[特集]

米国と欧州の事例に見る日本のデマンドレスポンスの将来

次世代の日本型エネルギーシステムの構築を目指して ─
2014/11/01
(土)
浅野 浩志

日本におけるデマンドレスポンスの将来

 最後に、進行している電力システム改革と再生可能エネルギー普及策に伴う電力システムへの課題と、需要側での対策について解説する。

〔1〕需要家側の可制御機器を利用した系統運用

 我が国では、2012年の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariffs)注17施行以降、太陽光発電を中心に急激に認定設備量が増加している。再エネ賦課金という国民負担の問題以外にも技術的な課題が大きい。

 運用面では、電力システムにとって必要な精度と比べて、現在の技術水準では、気象予報の精度が十分でないため、太陽光や風力発電の出力予測外れが避けられない。

 特に、「予測の最大外れ」に備えて十分な調整力を保持しておかないと、これまでのような世界的に高水準の供給信頼度や品質を損ない、大規模停電を発生させてしまうなどのリスクがある。

 この解決のため、本稿で紹介した需要家側の可制御機器を系統運用に貢献させる仕組みを整備することが、大きな課題として挙げられる。今後、制度面での検討にあたっては、国外事例の詳細な調査と教訓、公的助成を受けた国内各地のデマンドレスポンスの実証事業データに基づく効果(価値)の評価が前提となる。

〔2〕一般電気事業者と新電力間の非対称からの脱却

 また、長期的には、安定した電力供給力の確保のため、現在の一般電気事業者と新電力という事業者間の非対称な状況から脱して、あらゆる小売事業者が等しく、公平かつ効率的に需給バランスを維持するために、貢献することが重要である。

 そもそも、経済学的に見て、電力の供給力確保の水準をいかに合理的に決定するか、基礎データに基づく検証が重要であろう。東日本大震災以降の節電(定着節電)やデマンドレスポンスに対する需要調整効果の持続性検証のデータが必要である。同時に、間欠性電源を補う容量型デマンドレスポンスや、容量市場注18に参加可能な需要側資源の特定なども、議論すべきである。

〔3〕アンシラリー型デマンドレスポンスの有効性の検証

 さらに、米国やフランスの先行例に見られるように、予備力や周波数調整など、アンシラリーサービス型デマンドレスポンスが意味をもつかどうか、我が国の負荷の実態運用に基づく調査が必要である。現在、進んでいるインセンテイブ型デマンドレスポンスの実証実験などで重要な知見が得られることを期待する。

 加えて、変動電源を大量に連系させた場合の調整電源として、需要側資源が経済的価値をもちうるかどうか、適切なアンシラリーサービス価値に基づく評価も必要である。

 本稿で触れたような多面的な分析評価研究の成果を統合し、学術および産業応用の面で国際的な競争力を高めておくことは、我が国の成長戦略実現のうえで、意味があるであろう。

 現在、足元では、原子力停止による電気料金単価の上昇や、中東など地政学的要因など、さまざまな要因によってエネルギー価格上昇の影響が免れない。エネルギー資源に乏しい我が国は、エネルギー効率化や非化石エネルギーの利用によって、外乱に対して頑強なエネルギーシステムを構築する必要がある。

◎Profile

浅野 浩志(あさの ひろし)

浅野 浩志(あさの ひろし)

東京大学工学部卒。同大学院修了。博士(工学)。スタンフォード大学客員研究員、東京大学工学部助教授、同大学院教授、電力中央研究所社会経済研究所長を経て、現在、電力中央研究所副研究参事、東京大学大学院新領域創成科学研究科客員教授、早稲田大学大学院客員教授。

再生可能エネルギー導入支援策やデマンドレスポンスのシステム分析に従事。エネルギー・資源学会理事、電気学会上級会員、IEEE、CIGRE、IAEE会員。


▼ 注17
再生可能エネルギーの固定価格買取制度:再生可能エネルギーの導入促進を図るため、再生可能エネルギーで発電された電気を、電力会社が一定価格で買い取る制度のこと。電力会社が買い取る費用は、電気の利用者が、電気使用量の一部として負担する。この負担を再エネ賦課金という。

▼ 注18
容量市場:自由化された電力市場において、政府機関などが、電力供給力の不足を防ぐため、また、発電事業者の発電にかかる費用を保証するため、電力小売業者などに課す、ある一定の時期の全体の電力容量の価格を設定する機関。その対象時期については、1カ月先、1年先、3年先など、さまざまなパターンがある。

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