[特別レポート]

エネルギー政策の新たな中長期指針「第7次エネルギー基本計画」が策定!

― 再エネ主力電源化へ歴史的な大転換を目指す ―
2025/03/11
(火)

日本におけるエネルギー政策の新たな中長期の指針として注目されていた、「第7次エネルギー基本計画」が2025年2月18日に閣議決定された。エネルギーは、私達の経済活動や暮らしのまさに原動力であり、その計画は、同時に今後の地球温暖化や脱炭素に向けた社会活動・企業活動を大きく左右するものだ。
ここでは、同エネルギー基本計画の概要について前後編でレポートする。前編では、日本のエネルギー基本計画の歴史を整理した後、主に第7次エネルギー基本計画策定のポイントやその背景についてレポートする。

更なる再エネの主力電源化、原発の再定義、経済効率性の向上

 エネルギー基本計画は、日本の中長期的なエネルギー政策の指針としてエネルギー政策基本法に基づき政府が策定しているもので、2003年10月の第1次エネルギー基本計画の策定以降、3〜4年ごとに計画が見直され発表されている(表1)。
 前回の第6次エネルギー基本計画の策定は2021年に策定されている。前年(2020年)の10月に菅内閣総理大臣(当時)が発表した「2050年にカーボンニュートラル宣言」を受けて2030年の温室効果ガス排出量46%削減が目標とされ、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化、原子力発電や水素・アンモニアなどの活用などの方向性が示された。
 そして2025年2月18日、最新となる第7次エネルギー基本計画が閣議決定され資源エネルギー庁から公開された注1。第7次エネルギー基本計画の大きなポイントとして、以下の3点が挙げられる。
 (1)再エネの主力電源化を急ぐ
 (2)脱炭素電源として原子力の再定義
 (3)「GX2040ビジョン:脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」との協調による、更なる経済合理性の確立

表1 日本のエネルギー基本計画の歴史
エネルギーミックス:電源構成ともいわれる。社会に供給する電気(エネルギー)を、いろいろな発電方法(例:火力・水力・原子力・再エネ等の電源)を組み合わせて提供すること
GX2040ビジョン:2040年を見据えて脱炭素社会と産業振興の両立を目指す、新たな国家戦略。2050年カーボンニュートラル に向け、2023 年度から10年間で官民150兆円超のGX投資を実現する
GX: Green Transformation、温室効果ガス(CO2)を排出する化石燃料ではなく太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、社会全体を変革する取り組み
出所 各種資料より編集部作成

再エネ4〜5割、原発2割程度の電源構成を目指す

 2040年のエネルギー自給率や発電電力量、電源構成などの見通し(図1)と、消費量と発電電力量の需給の見通し(図2)は、第7次エネルギー基本計画の参考資料として発表されたもの。
 エネルギー自給率は、エネルギー安全保障の観点から2023年度の15.3%に比べて、3〜4割程度と大幅に引き上げられ、電源構成として再エネが2023年度の22.9%から4〜5割へ、その中でも太陽光発電が大きく23〜29%を占める。他の風力、水力、地熱、バイオマスの各発電も大幅な増加を見込んでいる。
 一方、第4次エネルギー基本計画では依存度を減らすとされていた原子力発電が見直され、同見通しでは2割程度とされている。
 さらにCO2などの温室効果ガス排出量の多い火力発電は、2023年度では68.6%を占めていたが、3~4割程度に縮小する。
 最終エネルギー消費量は、省エネルギー化の一層の進展を前提に、2022年度実績の3.1億kL(キロリットル)から2.6~2.7億kL程度とされ、発電電力量は同1兆kWhから1.1~1.2兆kWh程度ヘの増加が見込まれている。
 これらを総合して温室効果ガスの削減割合(2013年度比)は、22.9%(2022年度実績)から同見通しでは73%となっている。

図1 [参考]2040年度におけるエネルギー需給の見通し

出所 資源エネルギー庁、令和7(2025)年2月、「エネルギー基本計画の概要」

図2 [参考]エネルギー需給の見通し(イメージ)

※編集部注 PV:Photovoltaic、太陽光発電の意味
出所 資源エネルギー庁、令和7(2025)年2月、「エネルギー基本計画の概要」

エネルギー基本計画策定の背景

〔1〕エネルギー政策策定の大前提:「S+3E」
 日本のエネルギー政策は、安全性(Safety)を大前提に、エネルギー安定供給(Energy Security)を第一として、経済効率性の向上(Economic Efficiency)と環境への適合(Environment)を図る「S+3Eの原則」を大前提としている。これは、資源に乏しく、山と深い海に囲まれているといった地理的制約によるものであり、エネルギー基本計画の根幹となっている。
 その上で今後は、サプライチェーンの維持・確保といった視点に加え、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化といった国際的な地政学リスクの高まりや、気候変動問題といった国際的など国際的な視点も重要となる。

〔2〕ウクライナ侵略/電力需要の増加/更なる経済成長などの課題
 2022年2月24日に始まった、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化などによってエネルギー価格が上昇し、日本のエネルギー供給体制の脆弱性が再認識された。また、気候変動問題で世界的な脱炭素の潮流が拡大している中、エネルギー需要の増加や再エネなどへの投資が増加傾向にあり、その影響で化石燃料の価格変動が大きくなる可能性がある。
 一方、世界の電力需要は増加傾向にあり、国内でもDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などの進展やそれに伴う生成AIやデータセンター需要の増加によって、電力需要が増加に転じると予測されている。
 脱炭素に関しては、欧米各国で2050年カーボンニュートラル実現に向けた野心的な目標を堅持しながら、現実的なアプローチが増えている。特に、脱炭素に伴うエネルギー需給構造の転換を自国の経済成長に結びつけようとする動きが広がっており、米国では「インフレ削減法」注2、欧州では「REPowerEU(リパワーEU)計画」注3「グリーンディール産業計画」注4などが進められている。
 これに呼応して日本でも、2040年を見据えて、エネルギー安定供給や経済成長、脱炭素の同時実現を目指す新たな国家戦略として「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」を改訂し、2025年2月に新たに「GX2040ビジョン」が策定された注5
 第7次エネルギー基本計画は、このGX2040ビジョンと一体となり、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指す取り組みを加速する内容となっている。
(後編に続く)


注1資源エネルギー庁、「第7次エネルギー基本計画(令和7年2月)」、令和7(2025)年2月18日
注2:インフレ削減法:過剰なインフレ抑制と気候変動対策を目的に、2022年8月に成立。
注3:REPowerEU計画:ロシアからの化石燃料の輸入を段階的に廃止し、エネルギーの節約や供給の多様化、クリーンエネルギーの生産を促進することを目的としたEU(欧州委員会)の政策。2022年3月8日に発表。
注4:グリーンディール産業計画:温室効果ガス排出実質ゼロの実現とともに、産業の競争力を強化するためのEUの計画。2023年2月1日に発表。
注5経済産業省、『「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略改訂」が閣議決定されました』、2025年2月18日

参考サイト

経済産業省、ニュースリリース2025年2月18日、「第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました」

経済産業省、ニュースリリース2025年2月18日、「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」が閣議決定されました」

〈第7次エネルギー基本計画 PDF資料 〉
第7次エネルギー基本計画

第7次エネルギー基本計画の概要

2040年度におけるエネルギー需給の見通し (関連資料)

〈GX2040ビジョン PDF資料 〉
GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂~、令和7(2025)年2月

GX2040ビジョンの概要(1枚)

GX2040ビジョンの概要(詳細版)

資源エネルギー庁、「第6次エネルギー基本計画について」、令和4(2025)年2月

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