3GPPとは?その設立の目的と経緯
3GPP (Third Generation Partnership Project) とは、IMT-2000 (International Mobile Telecommunications-2000) という名称で呼ばれている第3世代 (3G) 移動通信システムのための標準化作業を行うパートナーシップ・プロジェクトの1つである。
無線アクセス方式としてW-CDMA (Wideband-Code Division Multiple Access、広帯域符号分割多元接続) をコア・ネットワーク技術として、欧州の第2世代 (デジタル) 携帯電話の標準規格「GSM」(Global System for Mobile communications) の発展系を採用して、標準仕様を作成することを目的とする組織である。
(1) 日本のARIB
(Association of Radio Industries and Businesses、社団法人電波産業)
(2) 日本のTTC
(The Telecommunication Technology Committee、社団法人情報通信技術委員会)
(3) 米国のT1
(T1 Committee、電気通信標準化委員会:現在は上部機関のATIS [Alliance for Telecommunications Industry Solutions]が参加)
(4) 欧州のETSI
(European Telecommunications Standards Institute、欧州電気通信標準化機構)
(5) 韓国のTTA
(Telecommunications Technology Associations、電気通信技術協会)
という、5つの各地域や国を代表する標準化機関(SDO:Standards Development Organization)が参加し、1998年12月に発足した。
1999年6月には、
(6) 中国のCWTS
(China Wireless Telecommunication Standard Group、中国無線通信グループ。現在は、CCSA [China Communications Standards Association、中国通信標準化協会]) が加わって現在の6つのSDO体制となった。
3GPPの組織構成
3GPPは、図1に示すように、各地域や各国のSDOが標準化機関パートナー (OP:Organizational Partner) として運営に参画するプロジェクト・コーディネーション(調整)・グループ (PCG:Project Coordination Group) と、各SDOの個別のメンバー企業 (IM:Individual Member) が直接参加して技術仕様の作成作業を行う技術仕様化グループ (TSG:Technical Specification Group) の2つのグループで構成され、それらを事務局が支えている。
PCGは、各OPの代表および市場代表パートナー (MRP:Market Representation Partners) の代表、各TSGの議長・副議長で構成され、その主な作業は、全体の線表決定、進捗管理、新パートナーの参加承認などであり、実際の技術仕様はTSGで作成される。
3GPPの発足当初は、5つのTSGで構成されていたが、2004年後半に組織の見直しを行い、2005年3月以降は以下の4つのTSGで構成されている。各TSGは、図2に示すように作業項目ごとにWG (Working Group) を構成して作業を行っている。
(1) TSG-SA:サービスおよびシステム・アスペクトに関する仕様の作成
(2) TSG-RAN:無線アクセス・ネットワーク仕様の作成
(3) TSG-CT:コア・ネットワークと端末に関する仕様の作成
(4) TSG-GERAN:GSM仕様書の維持管理、およびGSMの発展形であるEDGE (Enhanced Data Rates for GSM Radio Access Network) システムなどの無線アクセス・ネットワーク仕様の作成
3GPPの活動内容
3GPPでは、標準技術仕様がグループ化されており、リリース (Release) と呼ばれる機能セット単位でリリース番号を付与して、標準技術仕様書が発行されている。新しいリリースは、古いリリースの機能を基本的に包含しており、上位互換となっている。3GPPの各リリースの概要は次の通りである。
(1) リリース99
1999年12月に内容を凍結し、2000年3月にリリースされた。3GPPにおける初期リリースで、CDMA-DS (直接拡散CDMA) システムの基本セット (3.84McpsのFDDとTDD) である (FDD:Frequency Division Duplex、周波数分割複信方式。TDD: Time Division Duplex、時分割複信方式)。
(2) リリース4
2001年3月にリリースされ、機能セットとしての拡張を行った。低チップ・レート(1.28 Mcps) TDD仕様が盛り込まれ、中国がITU-Rに提案しているTD-SCDMA とのハーモナイゼーションが行われた。また、マルチメディア関連サービスを行うため、マルチメディア・メッセージ機能やストリーミング機能が追加され、ネットワーク機能の向上が図られた。
(3) リリース5
2002年3月にリリースされ、IP (Internet Protocol) ベースのマルチメディア・サービスのための新しいネットワークであるIMS (IP-based Multimedia Subsystem、IPベースのマルチメディア・サブシステム)、HSDPA (High Speed Downlink Packet Access、高速ダウンリンク・パケット・アクセス) が盛り込まれた。
(4) リリース6
2004年12月に大部分の内容が凍結されたが、一部は、2005年3月に遅延した。マルチメディアの同報サービスMBMS (Multimedia Broadcast and Multicast Service) やネットワーク・シェアリング、優先サービスが盛り込まれた。また、FDDアップリンク、IMSとパケット・ネットワーク/回線交換ネットワーク間の相互接続に関する仕様の拡充などが行われた。
(5) リリース7
オールIPによるネットワーク、複数アンテナによる無線送受信のMIMO (Multiple Input Multiple Output antenna、多入力・多出力アンテナ) などの機能追加が行われる予定である。
3GPPにおける標準化のプロセス
3GPPに参加しているSDOは、ここで作成された技術仕様を各SDOの標準として採用することを約束しており、参加しているSDO間で技術仕様の共通化が図れることになる。3GPPでは、次の合意事項のもとに、共同で標準化作業を行っている。
(1) SDO間で重複した作業を止めて、共通な技術仕様作成に貢献すること。
(2) 3GPPで作成したすべての技術仕様書を、内容の変更を行わず各SDOの標準に変換すること。
(3) 各地域や各国の行政的な要求条件は可能な限り早期に指摘し、技術仕様のオプションにすること。
(4) 知的所有権 (IPR:Intellectual Property Rights) 方針を明確にすること。
ITU-R (International Telecommunication Union-Radio Communication Sector、国際電気通信連合 無線通信部門) は、無線インタフェース詳細勧告 (ITU-R勧告M.1457) の中で、各地域や各国の標準を参照しており、各無線方式の研究開発の進展に基づいて、勧告M.1457の改訂の是非について検討している。
ITU-Rで勧告されたIMT-2000の地上系無線インタフェースの中には、個別のSDOの標準を参照しているものもある。3GPPは、あくまでもSDO間の共同作業の場であり、法的機関ではないため、ITU-Rは3GPPが作成した技術仕様を正式に参照できない。そこで、ITUへの対応については、3GPPに参加しているSDOの参加メンバーが代わりに行っている (図1)。
今後の動向
無線インタフェースの中長期的なエボリューション(発展)として、何を模索すべきかをテーマとしたワークショップ (TSG RAN Long Term Evolution Workshop) が、2004年12月にカナダ・トロントで開催された。
このワークショップの結果を受けて、2004年12月にギリシャ・アテネで開催されたTSG-RAN第26回会合で、RANの長期的エボリューション (LTE:Long Term Evolution) がスタディ・アイテム (SI:Study Item、検討項目) として承認された。このSIの目的は、大容量、低遅延、パケット伝送への親和性の高い3GPP無線アクセス技術のフレームワークの検討を行うことで、長期の作業となるため、リリース7の機能には盛り込まないことが確認されている。
このLTEは、2006年6月の第32回TSG-RAN会合でSIフェーズを終了し、その後通常のワーク・アイテム (WI:Work Item、作業項目) に移行する予定になっていたが、SIは9月会合まで継続して検討することになった。
3GPPでは、無線インタフェースの周波数利用効率の向上、低コスト化などの中長期的なさらなる発展に向け、新規技術や機能拡張の検討が進められる予定である。また、オールIPネットワークに向けた検討も精力的に進められると予想される。