[特集]

米国と欧州の事例に見る日本のデマンドレスポンスの将来

次世代の日本型エネルギーシステムの構築を目指して ─
2014/11/01
(土)
浅野 浩志

米国におけるデマンドレスポンスの動向

〔1〕デマンドレスポンスの定義

 米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)の定義によると、デマンドレスポンスとは、「時間的に変化する電力価格、もしくは卸電力価格の高騰時や需給の逼迫(ひっぱく)時に電力使用を減らすように設計された報酬(インセンテイブ)に反応して、最終需要家(需要側資源)自らが通常の電力消費パターンから電力使用を変化させること」である。

〔2〕デマンドレスポンスの役割の進化

 デマンドレスポンス発祥の地である米国では、電力市場の進化とともに、需要側資源としてのデマンドレスポンスの役割も進化してきた(図1)。

図1 デマンドレスポンス(DR)プログラムの定義と役割

図1 デマンドレスポンス(DR)プログラムの定義と役割

〔出所 著者作成〕

 まず、1990年代の終わりに、

  1. PJM(Pennsylvania New Jersey Maryland Interconnection)
  2. NY-ISO(New York Independent System Operator)
  3. ISO-NE(ISO New England)

など、米国北東部の主要なISO(Inde-pendent System Operator、独立系統運用者)やRTO(Regional Transmission Organization、地域送電機関。ISOを広域化した組織)で、翌日の時間ごとのエネルギー(kWh)を前日に取引するエネルギー市場、つまり卸電力市場ができた。

〔3〕経済プログラムの導入

 続いて、この電力市場の価格に連動して、経済効率を上げるための資源(経済プログラム)として、次の2つが導入された。

  1. ピークロードプライシング注5型のデマンドレスポンスプログラム
  2. 供給電力の予備率注6が不足するときに発動する緊急時プログラム

 経済プログラムは、ピークとオフピーク時の価格差を利用して、需要家に負荷の平準化を促すとともに蓄エネルギー装置の設置を促し、自家発電の運用を系統(電力システム)と協調させる働きをもっている。

〔4〕ネガワットの入札制度

 さらに、需要側の入札も導入されている。これは、系統の事故などの緊急時に、需要家の負荷削減(節電量、ネガワット)を供給力として捉え、発動するというものである。必要となる時間と電力量を、系統運用者が需要家に対して募集し、需要家が調整可能な電力と希望単価を入札する仕組みとなっている。

〔5〕デマンドレスポンスによる調整可能な電力量

 NERC(North American Electric Reliability Corporation、北米信頼度協議会)によると、現在、給電指令可能なデマンドレスポンスの容量は、全米で46GW(ギガワット)に達するが、2022年には59GWまで増加することが期待されている。

 特に、NPCC(North East Power Coor-dinating Council、北東域電力調整評議会)、MISO(Midcontinent Independent System Operator、中西部ISO)、PJMの各地域では、デマンドレスポンスによる調整可能な容量は、ピーク負荷の8%以上を占め、本格的に活用されている。

〔6〕アンシラリーサービス型デマンドレスポンス

 電動自動車や蓄電池などの制御可能な負荷や分散型エネルギー資源(DER :Distri-buted Energy Resources)を給電指令可能な需要側資源として、卸電力市場(エネルギー市場、アンシラリーサービス市場)に統合していく動きがある。

 アンシラリーサービスとは、電力系統の安定性と信頼性の維持に欠かせない周波数の制御や、さまざま予備力供給、電圧の制御を指す。

 米国北東部の主要なISO/RTOは、2006年頃から、従来の発電機に加え、需要側資源が経済的であれば、アンシラリーサービス供給に参加させる試みを始めている。

 現在では、北東部に加え、テキサス州やカリフォルニア州でも実際にプログラムが導入されている(表1)。これらを「アンシラリーサービス型デマンドレスポンス」という。つまり、アンシラリーサービスを実現するためにデマンドレスポンスを利用するということである。ただし、カリフォルニア州では、ISOではなく、電力会社やアグリゲータがアンシラリーサービス型デマンドレスポンスを実施している。

表1 米国電力市場におけるデマンドレスポンス

表1 米国電力市場におけるデマンドレスポンス

FR:Flexible Ramping  RC:Ramping Capability
〔出所 著者作成〕

 系統運用者から需要家、もしくはデマンドレスポンスアグリゲータへの通告時間が短く、電力系統の信頼度を維持するために、自動的かつ迅速に(概ね10分未満で)応答する必要がある場合、高速デマンドレスポンス(Fast DR)とも呼ばれる注7

〔7〕予備力型デマンドレスポンス

 アンシラリーサービス型デマンドレスポンスの1つとして、「予備力型デマンドレスポンス」がある。

 予備力とは、電力需給のアンバランス(供給側の電力と需要側の電力が一致しないこと)を解消するために発電機の出力を調整することを指す。需給アンバランスの原因や時間領域によって、「瞬動予備力」「運転予備力」「待機予備力」などがある(表2)。

表2 アンシラリーサービスにおける予備力供給の種類

表2 アンシラリーサービスにおける予備力供給の種類

〔出所 東京電力、中部電力の資料を元に編集部作成〕

 例えば、ISO-NEは、2006年から、店舗、工場、水処理、空調アグリゲータ、自家発電設備などを対象に、予備力型デマンドレスポンスの試験的導入を始め、現在は、実プログラムとして導入している。

