[加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合]

加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合《後編》

― 「EVプロシューマ参加型」電力調整市場への可能性 ―
2018/06/01
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

海外の具体的な実証プロジェクト

 次に、海外の具体的な実証プロジェクトの事例を紹介しよう。

〔1〕デラウェア大学とデンマーク工科大学の事例

 図5は、米国東海岸のデラウェア州ニューアークにあるデラウェア大学で行われている、有名なEVと系統連携(Grid on Wheels)の実証プロジェクトである。

図5 米国:デラウェア大学のEVと系統連携(Grid on Wheels)の例

図5 米国:デラウェア大学のEVと系統連携(Grid on Wheels)の例

EVSE:Electric Vehicle Supply Equipment、充電スタンド
TSO:Transmission System Operator、送電系統運用者
出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

 同キャンパスには、ドイツのBMWのEVであるMini-Eが約30台導入され、ムービングインバータ(動き回る太陽光発電対応のインバータ)をもつ蓄電池を搭載したMini-Eが動き回っている。このムービングインバータを電力系統と連携する試験が行われているが、2018年5月現在、TSO(送電系統運用者)の電力需給の調整市場に蓄電池100kW(充放電出力)の規模で参加している。

 Mini-Eの蓄電池出力が19.2kWで、5台集めると100kW(≒19.2kW×5台)になる。EVが30台もあると、そのうちの5台から10台程度は駐車などしていて使用されていない。Mini-Eは充電も放電も可能なので調整市場に対応可能となっており、電力会社からはインセンティブが与えられている。

 このような形で、EVが電力の需給調整サービスに参加している事例もある。このプロジェクトでは、EVの車載蓄電池を活用したV2G電力事業を展開している、米国のベンチャー企業ヌービー(Nuvve Corp)注13の協力を得て、実験が行われている。

 図5の左上に示す充電スタンド(EVSE)は、電力変換などはせず(インバータなどはなし)、通信モジュールと測定器(クランプメーター)が入っているだけのスタンドであり、その電力量の測定結果を電力会社に伝える仕組みとなっている。

 現在、「EV側にインバータを入れるのか、EVの外側にインバータをもつのか」ということが議論になっているところである。

 ヌービーのサービスの仕組みは、デンマーク工科大学のパーカープロジェクト(The Parker Project)でも採用され、デンマークで電力の需給調整サービスを行っているエナジーネットDK(デンマークの国営送電会社)と自動車会社が組んで、同大学での実証試験が行われている。このプロジェクトのコラボレーターとして、三菱自動車、日産自動車、フランスのプジョーシトロエンの3社が参加している。

〔2〕世界各国の実証プロジェクトを見る

 これまで述べてきたように、EVと電力システム統合の実証プロジェクトは、国際的な潮流となってきている。

 図6に、米国、欧州、アジアにおける世界のEVと電力システム統合の実証プロジェクトの例をマップで示した。この図からわかるように、世界でほぼ同時多発的に多様なプロジェクトが活発化している。

図6 世界の電気自動車と電力システム統合の実証プロジェクトの例

図6 世界の電気自動車と電力システム統合の実証プロジェクトの例

V2GB:Vehicle to Grid Britain、英国におけるV2G(Vehicle-to-Grid)技術の急速な普及を支援するEVと電力システムの協調に関するプロジェクト eNV: 日産自動車のワゴンタイプのEV(表2参照)
e-UP!:フォルクスワーゲン(VW)が開発したEV
i3、Mini-E:ともにBMWが開発したEV E-Bus: Lion Bus(カナダ)が開発したEV
出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

表2 V2Gのキャンパス実証に使用されているEVの車種(リーフとe-NV200)の仕様

表2 V2Gのキャンパス実証に使用されているEVの車種(リーフとe-NV200)の仕様

【参考】日本の充電器設置数:約29,490基(2018年3月末現在 ゼンリン調べ)。
<充電器設置数>急速充電器:7,390基、普通充電器:22,100基
http://www.nissan.co.jp/MUSEUM/CARNAME/
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf/charge.html
出所 各種資料より編集部で作成

