[[創刊4周年記念:特集2]台頭するIoT時代の次世代無線通信規格LPWAの全貌[前編]ー 「低価格」「省電力」「長距離通信」3つの壁を突き破るイノベーション ー]

IoT時代を迎えた無線通信規格のパラダイムシフト

2016/11/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

本格的なM2M/IoT時代となる2020年には、250〜500億個ものデバイスが無線ネットワークに接続される。大量なデバイス同士がIoT通信を行うには、「通信コストや通信モジュールが低価格」「省電力型(電池寿命が長い)」「通信距離が長い(カバレッジが広い)」などが要求される。今、次世代無線通信規格「LPWA」(省電力型広域無線網)はこれに対応し急速に普及しつつある。特集2では、LPWAの全貌と最新動向について、エリクソン・ジャパン CTOの藤岡 雅宣氏への取材をもとにレポートする。

パラダイムを変える新しい2つの流れ

 M2M/IoT、ビッグデータ解析、AI時代を迎え、国際的にエネルギー(スマートグリッド)や医療(ヘルスケア)、製造、運輸、農業、公共部門、さらにスマートシティまで、境界領域を越えた新しいイノベーションによって産業革命が進展している。

 2020年には、250〜500億個のデバイスが接続される時代を迎えると言われ、次のような2つの大きな流れが加速し、グローバルな波となってきている。

〔1〕第1の流れ:第4次産業革命

 産業界においてはM2M/IoTをベースにした第4次産業革命が推進され、ドイツのプラットフォームIndustrie 4.0、米国のIIC(Industrial Internet Consortium)、日本のIVI(Industrial Value Chain Initiative)、中国の中国製造2025(Made in China 2025)などのビッグプロジェクトが急展開し、国際標準を目指して活発に展開し始めている。

〔2〕第2の流れ:LPWAによるパラダイムシフト

 また、大量に使用されるセンサーやウェアラブル端末などのM2M/IoTデバイスの接続を現実のものとする、「LPWA」(Low Power Wide Area、省電力型広域通信網)という新しい無線通信技術が続々と登場してきている。この技術は、低価格で低消費電力(電池寿命10年以上)、長距離通信(数㎞以上)を実現し、後述するように、

(1)セルラー注1IoTと言われるライセンスバンド(免許必要帯、3GPP仕様)

(2)非セルラーIoTと言われるアンライセンスバンド〔免許不要帯注2

の両面からLPWA標準仕様が次々に策定され、大きなパラダイムシフトが起こっている。

280億個のデバイスを接続:シェアを伸ばすLPWA

 このような流れのなか、IoT時代の世界市場で、現在どの程度のデバイスが接続されているか、あるいは今後接続されようとしているか、その動向を見てみよう。

〔1〕セルラーIoTが27%、非セルラーIoTが22%

 図1は、国際的な通信機器ベンダであるエリクソン(本社:スウェーデン・ストックホルム)が最近発表した「世界における通信接続されるデバイス数の推移「Ericsson Mobility Report(2016年6月)」の分析である。

図1 世界で通信接続されるデバイス数の推移

図1 世界で通信接続されるデバイス数の推移

CAGR:Compound Average Growth Rate、年平均成長率
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日(原典:Ericsson Mobility Report(Jun、2016)、https://www.ericsson.com/res/docs/2016/ericsson-mobility-report-2016.pdf

 このレポートによれば、現在、製造業をはじめ農業、輸送、医療(ヘルスケア)、スマートシティなど、さまざま業界におけるIoTへの取り組みを背景に、今後、世界で通信接続されるデバイス数の年平均成長率(CAGR:Compound Average Growth Rate)は、2015〜2021年の間に、セルラーIoTが27%、非セルラーIoTが22%と、高いものになると予測されている。

 具体的には、例えば図1に示すように、2015年時点では150億個のデバイスであったが、2021年までに合計280億個のデバイスが接続されると予測されている。そのうち、

(1)142億個は非セルラーIoTデバイス

(2)15億個はセルラーIoTデバイス

と見られている。

 セルラーIoTの成長率が27%と高く予測されている背景には、後述する3GPP注3におけるLTEベースのNB-IoT(Narrow Band IoT、狭帯域IoT)やCat-M1(MはMTC注4の意味)などセルラーLPWAに関する標準化が完了したことが大きな要因となっている。

〔2〕シェアを伸ばすLPWA

 図2は、2025年までの世界における各種IoTデバイス接続数の推移を示したものである。現在も大きな接続数をもつWi-FiやBluetooth、ZigBeeなどの近距離無線通信(WPAN)が引き続き用途を拡大している中で、LPWA(図2の黄色い部分)が急速にシェアを伸ばし、LTE(4G)の接続数を超えて普及していくと予測されている。

図2 世界での各種IoTデバイス接続数の推移

図2 世界での各種IoTデバイス接続数の推移

出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日(原典 Machina Research“IoT Forecast Database, Jul. 2016”)


▼ 注1
セルラー(Cellular):セル(Cell)とは細胞を意味する用語。通信では、ある地域をいくつかの「セル」(例:半径2㎞程度の通信エリア)に分けて基地局を配置した無線通信方式の1つ。これはセルラー方式と呼ばれ、例えば3G(WCDMA)や4G(LTE)などのモバイル通信はセルラー方式である。このような通信方式とは異なるWi-FiやBluetooth(WPAN:Wireless Personal Area Network、近距離無線通信)などは、非セルラー方式と呼ばれる。

▼ 注2
アンライセンスバンド(免許不要帯):例えば、①従来の近距離無線通信規格(WPAN)であるIEEE 802.11a,b,g,n/ IEEE 802.15(Bluetooth、ZigBee)、Z-Wave(ITU-T)や、②LPWAと呼ばれる新世代のIEEE 802.11ah仕様、LoRaやSIGFOXなどのアライアンス仕様等で使用される周波数帯(例:920MHz帯や2.4GHz帯)のこと。

▼ 注3
3GPP:スリージー・ピー・ピー。Third Generation Partnership Project、第3世代(3G)移動通信システム標準化プロジェクト。3GPPでは、WCDMA(3G)、4GのLTE、LTE-Advanced(LTE-A)などの標準化を終えた後、最近ではNB-IoT、Cat-M1※などセルラーLPWAの標準化や、LTE-
Advanced Pro、第5世代(5G)の標準化が行われている。
※Cat-M1:3GPPにおける「LTE-M」の流れを汲む後継規格。MはMachine Type Communications(MTC)。Cat-M1のMは同じくMachine Type Communicationsのこと。

▼ 注4
MTC:3GPPでは、実際の事例では端末同士の通信よりも、端末からネットワークサーバへの通信というように、片側のみが機械端末(M)であることが多いため、3GPPではあえてM2Mという呼び方はせずMTC(Machine Type Communications、マシン型通信)としている。なお、MTCは、M2Mと同義の3GPPの名称と言われることもある。
http://www.ericsson.co.jp/blog/2013/05/m2m.html

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