[クローズアップ]

ビッグデータからビジネス価値を引き出すシスコのIoT戦略

― 新IoT基盤「Cisco Kineticプラットフォーム」で展開―
2017/10/17
(火)
三橋 昭和 インプレスSmartGridニューズレター編集部

世界最大手の通信機器メーカーであるシスコシステムズ(Cisco Systems, Inc.、以下シスコ)が、ビッグデータからビジネス価値を引き出すことを主眼とする「シスコのIoT」戦略を発表した。
シスコは、IoTシステムの導入に際して顧客が抱えている課題を4つに整理し、それらはIoTネットワーク・ファブリック(接続機能:Cisco IBN+Cisco Jasper)と、IoTデータ・ファブリック(データ処理機能:Cisco Kinetic)の両者を統合して使用する、シスコの新IoT基盤「Cisco Kineticプラットフォーム」によって解決できるとした。
同プラットフォームを使って、当面、日本市場では「製造業」「都市(スマートシティ)」「エネルギー」「交通」「流通・小売」の5分野をターゲットにビジネスを展開していく。ここでは、2019年9月21日の記者発表(注1)をもとにレポートする。

シスコのIoT戦略:データの価値を開放する

 IoT時代を迎え、IoTデバイスであるセンサーやストレージ、マイクロプロセッサ、ソフトウェアなどの価格がどんどん低下する一方で、それらから発生するデータ量は爆発的に増えている。企業は、新しいビジネスを創出するため、このビッグデータを分析しビジネス価値を引き出すことが可能となってきた。

 このため、ビッグデータから新しいビジネス価値を引き出し、データ主導型のビジネス展開への期待が高まってきている。

データに価値を与えるための4つの課題

〔1〕ビッグデータ時代の顧客の環境 

 まず、ここでビッグデータ時代の顧客側の課題を整理してみよう。

 顧客側の実際のデータは、顧客システムのセンサーなどの多様なIoTデバイスや、IoTシステムの中に存在している。このような環境で次々に生成される多様なビッグデータに価値を与えるには、取得したデータをエッジ注2あるいはクラウドで分析し、アプリケーションに移動させて処理をし、価値を与える必要がある。

〔2〕ビッグデータ時代の顧客の4つの課題

 このようなビッグデータの環境において、多くの顧客は次に示すような4つの課題(図1の左側)に直面している。

課題1 ノートパソコンやスマートフォンを接続するのとは異なり、大量で多様なIoTデバイス(インタフェースがない場合が多い)を接続するには、Wi-Fiやセルラーをはじめ複数のネットワークで接続する必要があり、そのセキュリティや運用管理も複雑である。

課題2 IoTデバイスが接続できたとしても、データはIoTデバイスなどの中に閉じ込められたままになっていることが多いため、これを取り出して利用できるように処理しなければならない。

課題3 データが取得できたとしても、これらのデータをプログラム化された形で、データセンター注3やクラウド注4上の、どのアプリケーションに送ればよいかを制御する必要もある。また、どのような種類のデータであるかがわかるように、可視化されている必要もある。

課題4 データの送り先を間違えるとビジネスに大きな影響を与えてしまう。このため、データをセキュアにしておくことや、プライバシーを守っておくこと、さらにデータを活用するうえで権利関係などのオーナーシップを管理する必要がある。

IoTネットワーク・ファブリック:接続機能

〔1〕IoTネットワーク・ファブリックとは

 シスコはこのような課題を解決するため、顧客の現場のすべてのモノをつなげていくため、その通信のベースとなる「IoT Network Fabric」(IoTネットワーク・ファブリック:IoTデバイスを接続して通信する技術)を提供している(後述)。

〔2〕IoTネットワーク・ファブリックを実現する技術

 シスコが提供しているIoTネットワーク・ファブリックの技術は、すでに、Cisco Intent-Based Network+Cisco Jasperとして開発され、提供されている。

(1)シスコ・インテントベース・ネットワーク(Cisco IBC) 

 シスコでは、新しくネットワークに接続されるIoTデバイスを素早く自動的にネットワークに接続する「Intent-Based Network for IoT」(IoT向けインテントベース・ネットワーク)注5を開発して提供している。これによって、ネットワークは、各種のIoTデバイスなどを、管理者の意図を反映した形での接続が可能となる。

(2)Cisco Jasper(シスコ・ジャスパー)

 さらに、シスコは、2016年3月に買収したJasper(ジャスパーテクノロジーズ)注6のクラウドベースのIoTサービスプラットフォーム「Cisco Jasper」を利用して、多様なアクセス(接続)方法をサポートしている。

 具体的には、イーサネットからWi-Fi、セルラー(3G/LTE)、LoRaWAN(LPWA)、RF-Mesh(無線マルチホップ通信方式)、シリアル(直列)通信などをサポートし、現在、すでに全世界で1万4,000社以上に、Cisco Jasperが導入され活用されている。


▼ 注1
【記者会見出席者】(敬称略)
・ジャハンギール・モハメッド(Jahangir Mohammed):シスコシステムズ バイスプレジデント
・島崎 直人:シスコシステムズ合同会社 コンサルティングシステム エンジニア
・ブライアン・タンゼン(Bryan Tanzen):シスコシステムズ ゼネラルマネージャ
・濱田 義之:シスコシステムズ合同会社 最高技術責任者(CTO)

▼ 注2
IoTシステムにおいて、(離れたクラウドではなく)クラウドの手前の現場のIoTデバイスに近い、ゲートウェイやルータでデータ処理(アプリケーション処理)行うコンピューティング(分散処理)のことを、エッジ・コンピューティングという(単にエッジともいう)。シスコでは、このエッジ・コンピューティングのことをフォグ(Fog)・コンピューティングと呼ぶところから、フォグ/エッジとも呼ばれる。

▼ 注3
データセンターサービス提供事業者に、自社のサーバ機器などのIT関連機器を物理的に保管や運営などをしてもらう施設。

▼ 注4
クラウドコンピューティング(集中処理)のこと。自社でIT関連機器(サーバ機器など)を所有しないで、クラウドサービス提供事業者に、ITサービスを利用させてもらう施設。大きくSaaS、PaaS、IaaSなどのサービスに分けられる。

▼ 注5
Intent-Based Network(IBN):ネットワーク管理者の意図に基づいて動作するネットワーク。インターネットにおけるネットワーク構成は複雑化しているため、ネットワーク管理が重要な課題となっている。この問題を解決する新しいネットワーク管理方法の1つ。既存のネットワークでは、ネットワーク管理は各機器の設定に依存して実現されるが、IBNでは「管理者が何をしたいのか」という管理者の意図を反映したネットワーク管理を実現可能とする。IBNについては、IETF(インターネット技術標準化委員会)でも審議が行われている。

▼ 注6
シスコが2016年3月に買収した、クラウドベースのIoTサービスプラットフォームを提供している企業。

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