[特集]

動き出したローカル5Gの最新市場動向

― 稼働したドイツ・ベンツの自動車工場やローカル5G向け測定器の事例 ―
2020/10/01
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ローカル5Gの実際の導入事例:富士通とダイムラー

 ここで、ローカル5Gの導入例として、日本初となる富士通の事例と、自動車工場への導入としては世界初となるドイツのダイムラー社の事例を紹介する。

〔1〕富士通が日本初の商用ローカル5Gの運用開始

 富士通は、商用のローカル5Gの無線局〔基地局および陸上移動局(データ通信端末)〕の免許を総務省から取得し、富士通新川崎テクノロジースクエア(所在地:神奈川県川崎市、敷地面積:約2万8,000m²)で、国内初となるローカル5Gシステムの実運用を2020年3月27日に開始した。

 図4に、同社に導入されたローカル5Gシステムの構成を示す。このシステムは、

図4 国内初の商用のローカル5Gを運用開始した富士通のシステム構成

図4 国内初の商用のローカル5Gを運用開始した富士通のシステム構成

出所 富士通プレスリリース、「国内初の商用のローカル5Gを運用開始」、2020年3月27日

  1. 「データ伝送」には、新たに総務省から割り当てられた5G NRの電波(5G NR:28.2〜28.3GHzの100MHz幅、後出の図5参照)を使用し、
  2. 無線基地局と陸上移動局(スマホ)との「接続制御(通信制御)」には、既存の4G LTEの電波を利用する、5G-NSA(ノンスタンドアロン、表1参照)方式となっている注11

 同システムでは、同拠点内において多地点カメラ(図4の下部)で収集した高精細映像のデータ伝送にローカル5Gを活用し、AIによる人間のさまざまな動作解析を行うことによって、不審な行動などを早期に検知するセキュリティシステムを実現し、建物内の防犯対策を強化している。

 今後、スマートファクトリーの実現に向けて、同社のネットワーク機器の製造拠点である小山工場(所在地:栃木県小山市)などでも、ローカル5Gの有用性を検証していく。

 現在、日本では、ローカル5G市場に参入するベンダや、ローカル5Gを導入予定の企業の実証が相次いでいる。

〔2〕「ダイムラー」が自動車工場に世界初のローカル5Gを導入

 2020年9月2日、ドイツの自動車会社「ダイムラー(Daimler AG)」(ブランド名:メルセデス・ベンツ)は、本社があるドイツ南西部のシュツットガルト近郊のジンデルフィンゲン(Sindelfingen)に建設していた最新鋭のインダストリー4.0工場「ファクトリー56(Factory 56)」(敷地面積:20,000m²以上)の操業開始を発表した(写真1)注12。この工場は、「メルセデス・ベンツの次世代工場」ともいわれている。

写真1 世界初のローカル5Gを導入したダイムラー社の「ファクトリー56」の外観

写真1 世界初のローカル5Gを導入したダイムラー社の「ファクトリー56」の外観

出所 Daimler AG.プレスリリース、「With its Factory 56, Mercedes-Benz is presenting the future of production」、2020年9月2日

 同工場には、スペインの通信会社テレフォニカの子会社テレフォニカ・ドイツと、スウェーデンの通信機器サプライヤーのエリクソンとともに、世界初の自動車生産用のローカル5Gを導入した。工場内には多数のローカル5G用の屋内アンテナと5Gハブ(高機能・高速ルータのような装置)が設置されている。

 また、ファクトリー56は、“Digital、Flexible、Green”のコンセプトのもとに、脱炭素に向けてCO2ニュートラル(ゼロカーボン)を実現するとともに、インダストリー4.0の可能性を最大限に活用できるよう、AI(人工知能)やビッグデータ分析などのデジタル技術を駆使した柔軟な製造ラインとなっている。

 例えば、この柔軟な製造ラインによって、エンジン搭載車から電動車(EV/PHEV)、新世代のSクラス製品(ベンツの最上位モデル)などの異なったタイプの新車の製造ラインの量産を、数日で移行可能となっている。

 ファクトリー56は、ゼロカーボンファクトリーとして運営するとともに、工場の消費電力は、他のダイムラーの工場よりも25%も省電力化を実現している。

 さらに工場の屋上には太陽光発電システムが設置され、ファクトリー56の年間電力需要の約30%をカバーしている(写真2)。

写真2 「ファクトリー56」の屋上に設置された太陽光パネル群

写真2 「ファクトリー56」の屋上に設置された太陽光パネル群

出所 Daimler AG.プレスリリース、「With its Factory 56, Mercedes-Benz is presenting the future of production」、2020年9月2日


▼ 注11
4G LTEバンド:2575〜2595MHzの20MHz幅。この制御信号を扱う4G LTEバンドをアンカーバンドという。

▼ 注12
「Mobile network of the future. The world's first 5G network for automobile production」

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