[北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明]

北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明(その2)

— M6.7地震から45時間で電力供給を復旧させた教訓 —
2018/12/01
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

北本連系設備の果たした役割

 次に、ブラックアウトの際に、北海道電力(函館変換所)と東北電力(上北変換所)の両社間で電力の相互融通を行う、直流送電の「北本連系設備(図7右)」(直流幹線:60万kW=30万kW×2回線)も活躍した。ここではその役割を見てみよう。

 図7の右の既設ルート(黒い点線)に示す、1979年に完成した北本直流幹線(直流線路全長:約167km)は、変換所で「交流⇔直流」変換を行う場合に、交流系統側の電源を利用する「他励式」である。

図7 北本連系設備の果たした役割

図7 北本連系設備の果たした役割

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告(概要)」、2018年10月25日
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/files/181025_hokkaidokensho_chukanhoukoku_gaiyou.pdf
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_chukanhoukoku.html

 苫東厚真火力発電所2号機および4号機の停止に起因した周波数低下を検出して、ただちに東北電力側から60万kW(実質53万kW)を受電し、UFRによる負荷遮断とともに周波数の回復に貢献した。周波数が回復するにつれて一度送電量を減らしたが、その後北海道エリア内の需要増に対応するために再び受電量を増加させ、前出の図4に示した3時11分から3時25分のブラックアウトの発生までの14分間は、60万kWを送電し続けた。

 この高速な緊急受電制御がなければ、UFRによる負荷遮断量だけでは到底供給力の低下をカバーすることはできず、最初の周波数低下によってただちにブラックアウトに至っていたと考えられる。

 最終的には、前出の図4の③の期間において、周波数低下による北海道エリア内の交流電源の喪失に合わせて、他励式である北本連系設備は停止を余儀なくされた(図7)。

 なお、北本連系設備は後述する復旧プロセスにおいても東北電力からの受電によって貢献したが、他励式であるために北海道エリア内の交流電源が十分に起動するまでの間は活用することができなかった(自励式の場合は、より早期に東北電力から受電することで、復旧時間は短縮されていたと期待できる)。皮肉にも、図7右の左側に示す新設されるルート(北斗今別直流幹線。橙色の実線)は自励式であり、2019年3月から運転開始する予定となっている。これによって、北本連系線は間もなく合計90万kWへと容量がアップし、より柔軟な電力融通が可能となる。

ブラックアウトの再発防止に向けた今後の対策

〔1〕悪いタイミングがいくつも重なった

 平成30年北海道胆振東部地震に関して、OCCTO検証委員会の中間報告をベースにその概要を紹介したが、次に、今後の課題や対策を見てみよう。

 今回の北海道全域(約295万戸)にわたるブラックアウトは、北海道で一番電力の需要が小さいシーズン(厳冬などの時期は電力需要が多い)で、しかも睡眠中の深夜(午前3時7分)の1番電力需要が少ない時間帯に発生した。

 また、電力システムとしては、(今後の計画を含めて)悪いタイミングがいくつも重なってブラックアウトが発生したことが判明した。

 結果的に見ると、N-7(7つもの電力設備が同時に故障)という、非常に過酷な条件(事象)の下で、ブラックアウトが発生したのである。

  1. 北海道エリアの総需要(310万kW)のうち約50%を占める苫東厚真火力発電所(計約150万kW)に、発電が一極集中していたこと(これが停止したこと)。
  2. 同時に送電線の多重故障(新得追分幹線や勝狩幹線、日高幹線)も発生したこと。
  3. 京極揚水発電所1号機、2号機(計40万kW)が、作業中のため停止していたこと注11。同揚水発電所は、おおむね3分間で起動し、その後1分間で最大出力に到達できる立ち上がりの速い、優れた電源である。同電源を起動できれば、これと入れ替わりに最大量(60万kW)に達していた北本連系線の受電量を下げることができ、その後の苫東厚真火力発電所1号機の停止時にも、高速に受電量を増加させることでブラックアウトを回避できた可能性があったと、中間報告におけるシミュレーション結果でも示されている。
  4. 一方、新しいLNG(液化天然ガス)火力プラントとして、間近な来年の2019年2月に、営業運転開始をめざす石狩湾新港発電所1号機(56.94万kW)注12が完成直前であったこと。
  5. さらに、北本連系設備に新たなルートとして2019年3月の運転開始めざして、北斗今別直流幹線(30万kW。自励式。前出の図7)注13も完成間近であったこと。

 上記のような、2つの新しい設備が活用できていれば、これも本事象の緩和に貢献できていた可能性があった。

〔2〕2つの再発防止策

 このような状況を踏まえて、OCCTO検証委員会では、ブラックアウトの再発防止策として、次のようなことが検討されている。

  1. 京極揚水発電所を、いつでも緊急起動できる体制にしておくこと。これによって、今回の地震と同じ事象が起きても緊急起動して供給力を底上げできる。
  2. 今回、前述した系統の周波数低下保護装置(UFR)をすべて使い切っても周波数低下を食い止められなかったため、その反省から、ブラックアウトの防止に備えて、UFRの容量をプラス35万kW増強する(35万kWとなった理由については中間報告を参照のこと)。

*    *    *

 以上、北海道電力の検証委員会の取り組み、およびOCCTO検証委員会の中間報告の内容を概略的に見てきた。

 今回の1エリア全域に及ぶ大規模停電(ブラックアウト)は、1951年の9電力体制(1972年に沖縄電力を加えて10電力体制となる)成立以降では、日本の電力史上、初となるものであった

 また、今回、OCCTO検証委員会によるブラックアウトおよびブラックスタートの分析によって、明らかにされた課題および教訓は、北海道エリアのみならず、北海道以外のエリアにおいても、今後、ブラックアウト再発防止策およびブラックスタート対応策を充実させるうえで極めて貴重な指針となろう。

 最後に、OCCTO検証委員会の中間報告で分析された、ブラックアウトから一定の供給力確保(一般家庭への電力供給:約300万kW確保に相当)に至るまでの、復旧にかかった約45時間の時系列、すなわち「9月6日3時25分のブラックアウト発生」から「9月8日0時13分までの系統の復旧状況」までの全体の推移を、時系列で図8に示す。

図8 ブラックアウトから一定の供給力確保まで45時間の復旧状況

図8 ブラックアウトから一定の供給力確保まで45時間の復旧状況

並列:発電設備等を商用の電源系統に接続すること
解列:発電設備等を商用の電源系統から切り離すこと
出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告(概要)」、2018年10月25日
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/files/181025_hokkaidokensho_chukanhoukoku_gaiyou.pdf
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_chukanhoukoku.html


▼ 注11
揚水発電所:揚水式水力発電所とも言われる。発電所の上部と下部に大きな池(調整池)をつくり、昼間の電力需要の多いときは上部の調整池から下部の調整池に水を落として(落差を利用して)発電し、発電に使った水は下部の調整池に貯めておく。夜間は余剰電力を使って、下部の調整池から上部の調整池に水を汲み上げておく発電方式。大きな意味での「蓄電施設」の1つともいわれる。
参考サイト⇒ http://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/water/yousuishiki/

▼ 注12
http://www.hepco.co.jp/info/2018/__icsFiles/afieldfile/2018/10/05/181006.pdf

▼ 注13
http://www.hepco.co.jp/info/2014/1189511_1635.html

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