東京都市大学(TCU)におけるV2Gのキャンパス実証

〔1〕研究室にEV3台を導入

 東京都市大学は、これまでEVと電力システムに関して、V2Gの効果に関するシミュレーション解析などを展開してきた。

 このような実績から、東京電力ホールディングスが2017年2月に開催した「EV活用アイデアコンテスト」注14(優秀アイデア提案者にはEVが最長3年間貸与される)に応募した。その結果、応募総数23件の中からみごと最優秀賞を獲得し、表2に示す日産自動車の電気自動車「LEAF」(リーフ)1台(乗用車)と「e-NV200」2台(この2台は東京電力からの貸与。バン型の白色と黒色各1台)の計3台を導入(後出の図8参照)し、V2Gのキャンパス実証をスタートさせた。

〔2〕キャンパス実証の試験設備と全体構成

(1)キャンパス実証の試験設備

 2018年現在、東京都市大学では、図7左に示すように、V2B/V2H/V2Gを実現する実証試験設備(三菱電機製)を構築し、実証実験が進められている。

図7 東京都市大学におけるV2B/V2H/V2Gを実現する実証試験関連設備

図7 東京都市大学におけるV2B/V2H/V2Gを実現する実証試験関連設備

出所 太田 豊、電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

 具体的なキャンパス実証の試験設備としては、表3に示すV2Gの実現環境や電力システム側の事故対応設備、リアルタイムシミュレータ/パワーアンプなどが導入され、実証が進められている。すでに、

  1. 電力システムのアンシラリーサービスの1つでもある周波数制御に、EVによるV2Gを活用した研究成果
  2. EVの住宅での充電タイミングが集中した場合に発生する、配電線の電圧変動をEV自身の無効電力制御によって、効果的に抑制するなどの研究成果

が上げられており、今後の展開が期待されている。

表3 東京都市大学におけるキャンパス実証の試験設備の内容

表3 東京都市大学におけるキャンパス実証の試験設備の内容

FRT:Fault Ride Through、電力系統で、瞬時に電圧低下(瞬低)などの事故が発生した場合に、太陽光発電などの分散型電源が一斉に脱落して電力系統へ悪影響を及ぼす可能性があるため,瞬低時もPCSの運転を継続する機能
PCS:Power Conditioning System、パワーコンディショナー。太陽光パネルで発電した直流電流を、家電や工場で使われる交流電流に変換するなどの機能をもったシステム
出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

(2)キャンパス実証における全体のコンセプト

 図8に、東京都市大学が提案する「サステナブルマイレージ」と「エネルギーシェアリング」を統合したキャンパス実証における全体のコンセプトを示す。このプロジェクトでは、EVへの再エネ由来の電力の供給とその電力による走行、再エネの導入拡大に向けた電力システムからの充電(G2V)、あるいは電力システムへの放電(V2G)などの実証が行われている。

図8 東京都市大学のサステナブルマイレージとエネルギーシェアリングのキャンパス実証

図8 東京都市大学のサステナブルマイレージとエネルギーシェアリングのキャンパス実証

出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

①キャンパス実証のキャッチフレーズ:サステナブルマイレージ

 サステナブルマイレージとは、再エネの充電によってどれくらいの距離を運転できるか、という実験である。同大学の世田谷キャンパスと、横浜/等々力(とどろき)/王禅寺の各キャンパスとの間や、箱根における険しい坂道などで走行実験(高速道路含む)などが行われている。これによって、走行時の電力消費の評価も行われる。

 さらに、図8に示す同大学の1号棟である講義・オフィス棟(計40kW)やEVの屋根(1台あたり1〜2kW)に設置された太陽光発電からのEV充電も行われている。これらを応用する実験環境として、V2H、V2B、V2Gに対応する充電スタンド2基(三菱電機製)の設置が完了している。また、最近実用化された、無線によるEVへのワイヤレス充放電システム(出力10kW、ダイヘン製を予定。仕様等は検討中)も設置が計画されている。このような環境で、サステナブルマイレージの定量評価の実証が行われている。

