[特別レポート]

ガートナーの「2021年の戦略的テクノロジー・トップ・トレンド」

― ニューノーマル時代の企業競争に不可欠な戦略的プランニング ―
2020/12/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

3つの戦略的テクノロジー・トップ・トレンド

〔1〕人中心

 人中心(People Centricity)とは、人々の振る舞いや、エクスペリエンス(経験)、プライバシーなどがどう変わるかということに焦点を当て、さらに技術がいかにビジネスエコシステム全体の利害関係者に影響を与え、俊敏性のある組織の土台になるか、ということを示す。

 ここでの特徴的なものは、2019年のトップ・トレンドとして挙げた「マルチエクスペリエンス」注1から1歩進めて、「トータル・エクスペリエンス」を提唱している点である。

 これは、マルチエクスペリエンスと顧客/従業員/ユーザー・エクスペリエンスのすべてを結びつけ、優れたエクスペリエンスを生み出す戦略である。これによって、複数の人々に向けて相互に有益なビジネス成果を達成できる、

〔2〕ロケーションの独立性

 COVID-19によるパンデミックによって、リモート回線の使用が加速し増大している。

 従業員や顧客、サプライヤー(材料・製品等の納入業者)などの利害関係者は場所を問わず、あらゆるところにビジネスエコシステムが存在する。

 さらにセキュリティも、場所に依存しないビジネスモデルの必要性に対応しなければならない。

 このような物理的・仮想的空間の切り替えに、企業はどう適応していくか、また、空間全体でデジタルサービスやデジタル強化されたエクスペリエンスを、顧客にどのように提供するのか。

 分散クラウドは、これらのニーズに必要となるシステムであり、企業は分散クラウドを利用して、自社のサービスを顧客に提供し、これによって顧客は革新的なビジネスモデルを実現できるようになる。分散クラウドの形態には、図2に示す5つのようなものがある。

図2 分散クラウドの一連の流れ

図2 分散クラウドの一連の流れ

オンプレミス・パブリック・クラウド:組織のデータセンターにおける、パブリッククラウドサービスの展開。組織は共通サービスの上に構築可能。またパブリッククラウドプロバイダは、運用コントロールプレーン(制御機能)とセキュリティの境界を管理する。
IoTエッジクラウド:エッジデバイスと直接対話する分散型サービス。
都市圏コミュニティ・クラウド:複数の顧客に接続する都市またはメトロエリア(都市圏)のノード(各機器・システム等)へ分散して提供するクラウドサービス。
5Gモバイル・エッジ・クラウド:5G通信ネットワークの一部として提供する分散型クラウドサービス。
ネットワーク・エッジ・クラウド:基地局やHUB(接続装置)、ルータなどのネットワークやインフラと統合するように設計されたクラウド。
出所 ブライアン・バーク、「2021年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」、Gartner IT Symposium/Xpo 2020(ガートナー、2020年11月17日)をもとに編集部で加筆・修正

〔3〕レジリエンスの高いデリバリー

 回復力のある組織とテクノロジーアーキテクチャは、企業のさまざまな課題を克服し、さらに新しいビジネス機会を捉えるために、迅速に適応する必要がある。高度な自動化やAIテクノロジーを駆使して、レジリエンス(柔軟な回復力)を発揮する必要がある。ここで提唱される特徴的な技術が、ハイパーオートメーション注2である(図3)。

図3 自動化の範囲を広げるガートナーのハイパーオートメーション

図3 自動化の範囲を広げるガートナーのハイパーオートメーション

出所 ブライアン・バーク、「2021年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」、Gartner IT Symposium/Xpo 2020、ガートナー、2020年11月17日

 当初はタスクレベル(1つのツール、図3左下)であったものが、現在では、プロセス(複数のツール)や、複数の機能間のオーケストレーション(プラットフォーム)のレベルに位置するが、これをさらに高度化し、パートナーや顧客、サプライヤーに提供できるようになると、新たなビジネスモデルを創出できる(図3右上)。

 自動化できるものはすべて自動化することによって、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が実現できる。

企業はパンデミック後の世界(ニューノーマル)に向けた計画が必要

 これまで述べた3つの戦略的テクノロージー・トップ・トレンドは、それぞれ孤立して存在はせず、相互に強化し合いながらデジタル世界を構成する。

「組み合わせによるイノベーションは、企業にとって包括的なテーマであり、それは戦略的テクノロジー・トップ・トレンドの重要な特徴である」とバーク氏は述べる。

 このトレンドは、今後5年以内にビジネスに破壊的(Disruptive)な影響を及ぼし、イノベーションの土台となるものであり、「決して無視してはならないトレンドである」とバーク氏は強調する。

 とりわけ今後、企業は、パンデミックによって引き起こされたビジネスの不確実性に対処し、パンデミック後の世界(ニューノーマル)に向けた計画が重要になる。


▼ 注1
デバイスやシステムの利用を通じてユーザーが得る体験のことを「ユーザー・エクスペリエンス」というが、更に発展して、スマートデバイスやVR/AR(仮想現実/拡張現実)といった多種多様な複数にまたがる体験を「マルチエクスペリエンス」という。

▼ 注2
ハイパーオートメーション:RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とAIや機械学習などを組み合わせることで、企業内の複数業務を横断的に自動化すること。これまで専門家を必要としていた複雑なビジネスプロセスをも自動化でき、オートメーション自体も自動化し、さらに高度化する。

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