造工程において、正極材、負極材、セパレーターなどを重ね合わせて電極群を形成する工程。
参考サイト
三菱電機株式会社 ニュースリリース 2025年5月19日、「サプライチェーン全体のカーボンフットプリント可視化に向けた実証実験を開始」
NTTコミュニケーションズ株式会社 2025年5月19日、「サプライチェーン全体のカーボンフットプリント可視化に向けた実証実験を開始」