②キャンパス実証のキャッチフレーズ:エネルギーシェアリング

 エネルギーシェアリング(エネルギー共有)では、EVをプロシューマと見立て、他の組織で行われるVPPなどと連携した遠隔地の再エネ(例:風力発電)との相対取引、あるいはブロックチェーン技術によるEV間のP2P電力取引などの実証、さらに今後、住宅間や地域内での実用化が予想される新しい電力取引の仕組みに向けた実証も計画されている。

 また、太田研究室内には、バーチャルスマートハウス(仮想スマートハウス)も構築されており、V2H/H2Vなどの実証も可能な環境となっている。

 さらに、この実証プロジェクトは、図9に示すように、JST CREST注15プロジェクトにも参加しており、現在、東京都市大学、東京大学、名古屋大学の3カ所のラボをインターネットVPN注16で接続し、日本国内のリモートなキャンパス間のEV/PV連携なども行われている。この実証を通して、海外の大学研究ラボとの実証も計画されている。

図9 3大学間におけるキャンパス実証の展開:リモートラボの実証

図9 3大学間におけるキャンパス実証の展開:リモートラボの実証

TSO:Transmission System Operator、送電系統運用者  DSO:Distribution System Operator、配電系統運用者
出所 太田 豊、「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

自動車産業の明日を拓く今後の展開

 以上、EVと電力システムの融合について国内外の動向を見ながら、東京都市大学における、EV3台を用いたVPPの実証によるオープンイノベーションや、他の大学や海外の研究機関とのデータシェアリングの展開を解説してきた。

 すでに国際的に、送電系統運用者(TSO)や配電系統運用者(DSO)、電力会社などによって、EVが、自動車の電化が実現される大きな新規の市場として期待されている。しかもEVは分散型の電力貯蔵技術でもあるところから、電力システムとの融合を指向する流れが明確になってきた。また、再エネとEV間の相対電力取引の形も見えてきた。

 今後、EVと電力システムを融合するうえで最重要となるV2Gの実現に向けては、「現在、V2Gの意義とその技術要件が整理され、理解されるようになってきました。またビジネスモデル上重要となる、収益の予測も可能になってきました。これらに加えて、EVプロシューマ参加型の電力調整市場が形成される可能性も見えてきました」という(太田准教授)。

 さらに、「今後、市場のスケーラビリティは、ブロックチェーンで確保できる可能性がありますし、EVを電力システムに接続し利用できる車として、電力会社でアセット化する動きも国際的に活発化しています」と、新しい電力システムへの期待を語った。

 東京都市大学の先進的なキャンパス実証は、「100年に1度のEVシフト」といわれる、自動車産業における大革命の今後を占う取り組みの1つとして、大きな注目を集めている。(終わり)

◎取材協力(敬称略)

太田 豊(おおた ゆたか)

太田 豊(おおた ゆたか)

東京都市大学 工学部 電気電子工学科 准教授

1998 年名古屋工業大学工学部電気情報工学科卒業、2000 年同大学大学院工学研究科電気情報工学専攻博士前期課程修了、2003 年同博士後期課程修了。工学博士。
2003 年名古屋工業大学大学院工学研究科情報工学専攻助手、2007 年同助教。
2009 年東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻先端電力エネルギー環境技術教育研究センターユビキタスパワーネットワーク寄附講座特任助教、2014 年同大学大学院新領域創成科学研究科特任研究員。
2015 年より現職。電気学会会員、IEEE 会員、CIGRE 会員。


▼ 注13
ヌービー(Nuvve Corp):米国のベンチャー企業。欧米でEVの車載蓄電池を活用したVehicle to Grid(V2G)電力事業を展開。2017年12月に日本の豊田通商が出資し参画した。

▼ 注14
http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/1440209_8706.html

http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/pdf1/170615j0101.pdf

▼ 注15
JST:Japan Science and Technology Agency、国立研究開発法人科学技術振興機構(文部科学省所管)。CREST:Core Research for Evolutional Science and Technology、JST 戦略的創造研究推進事業。

▼ 注16
インターネットVPN:拠点間を結ぶためにインターネット上に構築されるVPN(Virtual Private Network:暗号化された仮想的な組織内ネットワーク)。

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