OPC UAの2つの大きな機能拡張
これまで現在のOPC UAについて解説してきたが、OPC UAはまだ進化・発展を続けている仕様である。例えば、現在、推進されているドイツのIndustrie 4.0を担うにはまだ不十分なところがあるため、次のような分野でその仕様の機能拡張が進められている。
〔1〕Pub/Subモデルの導入
機能拡張の1つは、図7に示す「Pub/Sub(バブ/サブ)モデル」(Publisher/Subscriberモデル)注6の導入である。現在のOPC UA仕様は、クライアント-サーバモデルが基本であるため、メッセージ(情報)のやり取りは1対1通信である。これを、急速に普及しているクラウドサービスとの連携や親和性を高めるために、1対多(マルチキャスト)のメッセージ通信が可能となる「Pub/Subモデル」の通信方式を採用することが検討されている。
図7 Pub/Sub(パブ/サブ)モデルの仕組みの例
出所 各種資料をもとに編集部作成
〔2〕TSN(リアルタイム通信)への対応
機能拡張の2つ目は、TSN(Time Sensitive Network、リアルタイム性の強いネットワーク。イーサネットの拡張規格)注7への対応である。現在、実際の工場などでは、PLCやロボット、コントローラを接続するネットワークはフィールドバスとも呼ばれ、多くの通信規格のフィールドバス(CC-Link IEやEtherCAT、Modbusなど)が使用されている。
しかし、急速に進むビッグデータやAI、IoT時代を迎えて、大量のデータを高速かつリアルタイムに処理する仕組みへのニーズが高まってきている。自動運転車や、Industrie 4.0が実現するスマート工場におけるAIロボットなどには、リアルタイム性が求められる。ところが、現在のOPC UAの環境では、こうしたリアルタイム要求に十分対応できていない。
そこで、OPCファウンデーションでは、高速で低遅延、しかも高い信頼性が求められる、産業用IoT向けの次世代ネットワークとして、TSNの導入が検討されている。
TSNは、2015年から米国電子電気学会(IEEE)のIEEE 802.1 TSNで標準化が進められている。OPC UAをこのTSNへ対応させてリアルタイム要求を実現し、M2M/IoT時代に対応できるよう、機能拡張が進行中だ。TSNでは、現在、伝送速度10Gbps、伝送遅延1μs(マイクロ秒)以下という高速で低遅延のネットワークを目指している。なお、IEEE 802.1 TSNは、既存のイーサネットのインフラを使用してネットワークを構築できる。
OPC UAを使用したシステムの具体的なイメージ
最後に、OPC UAを使用したシステムの具体的なイメージを紹介しよう。
図8は、OPC UAにも対応した、デバイスゲートウェイ(製造元:たけびし)を用いた生産システムの例である。デバイスゲートウェイとは、現場に設置された多くのセンサーや計測器やコントローラ(各種制御装置)、PLC、ロボットなどからの情報を処理したり、インターネットに橋渡しする装置(ゲートウェイ:相互接続装置)である。
図8 OPC UA対応のデバイスゲートウェイを用いた生産システムの構成例
出所 たけびしセミナー「OPCについて」、SCF2017(2017年12月1日)
デバイスゲートウェイは、遠隔地のクラウド上ではなく現場に近い場所で一定の情報処理なども行うため、エッジコンピューティングデバイスとも言われている。「エッジコンピューティング」もIoT時代に急速に注目を集めているキーワードの1つだ。
同時に、デバイスゲートウェイは、アマゾンのAWSなどのクラウドサービスとも連携する装置となっている。また、150種類もの通信ドライバ(インタフェース)を内蔵しているため、国内外のメーカーのPLCやBACnet対応の機器、Modbus対応の機器などとの通信が可能となっている。
図8は、モノづくりの現場から収集したデータを、デバイスゲートウェイを経由させて、上位システムである「社内サーバ」や、IoTサービス(設備監視システムや品質管理システム、予防保全システムなど)を提供する「クラウド」に橋渡しするシステムである。
このとき、社内サーバのように機密性の高いデータを扱う場合はOPC UAを選択して通信を、センサーなど数が多く小規模なデバイスからのデータをクラウドに転送する場合はMQTT注8などを選択して通信を行うことができる。このような各設定は、複雑なプログラムを組まなくても、すべてWebブラウザで行えるプログラムレスな仕組みとなっている。
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OPC UAは、巨大市場が形成されるなかで、なお進化発展を続けている。第4次産業革命を推進し、その国の未来をも占う次世代工場の構築は、「標準化における協調」と、「市場における競合」が同時進行しながらダイナミックに展開していくと見られている。
欧州、米国、日本に続いて中国やインドも参入し、これからが本格的な第4次産業革命のスタートである。2018年は、大幅にAIを実装した次世代工場が急速に登場する年と見られており、その動向から目を離せない。
▼ 注6
Pub/Sub(パブ/サブ)モデル:Publisher(メッセージ送信者)/Subscriber(メッセージ受信者)モデル。図8に示すように、メッセージ送信者(Pub)からのメッセージを、トピック(複数のメッセージ受信者との通信を可能にする仕組み)という機能を備えた一種のサーバを介して、1対多でやり取りすることが可能となる仕組み。
▼ 注7
TSN:IEEE 802.1TSN。IEEE 802委員会の802.1のTSN
(Time Sensitive Networking)Task Groupが、2015年から、伝送速度10Gbps、伝送遅延1μs以下を目指して標準化を推進しているリアルタイム向け標準規格。このTSN標準は、2005年にスタートしたIEEE 802.1 Audio Video Bridging Task Group(車載用に使用されているEthernet AVB)を統合して引き継いだ次世代イーサネット拡張規格ともなっている。その仕様は次のサイトに見るように多岐にわたっており、順次標準仕様が策定されている。
・IEEE 802.1TSN
・IEEE 802.1TSNタスクグループ
▼ 注8
MQTT:MQ Telemetry Transport、M2M/IoTアプリケーション向けに開発された、メッセージ転送プロトコル。センサーやデバイスなどから収集したデータをクラウドに転送する場合などに利用される、軽量で効率的な通信が可能なプロトコル(オープンソースプロトコル)である。1999年にIBMとユーロテックによって共同開発された。