[クローズアップ]

ECとクラウドを革新するAmazonのスマートハウス戦略

─ Amazon Dash、Kinesis など業界をリードするサービスの最新動向 ─
2014/11/01
(土)
新井 宏征

AWSとKinesisによるAmazonのクラウド戦略

 Amazonが提供するクラウドサービスは、AWSと呼ばれるもので、2006年に一般向けにサービスを開始している。AWSは(図7)に示すようにさまざまなサービスの集合である。

図7 AWSが提供するサービス(2014年3月29日時点)

図7 AWSが提供するサービス(2014年3月29日時点)

〔出所 AWS紹介& AWSとオープンデータの事例紹介、http://www.slideshare.net/horiyasu/awsaws-33020253?qid=db6973da-a4b3-41c4-a343-e15c9abed0a3&v=default&b=&from_search=3

〔1〕脚光を浴びるAWSの解析機能

 サービス開始当初は、ストレージサービスのS3(Simple Storage Service)などの機能から始まったAWSだが、ECサービスと同様、ユーザーの声を積極的に取り入れ、2014年6月時点で、過去7年で40回以上の料金の値下げを行い、1年間に290の機能を追加したとしている。

 具体的な機能の中でも、従来は実際の処理を行うコンピュート処理やストレージ、データベースの機能などに重点が置かれていたが、近年ではIoT(Internet of Things、モノのインターネット)やビッグデータが注目されるようになったことで、解析機能への注目が集まるようになってきている。

〔2〕Amazon Kinesis

 なかでも、スマートグリッドやスマートハウスとの組み合わせという点で注目されているのが、「Amazon Kinesis」である。Amazonの公式Webでは、「フルマネージド型リアルタイム大規模ストリーミング処理」注7と呼ばれているこの機能だが、随時発生する

データをリアルタイムで処理することができるサービスである。

 Amazon Kinesisの概念図を図8に示す。

図8 Amazon Kinesisの概念図

図8 Amazon Kinesisの概念図

〔出所 http://docs.aws.amazon.com/kinesis/latest/dev/key-concepts.html

 例えば、スマートハウスでは、スマートメーターで収集されるデータのほか、サーモスタットや家電、照明やドア、セキュリティのために設置したビデオカメラなど、さまざまな機器から途切れることなく大量のデータが送られてくることになる。さらに、サーモスタットを自動的に調整するような場合は、このようなデータに加えて、天気や気温、湿度などの環境に関するデータも同時に処理しなくてはならない。このように、絶え間なく発生する大量のデータを、処理量やデータ量などを気にせずに分析することができるのが、Amazon Kinesisの特徴である。

〔3〕AWSのスケーラビリティー

 このようなサービスは、スマートハウス分野のビジネスに取り組もうと思っている企業には非常に有益である。なぜなら、比較的新しいサービスであるスマートハウス分野のビジネスでは、どれくらいのデータ量が発生するのかなどの情報は、実際にサービスを始めてみないと予測することは難しい。そのため、この分野に取り組む企業にとって、柔軟に利用規模を変更できるクラウドサービスは有益なサービスである。特に、AWSは、先ほど紹介したような高度な分析を行うことができる機能も備わっている点が注目されている。

 例えば、前述した、Webカメラを利用したホームセキュリティサービスを提供しているDropcamも、AWSを活用している。2009年に創業した同社は、2011年には顧客が順調に増えていった結果、毎月、一顧客あたり100GBのペースでデータが増えていった。このようなペースでデータが増えていく状況では、通常のホスティングサービスでは対処が難しくなっていたため、AWSを利用するようになったとしている注8

Amazonのスマートハウスビジネスへの展望

 ここまで見てきたように、ECという観点から見ても、クラウドという観点から見ても、Amazonの取り組みは、これまで紹介したようなAppleやGoogleの取り組みとは毛色が違う取り組みである。

 後半のクラウドビジネスの部分で見たように、AWSを活用すれば、Amazon自身がエネルギー管理サービスなどを提供することは技術的には難しいところはない。実際に、彼らがそのようなサービスを始める可能性はゼロではないかもしれないが、短期的にはその可能性は極めて低いと考えている。

 なぜなら、Amazonの売上の内訳を振り返ると、彼らの売上は現在でも90%以上がEC関連の事業からあがっている。そして、Appleのスティーブ・ジョブズと同じように癖が強いと言われているジェフ・ベゾスは、創業から一貫して、EC関連の売上に注力するという姿勢を崩していない。

 今後、Amazonはさまざまな形でスマートハウス分野のビジネスに影響を及ぼしていく可能性はあるが、私たちが彼らから学ぶべきもっとも大切なことは、自社の強みを考え抜いたうえで、そこにこだわり続けるという強固な信念なのかもしれない。

日常生活でシームレスに注文できるAmazonFresh

 AmazonFreshは、食料品や日用品を中心に取り扱っているサービスで、2014年9月時点でアメリカのシアトルとカリフォルニアのみでサービス展開されている。注文できる商品は、Amazonが在庫として保有しているものはもちろんのこと、AmazonFreshに登録されている地元のパン屋などのお店や、レストランで取り扱っている商品も注文対象となっている。

 午前10時までの注文は夕方(夕食)まで、午後10時までの注文は明朝(朝食)までに、注文者の家の玄関前まで届けてくれる(下図参照)。なお、35ドル以上の注文で送料が無料となる。

図 AmazonFreshの注文と配送の流れ

図 AmazonFreshの注文と配送の流れ

〔出所 https://fresh.amazon.com/MembershipBenefitshttp://www.amazon.com/dp/B005DTBAU2https://fresh.amazon.com/dash/#を元に著者作成〕


Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長。
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013 年よりプロダクトマネジメントに特化したコンサルティング会社である株式会社スタイリッシュ・アイデアを設立。ICT 分野におけるリサーチから得た最新の知見に基づき、企業に対するプロダクトマネジメント制度の導入や新規事業開発、製品開発の支援を行っている。


▼ 注7
http://aws.amazon.com/jp/kinesis/

▼ 注8
AWS Case Study: Dropcam、http://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/dropcam/

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