[特集]

動き出したローカル5Gの最新市場動向

― 稼働したドイツ・ベンツの自動車工場やローカル5G向け測定器の事例 ―
2020/10/01
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ローカル5の普及予測とローカル5の特徴

 日本では、5Gの商用サービスが開始されたとはいえ、全国的に5G商用サービスが提供されるには、5G基地局の設置も含めてまだ時間を要する。例えば、日本の5G回線の普及率は2024年時点で26.5%、全国で概ね利用可能になるのは2025年頃と予測されている(IDC Japan)注13

 そのため、地域ニーズや個別ニーズに応じて局所的な通信環境(自営ネットワーク)で5G技術を活用して構築する、ローカル5Gへの期待が高まっている。

 ローカル5Gの主な特徴を整理すると、次のようになる。

  1. 大手通信事業者と同等の通信の安定性
    5Gがもつ高速大容量(eMBB)、多同時接続(mMTC)、超低遅延(URLLC)などの通信環境をローカル5Gとして構築可能であること。
  2. 高いセキュリティの実現
    企業のオフィスあるいは工場などに、キャリアグレードの独自ネットワークを構築するため、高セキュリティを担保できること。
  3. 低遅延な通信が可能
    前述したようにローカル5Gは、パブリック5Gの仕様をベースにしているので、端末と基地局間で低遅延な通信が可能であること。

ローカル5Gの周波数割当と導入スケジュール

〔1〕ローカル5Gの周波数割当

 2019年4月に、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、および楽天モバイルの4社にパブリック5Gの電波(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)が割り当てられ注14、2020年3月から、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク3社が、それぞれeMBBを実装した5G商用サービスを開始し、同時に5Gスマホが市場に投入された。楽天モバイルは同年9月30日から、5Gサービスを開始した。

 一方、ローカル5G用の周波数については、図5に示すように、28.2〜28.3GHzの周波数帯が先行して制度整備され、2019年12月24日から免許申請の受付が開始された。これに加えて、追加割り当て候補の4.6〜4.9GHz(図5のローカル5G①とローカル5G③)と28.3〜29.1GHz(図5のローカル5G②)の周波数帯については、同一・隣接帯域の既存無線システムの影響を考慮しつつ、共用利用などが2020年末までの制度整備に向けて検討されている。

図5 ローカル5Gの周波数帯(点線で囲った部分①、②、③)の割当と導入スケジュール

図5 ローカル5Gの周波数帯(点線で囲った部分①、②、③)の割当と導入スケジュール

出所 アンリツ、「ローカル5G市場動向と導入課題解決へのアンリツの貢献」(2020年8月25日)をもとに編集部で一部加筆・修正

〔2〕ローカル5Gの導入スケジュール

 図6は、ローカル5Gの動向を整理し、今後のローカル5G導入スケジュールを概観したものである。

図6 ローカル5G導入スケジュール

図6 ローカル5G導入スケジュール

PoC:Proof of Concept、概念実証。新しいアイディアやコンセプト(概念)の実現可能性やその効果等を実証すること。
出所 アンリツ、「ローカル5G市場動向と導入課題解決へのアンリツの貢献」、2020年8月25日

 図6に示すように、Smart Factory(スマートファクトリー)分野、ケーブルTV分野、その他(地方創生など)において、実証実験が行われており、全体としてローカル5Gの導入は、2021年頃から本格化すると見られている。

〔3〕ローカル5Gの実現に向けた開発実証

 総務省は、令和2(2020)年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」の取り組むべき地域課題について、令和2(2020)年2月6日〜同年3月6日の間、広く募集を行い、その結果、174件の提案が提出された。

 この提案をもとに審査が行われ、令和2(2020)年度実証事業において参考とする課題提案を選定し、その実証課題の概要を公表した。表2に、公表された地域課題解決型ローカル5G実現の開発実証の一例を示す。

表2 地域課題解決型ローカル5G実現の開発実証例

表2 地域課題解決型ローカル5G実現の開発実証例

MR:Mixed Reality、複合現実。VR(仮想現実)とAR(各超現実)を組み合わせた技術
〔出典:総務省、令和2年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に係る提案募集の実施結果及び実証課題の公表から一部抜粋
出所 アンリツ、「ローカル5G市場動向と導入課題解決へのアンリツの貢献」、2020年8月25日

 総務省は、選定された提案を参考にして、今後、この実証事業を推進していく計画だ。さらに、いくつかの企業では、環境・エネルギー分野においてローカル5Gを活用し、太陽光パネルや蓄電池、電動車(EV/PHEV)などの分散電源を接続して制御することによって、安定したVPP(仮想発電所)を実現し、運営する研究なども進められている。


▼ 注13
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46362220

▼ 注14
総務省、「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」(申請及び審査の概要))、平成31(2019年)年4月、14ページ参照。

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