[北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明]

北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明(その2)

— M6.7地震から45時間で電力供給を復旧させた教訓 —
2018/12/01
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ブラックアウトに至った複合要因

 図4は、OCCTO検証委員会で整理され分析された、地震発生からブラックアウトの期間(18分間)に、

  1. 大きく変動した北海道電力の系統の周波数(Hz)
  2. 北本連系設備の電力潮流(kW)

の推移を示したものである。表6には、図4の①〜③の区間(18分間)における周波数の乱高下と、北本連系設備の潮流の増加状況が示されている(本誌2018年10月号参照)。

表6 図4の計18分間において各区間の時間帯に発生した周波数の事象

表6 図4の計18分間において各区間の時間帯に発生した周波数の事象

出所 SmartGridニューズレター「北海道胆振東部地震で道内全域295万戸がブラックアウト!:火力発電所停止までの18分間を解明(その1)」、2018年10月号

図4 地震発生からブラックアウト(大規模停電発生)に至る、北海道電力の系統経緯:周波数(50Hz)が大きく変動した①~③内の事象
赤線は周波数(Hz)の変化、黄線は北本連系設備の潮流(kW)

図4 地震発生からブラックアウト(大規模停電発生)に至る、北海道電力の系統経緯:周波数(50Hz)が大きく変動した①~③内の事象   赤線は周波数(Hz)の変化、黄線は北本連系設備の潮流(kW)

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告(概要)」、2018年10月25日
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/files/181025_hokkaidokensho_chukanhoukoku_gaiyou.pdf
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_chukanhoukoku.html

〔1〕ブラックアウトに至った原因

 OCCTO検証委員会において、今回の北海道地震によるブラックアウトの原因の解明が進められていく中で、当初不明であった部分が明らかになり、その基本的な原因が突き止められた。この結果、ブラックアウトに至った原因は、主として、

  1. 苫東厚真火力発電所の1号機、2号機、4号機の停止(N-3事故注5
  2. 地震の揺れによる、送電線4回線事故(N-4事故)による道東地域の水力発電の停止

であることが中間報告において示された。今後、シミュレーションによる確認が必要ではあるが、水力発電の停止が発生しなかった場合は、ブラックアウトには至らなかった可能性が高いと見られている。

〔2〕道東エリアの3つの幹線が脱落

 次に、図5に示す、北海道電力の全域の系統状況のうち、地震の影響によって、一時単独系統となった「黒線」で示した部分(「道東・北見エリア(以下、道東エリア)」と呼ばれている)に着目してブラックアウトの原因を見てみよう。

図5 北海道電力の全域の系統状況

図5 北海道電力の全域の系統状況

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告(概要)」、2018年10月25日
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/files/181025_hokkaidokensho_chukanhoukoku_gaiyou.pdf
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_chukanhoukoku.html

 図5の「赤線」と「黒線」で示した両地域間を接続する3つの送電ルートは、上から順に

  1. 新得追分幹線(しんとくおいわけかんせん、275kV)
  2. 勝狩幹線(かつかりかんせん、275kV)
  3. 日高幹線(ひだかかんせん、187kV)

であり、道東エリアを道央ループ系統に接続する重要な役割を果たしている。地震当日はこの3つの幹線における4回線が地震動によって同時故障し、道東エリアの単独系統状態を引き起こした(1つの幹線には通常2回線の送電線があり、作業停止していたものを除くと、実際には4回線稼働していた)。

 この4回線すべてが同時に故障したことは予想外のことであり、当初は原因不明であったが、その後以下の通り判明した。

 送電線を鉄塔に接続する際には、図5右下の写真に見るように、鉄塔が支持する両端の送電線の間を橋渡しするために、ジャンパー線が備えられている。通常は、風で横揺れしても鉄塔本体に接触しないように設計されているが、地震によって大きく揺れて、鉄塔に接触してショート(短絡)したこと判明した。

 送電線において短絡故障が発生すると、事故による電流を検出することで、送電線に備えられた遮断器が自動的に開放されて停止状態となる(送電線のトリップ)。すなわち、稼働していた4回線(新得追分幹線、勝狩幹線、日高幹線の3ルートで稼働していた4回線)すべてのジャンパー線が同時にショートすることで、送電線4回線が同時にトリップするという珍しい事故が発生したのである。それほど激しい地震であった。

 こうして、道東エリアは道央ループ系統から分離され孤立し、単独系統となってしまった。このため、後述するように、道東エリアにある複数の水力発電が停止し大きな電力が喪失されてしまったのである。

〔3〕送電線事故による道東エリアの水力の停止

 単独系統となった後、道東エリアに含まれる水力発電所からの電力は、道東エリア内の一般家庭の負荷(家庭のテレビや家電など)に向けて供給されることになる。この状況を示したのが、図6である。

図6 送電線の事故により道東水力がトリップ(発電停止)

図6 送電線の事故により道東水力がトリップ(発電停止)

