[特集]

動き出したローカル5Gの最新市場動向

― 稼働したドイツ・ベンツの自動車工場やローカル5G向け測定器の事例 ―
2020/10/01
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版」を発表

 ローカル5Gの動きに対応して、5Gに関する標準化や研究開発、普及促進を展開している日本の5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム、2014年9月30日設立)は、ローカル5Gの普及・促進を目指して最新版「ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版」

(写真3)を発表した注15

写真3 『ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版』の表紙(2020年4月1日発行、全98ページ)

写真3 『ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版』の表紙(2020年4月1日発行、全98ページ)

出所 https://5gmf.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/local-5g-manual1-2_2.pdf

 この背景には、2019年12月の電波法関連法令の制度改正によって、前述した28GHz帯の一部の帯域(28.2〜28.3GHz)においてローカル5Gの利用が可能になったことがある。

 そこで、ローカル5Gを構築しようとする人々の、無線局免許申請する際の具体的な手続きを支援する手引き書として、5GMFによってローカル5G免許申請支援マニュアルが作成された。例えば、図7に示すように、同マニュアルには「ローカル5Gの無線局の開設に当たって、必要な電波の干渉調整」の方法とその仕組みなども紹介されている。

図7 ローカル5Gの無線局の開設に当たり必要な電波の干渉調整の仕組み

図7 ローカル5Gの無線局の開設に当たり必要な電波の干渉調整の仕組み

出所 5GMF「ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版」、2020年4月1日

ローカル5Gを導入する際の課題と検証

 ローカル5Gの導入に向けた環境は整備されてきたが、企業や自治体が実際にローカル5Gを導入する場合、前出の表2に示した例のように、工場や漁業、農業、医療分野に至るまで、多彩なユースケースが想定されている。

 このため、実際にローカル5Gの通信システムを導入するには、導入する企業や自治体が、外部のローカル5G運用者に委託することも含めて、自身のエリアの電波状況の検証やデータの遅延特性、伝播状況などの検証を行うことが求められる。

 このような検証に備えて、アンリツ注16は、パブリック5Gはもとより、ローカル5Gを導入する際の課題解決に向けて、各種の計測器を提供している。

 例えば、日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルをはじめ、米国ベライゾン、AT&T、Tモバイル、中国移動(中国)、KT(韓国)、テレコムイタリア、ハチソン(香港)、KPN(オランダ)などの通信事業者をはじめ、クアルコム(米国)やサムスン(韓国)、メディアテック(台湾)などの5G開発のキープレーヤー企業にも、5G関連計測器を提供している。

〔1〕ローカル5G導入の課題

 ここで、ローカル5G導入の際に解決しておくべき主な課題例を整理してみる。

(1)エリア設計/検証①:電波干渉対策

 まず、電波干渉対策である。すでにサービスを展開している地域BWA(前出の図5参照)と、これから構築する自営ローカル5Gの電波の干渉検証(LTE 2.5GHz帯)を検証することが求められる。

 具体的には、5G NSAを導入する場合は、①5G NSAで使用する制御信号を扱う4G LTE周波数帯(アンカーバンド)と、②地域BWAで使用する4G LTE周波数帯が、同じ2.5GHz帯で重なるため、事前にその電波干渉対策を検討し準備しておくことが有効となる(前出の図4参照)。

(2)エリア設計/検証②:ヒートマップによる可視化

 電波は、周波数が高くなるほど直進性が高くなり、障害物があると回り込まなく反射してしまうため、電波が遠くまで届きにくい。特に、ローカル5Gで使えるようになった周波数の高い28GHz帯(ミリ波帯ともいわれる)はこのような特性が強い。

 例えば、工場内でドアを閉めたりすると、ドアによって電波が遮蔽されるため、電波の室内への到達距離は極端に短くなり、通信距離が短くなってしまう。このため、電波の伝播状況をヒートマップ(電波の強弱を色で視覚化:例えば、赤は強い、青は弱い、黄色はその中間等)などで可視化して検証する。同時に、電波の強さを示す電界強度の計測も重要である。

