[加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合]

加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合《後編》

― 「EVプロシューマ参加型」電力調整市場への可能性 ―
2018/06/01
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本の電力会社も「P2P電力取引」の実証を開始

 日本の電力会社も「P2P電力取引」の実証を開始し話題を呼んでいる。

〔1〕東京電力ホールディングスはイノジ—と実証へ

 2017年5月、東京電力ホールディングスは、ドイツのイノジーに3億6,000万円を出資し、コンジュール(Conjoule:本社ドイツ)を共同で設立、P2P電力取引プラットフォームの実証を推進している。

 このようなブロックチェーン技術を利用したP2P電力取引システムの分野では、すでに2017年度には、全世界で50社以上のスタートアップ企業が続々と立ち上がった。これらの多くは、EVも定置型蓄電池も含まれたシステムとなっている。

 例えば、コンジュールやモイクサ以外のスタートアップ企業としては、パワーレッジャー(Power Ledger、オーストラリア)、エレクトリックチェーン(ElectriCChain、米国)、オープンユーティリティ(Open Utility、英国)、フォントン(Phonton、ドイツ)、ゾンネン(Sonnen、ドイツ)、エレクトロン(LECTRON、英国)、トゥーマッチエナジー(TOOMUCH.ENERGY、ベルギー)、グリッドシングラリティ(Grid Singularity、オーストリア)、エルオースリーエナジー(LO3 ENERGY、米国)などの企業が続々とスタートしている。

〔2〕関西電力はパワーレッジャーと実証へ

 関西電力も、実績のあるオーストラリアのパワーレッジャー注10と、ブロックチェーン技術を活用した電力P2P直接取引プラットフォーム事業に関する共同の実証研究をスタートさせた(図3、2018年4月24日)。

図3 関西電力の巽(たつみ)実験センターにおける電力P2P取引システム

図3 関西電力の巽(たつみ)実験センターにおける電力P2P取引システム

出所 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2018/pdf/0424_1j_01.pdf

 この背景には、太陽光発電をはじめとした再エネなどの普及による、大きな変化がある。現在の電力供給システムが、従来の大規模集約型から自律分散型のシステムへ変化し、将来的には、プロシューマ注11と電力消費者との間で専用のプラットフォームを介して、電力会社を介さない電力の直接取引(電力P2P直接取引)が実現される可能性があるのだ。

 実証研究は、関西電力の巽(たつみ)実験センター(大阪市生野区)におけるものであるある。

 太陽光発電設備が設置されたプロシューマ宅で発生した余剰電力を、同実験センター内の複数の電力消費者宅へ送電し、各住宅に設置したスマートメーターを通じて得られた電力量やそれに伴う料金について、パワーレッジャーの電力P2P取引システムを介して、プロシューマと電力消費者の間で、仮想通貨を用いて模擬的に取引を行う。

電気自動車(EV)をV2Gとして活用するイメージ

 次に、EVをV2G(Vehicle to Grid)として活用する具体的なイメージを見てみよう。

 図4は、英国政府によるEVを分散型電力貯蔵(V2G)として利用するイメージ図である。これは、電力の需給バランスを調整する場合によく出てくる天秤(てんびん)の図である。図4の右は、グリッド(電力網)が周波数50Hzでバランスしている場合とバランスが崩れた場合を示している。

図4 英国政府によるEVを分散型電力貯蔵(V2G)として利用するイメージ

図4 英国政府によるEVを分散型電力貯蔵(V2G)として利用するイメージ

出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

 EVは、昼間は太陽光発電で、夜間は風力発電や系統電力で充電する。しかし、EVが帰宅する時間になると、自宅の電力消費とEVへの充電が重なり、全体として自宅の電力消費が増えてしまう。そこで、電力需要のピークを緩和するため、夕方は昼間蓄えた電気をV2H(EVから家庭へ電力を供給)で家庭に供給する。また、必要であれば、EVを電力システム全体の需給バランス調整(例:周波数調整、図4の右側)を行うアンシラリーサービスに参加させ、電力会社からそのインセンティブ(報奨金)をもらうビジネスモデル(2017年2月、図4参照)が実証されている。

 これに関連して英国政府は、2018年2月に、3,000万ポンド〔45億円(1ポンド:150円換算)注12〕の予算でV2GB(Vehicle to Grid Britain)プロジェクトを立ち上げ、日産自動車、シスコシステムズ、オクトパスエナジー(Octopus Energy、英国最大の再エネ事業者)などが参加している。

 「このV2GBプロジェクトには、私も参加しましたが、プロジェクトは19個に分かれていて、2,700台という大量なEVによる実証が行われています。ロンドンのブラックキャブ(Black cab:ロンドンタクシーの歴史的な愛称。現在は、必ずしも黒色だけではない)もあれば、中国のEVメーカー最大手のBYD(ビーワイディー)のEVバスもある。さらにパレット型のシェアリングタイプのEVもあれば、EV乗用車もあり、EVの全方位的な実証が行われています。これらのすべてのEVを連携させて、電力の需給調整サービスを考え、しかも電力システムのアセット(資産)として位置づけられています。配電系統運用者(DSO)も電力会社もコラボレーションしており、どこまで機能するか、その実証に期待が集まっています」(太田准教授)。

 このようなことが、P2P電力取引システムとともに進展すると、旧来の大規模集中型発電所をもっている電力会社は、いずれ不要になってくるのではないだろうか。

 この問いに太田准教授は、「これは私の持論でもあるのですが、そのような見方とは逆に、電力会社がEVを次世代のアセットとして位置づけ、VPPなどを活用して、EVを取り込んだ新しい電力システムを構築すべきだと思っています」と、大手電力会社の今後のビジネスの発展方向を示した。


▼ 注9
http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/pdf2/170710j0101.pdf

▼ 注10
パワーレッジャー(Power Ledger): 所在地はオーストラリアの西オーストラリア州パース、2016年5月設立。会長はジェマ・グリーン(Dr. Jemma Green)氏。事業内容は、ブロックチェーンを活用した電力P2P取引プラットフォームの管理・運用など。https://powerledger.io/

▼ 注11
プロシューマ:自分自身で発電した太陽光発電などの電気を消費し、余剰分は売電する生産消費者のことであり、生産者(Producer)と消費者(Consumer)とを組み合わせた造語。

▼ 注12
£30 million investment in revolutionary V2G technologies、2018年2月12日

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