[クローズアップ]

中部電力の戦略とブロックチェーンを使ったEV充電システムの実証実験

2018/07/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

電力システム改革を迎えた中部電力の取り組みとチャレンジ

 中部電力はICTやIoTに関して、図5に示すようなさまざまな取り組みをしている。  近年のスマートメーターの普及によるエネルギーとICT(IoT)の融合と、再エネなどによる小規模分散電源の進展によって、地域内でのP2P(ピア・ツー・ピア)による新しい電力取引などの形態が注目され、そのプラットフォームとしてブロックチェーンの技術を利用することが期待されている。

図5 中部電力のICTに関する主な取り組み

図5 中部電力のICTに関する主な取り組み

出所 市川 英弘氏(中部電力株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

なぜ中部電力がブロックチェーンに注目するのか?

 昨今の地球温暖化対策による再エネ導入量の増加や分散型電源の増加、デジタル化やIoT、AIによる業務の効率化、2019年より出始めるFITを終了する太陽光電源、2020年の発送電分離など、日本における電力事業をめぐる状況が大きな変化を迎えている。そのような中、中部電力では、2016年に米国サンフランシスコのチェイン(Chain)社を訪問するなど、ブロックチェーンを利用した新しいビジネスの可能性を検討し始めた。

 同じころ、欧米でも、ブロックチェーンを利用したP2Pの電力取引の実証が開始されていた時期でもある。ブロックチェーンを使ったP2Pの電力取引が本当に経済的で合理的なものであるのかどうか、世界では、各社がこの仕組みに注目している。同社でもブロックチェーンを利用した新規ビジネス開拓の可能性を検証すべく、今回のEV充電実証実験を開始した。

ブロックチェーンを使ったEV充電システムの実証実験

 2018年3月1日から、中部電力は、ブロックチェーンを使ったEV等の充電に関連する新サービスの実証実験を開始した。

 この実証実験では、株式会社Nayuta(福岡県福岡市)が開発した、ブロックチェーンに対応した充電用コンセントと、インフォテリア株式会社(東京都品川区)が開発したスマートフォンアプリを、インターネットやBluetoothでつなぎ、「いつ」「誰が」充電したのかという電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)の充電履歴をブロックチェーンに記録して、セキュリティを担保しながら管理する技術検証を行う。

 これにより、中部電力は、少ない導入費用で信頼性の高い充電管理システムを運用することが可能になり、例えば集合住宅のオーナーにEV等の充電設備を安価に導入してもらうなど、新たなサービスにつながる可能性があると考えている(図6参照)。

図6 既設マンションにおけるEV充電のニーズ

図6 既設マンションにおけるEV充電のニーズ

出所 市川 英弘氏(中部電力株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

〔1〕実証実験の具体的な仕組み

 ここでは、図7のように、スマートフォンのアプリで充電操作(①)をすると、コンセントが点灯(②)し、ボタン操作により充電が開始される(③)。Nayutaのブロックチェーン対応のスマートコンセントでは充電を制御し、その履歴をブロックチェーンに書き込む。

図7 実証実験の構成および仕組み

図7 実証実験の構成および仕組み

出所 市川 英弘氏(中部電力株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

 利用者は、使用履歴をアプリで確認でき、また、マンションのオーナーや中部電力は、必要な情報を集計したり、表示できたりする。

 今回の実験は、既存のアパートやマンションで、「充電設備がない」「既存の充電器(設備)は高くて購入できない」、あるいは「共用費で賄われている駐車場の設備なのに利用にあたって、EVをもっている住人ともっていない住人との間に不平等感を感じる」など、これらを何とか解決できないかということで、実証内容は考えられた。

 具体的には、中部電力からポイントを買ってもらい、対象のマンションに住むEV利用者はそのポイントを充電利用の際に支払う。

 現在は、計量法(検定を受けたメーターでなければ電気料金を請求してはいけない)や電気事業法(買い取った電気を他人に売ってはいけない)などの規制があるため、このようなポイントによる設備の時間利用の仕組みとした。

 設備を時間単位で利用し、オーナーはシステム利用料として料金を支払い、その額に応じた割引をポイントで返す。

 実際の実証の様子を、写真1に示す。

写真1 実際の実証の様子

写真1 実際の実証の様子

出所 市川 英弘氏(中部電力株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

〔2〕1st Layerと2nd Layer 2種類の実証実験

 今回の実証実験は、Nayutaのスマートコンセント上で、1st Layerと2nd Layerの2種類で行い、それぞれのメリット/デメリットなどについて検証する。

 1st Layerでは、ビットコインのパブリックブロックチェーン(0- Confirmation注2)を使った支払い、2nd LayerではLightning Network(ライトニングネットワーク)を使った支払いで充電を行う。前者のモバイルアプリはインフォテリアが開発し、後者のモバイルアプリはLightningサーバのGUIを使用している。

インフォテリアのモバイルアプリ

 実証実験におけるパブリックブロックチェーンを使った処理の流れは、図8の通りである。ここでのシステムの定義は、「アカウントとして、充電設備を利用するドライバー」「自分のもつ充電設備を管理できるマンションのオーナー」「すべてを管理できる中部電力」という三者のアカウントを設定している。

図8 中部電力の充電EV等充電実証実験の構成

図8 中部電力の充電EV等充電実証実験の構成

出所 森 一弥氏(インフォテリア株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

 さらに利用するためのトークン(=コイン)、「送金(充電実施)」「履歴表示」「充電スタンドの選択」などのアプリ機能をもたせた。

 実際のアプリの様子を図9に示す。

図9 実証実験のアプリ画面の様子

図9 実証実験のアプリ画面の様子

出所 市川 英弘氏(中部電力株式会社)、森 一弥氏(インフォテリア株式会社)、BCCCスマートシティ部会講演資料より、2018年5月28日

 実証実験のサイトには前述のように三者のアカウントが設定されている(1)。利用者は、充電スタンドの場所を地図で確認して探すことができ(2)、ログインをすると画面では自分の利用履歴や、トークンの残高なども確認できる(3)。利用時には充電時間を設定し、充電が開始される(4)。

 一方、マンションオーナーは、所有する充電スタンドの使用状況を月別にグラフで確認できる(5)


▼ 注2
0(Zero)- Confirmation:承認なしの状態。小額の取引などにおいては、トランザクション確認後、すぐに取引を完了する場合もある。

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