(3)データ遅延の検証

 3GPPリリース16では、端末と基地局間の無線区間における、データの往復遅延時間が1ms(1ミリ秒)と高信頼・低遅延(URLLC)規格が仕様化されている。このため、ローカル5Gネットワークにおいても、遅延発生時間が長くなったりしていないかどうか、その原因を計測し検証することが重要となる。

 例えば、スマートファクトリー(例:インダストリー4.0)の場合、モニターに映し出された映像データをAIが処理し、ロボットを制御する一連の動作の中で伝送データの遅延が大きいと、ロボットのリアルタイム制御ができないため、作業効率が低下したり、事故リスクが大きくなるなどの可能性ある。

(4)品質保証

 実環境では、スマホやロボットなどの無線端末が「つながらない、すぐ回線が切れる」や、「通信エラーが頻発し、通信速度が遅い」などのクレームが増加してしまうケースもあり、通信品質の維持や保証は重要な課題である。

 一方、無線の送受信特性や無線機器間の接続性の確認し、アンテナ特性も含めて、確実に安定した通信ができる特性試験も重要である。さらに、SIMカード差し替えによる接続性不具合などの検証も行う必要がある。

 以上は、ローカル5Gの導入にあたって、現場における重要なチェックポイント(検証項目)のうちの一部である。

〔2〕ローカル5G導入の検証を行う計測器の例

 アンリツでは、このような検証を容易に行うため、例えば図8に示すような、ローカル5G向け測定器の「3点セット」〔①MS2090A(スペクトラムアナライザ:波形解析測定器)、②ML8780A/ML8781A(電界強度測定器)、③MT1000A(遅延測定器)〕を提供している。

図8 アンリツのローカル5G向け測定器の「3点セット」

図8 アンリツのローカル5G向け測定器の「3点セット」

出所 アンリツ、「ローカル5G市場動向と導入課題解決へのアンリツの貢献」、2020年8月25日

 図9は、ローカル5Gを導入するネットワーク環境で、図8に示したローカル5G向け測定器「3点セット」の活用場所を示したものである。

図9 ローカル5Gネットワークとアンリツのハンドヘルド測定器(図8のローカル5G向け測定器「3点セット」の活用場所)

図9 ローカル5Gネットワークとアンリツのハンドヘルド測定器(図8のローカル5G向け測定器「3点セット」の活用場所)

MFH :Mobile Fronthaul、モバイルフロントホール。無線区間における、無線基地局を含めた無線アクセスネットワーク〔RU(無線子局)/RoEとDU間)。
MBH :Mobile Backhaul、モバイルバックホール。複数の無線基地局に接続されるDU(Distributed Unit、分散ノード)とそれを束ねるCU(Central Unit、集約ノード)を経由して、コアネットワーク(基幹通信網)とつなぐ固定回線網。中継網ともいわれる。
出所 アンリツ、「ローカル5G市場動向と導入課題解決へのアンリツの貢献」、2020年8月25日


▼ 注15
「ローカル5G免許申請支援マニュアル1.2版」でのローカル5Gの位置づけ:ローカル5Gは、携帯電話事業者による全国向けの5Gとは別に、地域の企業や自治体等のさまざまな主体が、自らの建物や敷地内でスポット的に柔軟にネットワークを構築して利用可能とする無線システムである。1.0版は2019年12月24日、1.1版は2019年2月28日に発行された。

▼ 注16
【アンリツ株式会社のプロフィール(敬称略)】
・本社:〒243-8555 神奈川県厚木市恩名5-1-1
・売上高:約1,070憶円(2020年3月期:連結)
・従業員数:3,881名(2020年3月31日現在、連結)
・代表者:濱田宏一(はまだ ひろかず)
https://www.anritsu.com/ja-JP/about-anritsu/corporate-information/profile
※アンリツのローカル5G関連の測定器については、『5G, 4G and 3G Testing with Anritsu |アンリツグループ「5G導入の背景とアンリツの取り組み」』(「ローカル5G(Local 5G)」の特集ページ)のサイトを参照。

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