[クローズアップ]

スマートグリッド実証実験の成果から今後を展望する≪後編≫

― 日本独自のエネルギー管理手法を実践する「東北8地域事業」―
2014/10/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

北上市事業における平常時/災害時のユースケース

スマートグリッド技術の国際標準化は、IECのTC57注10において検討が進められている。技術の標準化を審議する際には、その技術がどのようなビジネスケースで、どのように使われるのかを示すユースケース注11が検討される。

北上市の事業では、「平常時」と「災害時」という2つのエネルギー管理を想定している点が大きな特徴となっている。

北上市の事業のシステム構成を図2に示す。平常時は、CEMSが中心となって、電力消費の20%が再生可能エネルギー利用となるようにピークシフトおよびピーク制御を行う。そして、災害発生時には、北上市本庁舎では災害対策本部機器に対して蓄電池より電力を供給するとともに、防災拠点では拠点ごとに設置された蓄電池の自律運転を行い、住民に電力を供給する。防災拠点の蓄電池が枯渇した場合には、市庁舎からEVの派遣などを行うことにより電力の融通を行う。

図2 岩手県北上市の事業のシステム構成

図2 岩手県北上市の事業のシステム構成

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料4 を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_04_00.pdf

これらは、東日本大震災による経験から生まれた、日本独自のエネルギー管理の手法であり、災害に強いスマートグリッドをどのように構築するかという重要なユースケースとなる。同事業のアクター(ユースケースの主体となる人や組織、装置)を表5に、平常時と災害時の交換情報を表6に示す。前述のとおり、災害時には電力融通の交換情報が加わる。

日本だけでなく世界のスマートシティ構築の指標へ

後編では、主に、東北8地域事業の内容と、北上市の事業から導き出されたデマンドレスポンスによるユースケースとその内容を見てきた。

スマートグリッドにおける技術の国際標準化に関しては、現在、各国から集まったユースケースを検討し、審議を行う仕様を固めているところである。東日本大震災で被災した北上市による、平常時、災害時を想定した持続可能な取り組みからユースケースを導き出せたことは、日本国内においても、また、海外のスマートシティ構築においても、大きな財産になると考えられる。

東北8地域事業は、現在まさに進められている最中であるが、2015年度には、一定の成果が発表される予定である。東北8地域事業が、4地域実証の経験をもとにして構築されているように、東北での事業の成果が、今後国内だけでなく、世界のさまざまな場所で展開されていくスマートコミュニティやスマートシティの構築において、大きな指標となることを期待したい。

(終わり)

表5 北上市の事業におけるアクターの一覧

表5 北上市の事業におけるアクターの一覧

〔出所 電気学会SGTEC資料をもとに編集部作成〕

表6 北上市の事業における平常時/災害時に交換される情報

表6 北上市の事業における平常時/災害時に交換される情報

〔出所 電気学会SGTEC資料をもとに編集部作成〕


▼ 注10
TC57:Technical Committees 57。IECの電力システム管理と関連する交換情報に関する専門委員会。

▼ 注11
ユースケース:その技術が、実際にどのようなビジネスケースのなかで、どのような使われ方をするかということを、多くの人が理解しやすい形でまとめたもののことを指す。
このユースケースをもとに、プロジェクトのエンジニアが、どのような機能や性能などが要求されるかをまとめていくもととなる。ユースケースの策定方法は、IECのPAS(Publicly Available Specification、公開仕様書)の62559〔IEC PAS 62559:IntelliGrid Methodology for Developing Requirements for Energy Systems、スマートグリッドにおけるアプリケーションに関する要件開発方法に記載されている。IntelliGridとは、米国EPRI(米国電力中央研究所)の用語でSmartGridと同義語である〕で規定されており、「ユースケース」自体に加えて、そのユースケースの主体となる人や組織、装置などを表す「アクター」と、そのアクターの間で「交換される情報」という、3つの要素から構成される。

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