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告(概要)」、2018年10月25日
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/files/181025_hokkaidokensho_chukanhoukoku_gaiyou.pdf
https://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_chukanhoukoku.html

 図6は、前出の図4に示した、2018年9月6日の午前3時8分〜3時9分の1分間の時間帯における、送電線事故による道東水力の停止(トリップ)の状況を示したものだ。左側の青色の目盛が、道東エリア内に流れ込む合計潮流(合計電力。単位:万kW)で、右側の赤色の目盛が系統の周波数(単位:Hz)である。

 図6に示す①、②、③、④を解説すると、次のようになる。

 ①まず、苫東厚真火力発電所の2号機、4号機が脱落(停止)した。

 ②これに伴って、周波数が下がりはじめたため、UFR(系統周波数低下保護装置注6)が動作して負荷遮断(需要家への供給停止)が行われた。道東エリア内でもおよそ40万kWの負荷が遮断された。その結果、道東エリア内では水力発電による発電の方が負荷(需要)よりも大きくなり、道東エリア内で消費しきれない分だけ水力発電所からの電力が道央地域に向けて流れることとなった(潮流方向の反転)。また、負荷遮断の結果、系統の周波数は回復(上昇)傾向となった。

 ③この期間は、送電線4回線の事故によって、道東エリアは道央ループ系統から分離され、孤立した単独系統へと突入する(注:合計潮流は、道東エリアが道央ループ系統から切り離されて単独系統となることで0kWとなった)。

 ④道東の単独系統の内部では、②で示したように発電の方が負荷よりも大きかったため、発電過剰により周波数が大きく上昇した(51.68Hzまで上昇)。その結果、OFR(系統周波数上昇保護装置)注7が働き、道東エリアの多くの水力発電が停止(37万kW)した。このため、単独系統内の周波数は一気に45Hzまで低下し、残された発電機も過度の周波数低下により停止することで道東エリア全体が停電に至った。

 以上が、当初不明であった、今回の停電(ブラックアウト)に大きな影響を与えた要因の1つであった。

〔4〕周波数制御系の機能の喪失

 苫東厚真火力発電所2機ならびに水力発電所の停止に起因した大きな周波数低下は、北本連系設備の潮流制御ならびに負荷遮断によって、一時は50Hz付近に回復された。その後、ブラックアウトに至る過程で重要なこととして、系統の周波数を50Hzに安定させるために、周波数に関する自動制御系がどのようなモードで動作し、機能していたかを挙げることができる。

 今回の分析によって、周波数制御の役割を果たす「ガバナフリー制御」注8は一部機能していたが、「AFC」注9は余力がほぼ0となり、有効に機能しなかったことが判明した。北海道電力では、基本的に、ガバナフリーは火力発電が担当し、AFCは水力発電が担当していた。

 地震の後、苫東厚真火力発電所1号機は、ボイラーが不安定のためガバナフリー運転を停止していたが、知内1号機はガバナフリー運転を継続して、周波数低下の緩和に一定の貢献を果たしたと見られている。一方でAFCについては、道東エリアの水力発電が一斉に停止したことが、AFC余力の大幅な減少を招いてしまった。高速に発電量を調整できる水力発電のAFCが活用できなったことの影響は、非常に大きいものと想像できる。

 以上、おおざっぱではあるが、ブラックアウト発生の主な原因を見てきたが、OCCTO検証委員会の中間報告では、シミュレーションによる確認が必要であるがと前置きしながら、水力発電の停止(N-4)が発生しなかったら、ブラックアウトに至らなかった可能性が高いと考えられたと分析している。詳細はOCCTO検証委員会の「中間報告」の22ページ注10を参照していただきたい。


▼ 注5
N-3:発電機や送電線、変圧器など、合計N個の設備で構成されている電力システムにおいて、例えば、送電線1回線が故障した場合は、N-1と表記する。同じくN-3事故とは、例えば、発電機2台と送電線1回線など、3カ所同時の事故を意味する。なお、N-1のときは、「停電が起こらないことを必要条件」としている。N-2以上のときは「限定的な停電は許容するが、影響が他の系統へ波及させないようにする」、というコンセプトで運用されている。

▼ 注6
UFR:Under Frequency Relay、系統周波数低下保護装置。周波数の低下を検出して負荷(一般家庭への電力供給)を自動的に遮断することで、周波数低下による波及的な事故を防止する装置のこと

▼ 注7
OFR:Over Frequency Relay、系統周波数上昇保護装置。周波数の上昇を検出し,電源の制限によって更なる周波数の上昇を防止する装置のこと。

▼ 注8
ガバナフリー(Governor-Free):系統周波数の変動に対応するため、タービンの調速機(ガバナ)によって、自動的に発電機出力を制御する仕組み。

▼ 注9
AFC:Automatic Frequency Control、自動周波数制御。ガバナフリーでは対応しきれない変動に対応するため、発電機の出力を制御する仕組み。

▼ 注10
「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会中間報告」、2018年10月25日

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