移動体通信の国際的な標準化団体である3GPP(Third Generation Partnership Project)は2018年6月14日(アメリカ西海岸時間)、関連業者を集めた会合を開いて「3GPP Release 15」の標準化が完了したと発表した。これで、次世代移動体通信方式である「5G Phase 1」の仕様標準化が完了し、関連業者は5Gのサービス提供、あるいは5Gを活用した新たなサービスの提供に向かって準備を始めることになる。今回の会合には通信事業者、通信機器メーカー、通信用半導体メーカーなど世界51社が参加した。
Release 15では、コアネットワークや基地局など無線ネットワークを構成する機器すべてに5G専用のものを使用して構成する「スタンドアロン」ネットワークの仕様を策定した。ちなみに2017年12月には、LTEネットワークと5Gネットワークを組み合わせて運用する「ノンスタンドアロン」ネットワークの仕様を策定している。
図 左が5Gの「ノンスタンドアロン」ネットワークで、右が「スタンドアロン」ネットワークの模式図
出所 NTTドコモ
上図左に挙げたノンスタンドアローンの無線ネットワーク(RAN:Radio Access Network)では、LTEで使用しているコアネットワークであるEPC(Evolved Packet Core)と、LTE向け基地局であるeNB(eNodeB)で構成する無線ネットワークに5G用の基地局(gNB:gNodeB)が参加し、eNBとgNBの両方がエンドユーザーの機器に電波を送る構成になる。つまり、エンドユーザーは同じエリア内でLTEと5Gの両方を利用できる。
5G用の基地局であるgNBは、4G用の基地局と同様にコアネットワークであるEPCに「S1」インターフェイスで接続する。そして、gNBとeNBの間は、「X2」インターフェイスで接続する。X2インターフェイスはeNB同士の接続に使用するインターフェイスだが、5Gではノンスタンドアローンネットワークに向けて拡張した仕様を策定している。
一方、上図右のスタンドアローンネットワークでは5G向けのコアネットワークである5GC5G Core Network)を使用し、基地局はすべて5G用のgNBとなる。それぞれを接続するインターフェイスも5G向けのものになる。
今回、5G Phase 1の仕様が固まったことから、各国の携帯電話事業者はサービス提供に向けて本格的な準備に入る。サービス提供開始は2020年ごろになる見込みだ。ただし、その頃には5G通信サービスは一部のエリアのみで提供することになる見込みで、新しく登場する5G対応通信端末はLTEにも対応したものになりそうだ。
そのため、5Gの通信サービス提供開始当初は、LTEと5Gの基地局を組み合わせるノンスタンドアローンの無線通信ネットワークでLTEと5Gの両方のサービスを提供することになる予定だ。スタンドアローンの無線通信ネットワークは、5Gの普及が進み、LTEのサービスを提供する必要がなくなったところで使い始める。
5Gでは通信速度を下り20Gビット/秒、上り10Gビット/秒と、現行のLTEに比べて大幅に引き上げる。そして、標準的な用途のほかに自動運転や、機器の遠隔操作など、ごく短い遅延しか許容せず、通信エラーの発生が致命的な事態を起こしかねない用途や、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)端末を想定した、低速通信で大量の端末とつながるといった用途を想定して、それぞれの要求仕様を規定している。5G Phase 1ではIoT端末を想定した通信には、LTEを基にした「NB-IoT」など、既存の規格を使うことが決まっている。5G独自のIoT端末向け通信仕様はRelease 16以降で策定する予定だ。
ちなみに、今回仕様策定が完了した5Gの仕様は「Phase 1」だ。3GPPは「Release 16」以降で拡張機能など、5Gの「第2版」とも言うべき「Phase 2」を策定する。Release 16の策定完了は2019年末の予定だ。