NayutaのLightning Networkソフトウェア
〔1〕オープンプロトコルのLightning Network
この実験で使われているLightning Networkソフトウェア注3は日本発のもので、Nayutaのメンバーが中心となってオープンソースで開発中である。
パブリックブロックチェーンは、P2Pエコノミーを実現する技術として期待されているが、高い手数料や、支払い確定までに時間を要する注4こと、時間あたりの処理能力が低いことが問題とされ、社会インフラには使いづらいという課題があった。
しかし、Lightning Networkは、これらの課題を解決するオープンプロトコルとして注目され、現在、仕様策定が行われている。Nayutaの開発したソフトウェアは、この仕様に準拠している。
〔2〕なぜ低手数料、即時着金のEV充電支払いを実現できるのか
Lightning Networkは、米国MITメディアラボで開発されたもので、大まかな構成は以下の通りである。
- Micropayment Cannel
- HTLCs(Hashed Time-Lock Contracts)
- ルーティング
特に(1)と(2)がLightning Networkにおいては重要となる。
Micropayment Cannelとは、AさんとBさんの二者間でビットコインのやり取りをする際、最初に両者の共有口座に一定額をデポジット(預金)することによって、それ以降の取引をブロックチェーンに計上することなく、安全に直接通信を行う仕組みである。
つまり、最初の共有口座の開設と最終状態の計上のみをブロックチェーンに書き込みを行うので、最初と最終以外はリアルタイムでセキュアに支払いが可能で、かつ手数料が安くなるという。
一方、HTLCsは、AさんからCさんにビットコインを支払う際に、Bさんを経由して安全に支払う方法である。このMicropayment CannelとHTLCsの組み合わせで、AさんからCさんに1BTC(ビットコイン)を支払う際に、本来であれば直接AさんとCさんとの間でMicropayment Cannelが開通されていないといけないが、共通のMicropayment Cannelを開通済みのBさんがいれば、中継して1BTCを支払うことができる。AさんがBさんに1BTCを支払い、BさんがCさんに1BTCを支払う(図10)。
図10 Micropayment CannelとHTLCsの組み合わせ
出所 栗元 憲一氏(Nayuta)、BCCCスマートシティ部会講演資料(2018年5月28日)をもとに 編集部が作成
図11に、Lightning Networkのイメージを示す。
図11 Lightning Network(ライトニングネットワーク)のイメージ
出所 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000016959.html
このようなLightning Networkを活用することで、事実上の即時支払い(リアルタイム)、低手数料、さらに大きな処理能力を実現できることが期待されている。
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エネルギー市場が大きく変化している中で、ブロックチェーンを使ったP2Pの電力取引は、今や世界各国で実証実験が行われている。これらのビジネスモデルが本当の意味で実用化できるものになるのか、まだその解は見えていない。
現在、約1,000万件の顧客をもつ中部電力は、既存のビジネスに加えて新しいビジネスモデルを作ることができるかどうか、今後の展開に注目したい。
◎取材協力
- 中部電力株式会社 技術開発本部 技術企画室 企画グループ 課長 兼 技術革新推進ユニットリーダー 市川 英弘氏
- インフォテリア株式会社 ブロックチェーン事業推進室 室長 ストラテジスト 森 一弥氏
- 株式会社Nayuta 代表取締役 栗元 憲一氏
▼ 注3
https://github.com/nayutaco/ptarmigan
▼ 注4
例えばビットコインのブロックチェーンでは支払い確定まで平均10分かかるとされている。