 また、テキサス州の系統運用者であるERCOT(Electric Reliability Council of Texas、テキサス電気信頼性評議会)では、風力発電の出力が低下した5〜30分後に、予備力型デマンドレスポンスを発動した。2010年1月のケースでは、約900MWの LaaR(Load as a Resource、160口、2,156 MWの給電指令可能な電力契約)を発動し、周波数維持に貢献した。

 現在では、ERCOTは、域内の夏季最大電力の3.1%に相当する給電指令可能な電力をもち、もっともアンシラリーサービス型デマンドレスポンスの普及が進んだ地域のひとつとなっている。

〔8〕周波数調整型デマンドレスポンス

 また、もう1つのアンシラリーサービス型デマンドレスポンスとして、「周波数調整型デマンドレスポンス」がある。

 周波数制御は、北米では「負荷追従」「周波数応答」「レギュレーション」などと呼ばれている。具体的には、需要が想定される電力の誤差や負荷変動に対応して、系統周波数の調整や、連系する系統同士を結ぶ連系線の潮流(電力の流れ注8)を規定値内に保つため、発電所の発電機の出力を調整する。周波数(米国:60Hz)は、需要量と供給量のバランスが崩れると変動してしまい、数%の周波数変動が発生すると、発電機をはじめ、需要家側の機器などにも影響を与えるため、このような調整が必要となる。

 各州のRPS(Renewables Portfolio Sta-ndard、再生可能エネルギー利用割合基準)制度などの再生可能エネルギー電源への政策的支援によって、テキサス州やカリフォルニア州など一部の地域で風力発電のシェアが増大してきており、その出力変動による周波数調整が問題になってきている。これを受けてPJMでは、電気自動車の充放電制御による周波数調整型デマンドレスポンスの実証実験が実施された。

 風力発電の普及が進んでいる中西部のMISOでは、周波数調整型デマンドレスポンスに参加するには、

  1. ガバナ注9を備えている
  2. 出力が自動制御可能である
  3. 出力を自動記録可能である

ことが要件となっている。

〔9〕Flexible RampingとRamping Capability

 さらに、再生可能エネルギー電源の導入量増加に伴い、いくつかのISOでは、Flexible Ramping(FR)やRamping Capa-

bility(RC)など、新たな予備力が導入あるいは検討されている。FR、RCは、再生可能エネルギーの出力変動に対応可能な上げ代(上げ方向の調整力)、下げ代(下げ方向の調整力)の予備力である。

 図2は、そのイメージ図(1期を5分とする)を示し、現在の5分間隔の需給を一致させようとするだけではなく、10分後の需要量の変化に加えて再生可能エネルギー出力の予測不可能分にも対応できるように、発電所の上げ代、下げ代を確保する予備力である。将来は、発電機と同様に、需要側資源も参加させることが想定される。

図2 Ramping Capability(出力変化率能力)のイメージ

図2 Ramping Capability(出力変化率能力)のイメージ

〔出所 著者作成〕

 このほか、カリフォルニア州では、5分から15分の時間領域に対して Flexible Ramping を導入している。なお、5分ごとはRTD(Real-Time Dispatch)、15分ごとは

RTUC(Real-Time Unit Commitment)が担当している注10

 今後、同様の柔軟性プロダクトは、増大する再生可能エネルギー出力変動に対応するため、各地で導入が検討されるだろう。

〔10〕家庭用のアンシラリーサービス型デマンドレスポンス

 当然のことながら、これらの制御可能な負荷は、費用効果性のある大口産業用/業務用需要家から調達されており、家庭用需要家を含む小口需要家や電動自動車の参加は、多くの場合、実証実験段階にある。

 家庭用のアンシラリーサービス型デマンドレスポンスは、ボンネビル電力局(米国の連邦営の電気事業者)など、北西部で実証実験(電気温水器など)が行われたが、まだ、技術的な試験が行われた段階で、実用的な経済性は実証されていない。


▼ 注5
ピークロードプライシング:電力需要が最大となる時間帯に、電気料金を高く設定することで、電力需要の平準化を促す施策のこと。

▼ 注6
供給予備率とも言う。電力需要に対する、電力供給力の余力を示す指標のことを指す。予備力は、ピーク時供給力から予想最大電力を減じたもので示される。供給予備率(%)は、予備力÷予想最大電力×100で示される。

▼ 注7
[参考文献]LBNL, 2009, “In Successful Test of Fast-DR, Northern California Takes Another Step To-wards Smart Grid”, News Center

▼ 注8
系統と系統を結ぶ系統線には、その設備によって運用容量が定められている。この運用容量を超えて電気を流した場合、送電線の故障などにつながる可能性がある。

▼ 注9
ガバナ:発電機のタービンの調速機のこと。このガバナに制限を設けない「ガバナフリー運転」によって、周波数の低下を検知した場合は出力を上昇させるなど、周波数調整が行える。

▼ 注10
RTD(Real-Time Dis-patch)は、リアルタイム負荷配分のことで、5分ごとに発電機に出力の指令を出すというもの。RTUC(Real-Time Unit Commitment)は、当日、リアルタイム市場において15分ごとに発電機の起動停止を指令するものを指す。それぞれ、前日の指令を当日、リアルタイムで修正の指令を出す。

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