[特別レポート]

エリクソンモビリティレポートで読み解く5Gの現状(2.2億契約)と今後の進展

― 活発化する「フル仕様の5Gシステム」の導入 ―
2021/01/10
(日)
フリーライター 狐塚 淳/インプレスSmartGridニューズレター編集部

2026年には5Gの人口カバレッジは60%に、国ごとに差の激しい5G展開

5Gの人口カバレッジは2020年末には15%であるが、2026年には60%に拡大すると予測されている。

2020年11月時点で、49カ国の122事業者が5G商用化に対応しているが、エリクソンも72事業者に5Gの商用システムを提供している。図4に示すように、これまでの提供実績は、ミリ波のハイバンド(24GHz帯以上)について日本と北米が先行しており、韓国もこれから拡大しそうである。

図4 エリクソンのサポートする商用5G周波数帯別の例

図4 エリクソンのサポートする商用5G周波数帯別の例

※2020年9月現在の公表された商用ネットワーク情報
出所 エリクソン・ジャパン 藤岡 雅宣氏、2020年12月17日オンラインメディアブリーフィング「エリクソンモビリティレポート2020年11月」より

〔1〕5G SAの導入が活発化する米国

各国の状況を見ると、米国ではベライゾンが先行していたが、最近ではカバレッジ(通信範囲)を増やし、2020年末には60都市をカバーしている。また、Wavelength注8を導入し、最終的に20ms程度のMEC注9遅延を実現する予定である。

AT&Tは、39GHz帯に加えて850MHz帯も利用し、395都市で展開している。同社ではSA構成を導入し、60%の人口をカバーしている。さらにT-Mobileは、7,500都市をカバーし、600MHz帯、2.5GHz帯、28/39GHz帯の3階層5Gが充実している。同社は、SAを2020年8月から導入した。

〔2〕先進的な韓国・中国

韓国は5Gの先進国である。2020年になって少し低下したようだが、2019年にはエリクソンとの契約の95%が5Gであった。同国の5Gユーザーは、LTEユーザーの2.5倍のデータ量を使用している。

中国は、全土で80万の基地局があり、1億5千万の5G端末が存在する。すでに5Gフル仕様であるSAも導入されている。5Gコアは、テンセントとチャイナモバイルがシェアリングして展開している。

〔3〕世界の5Gの通信速度

世界の5G通信速度は、2020年の7〜9月では4Gの数倍〜10倍以上という数字となっているが、目立つのは、サウジアラビアが12.5倍となっていることだ。

また、5Gユーザーが5Gと4Gのどちらを使用しているかの時間を比較すると5Gのカバレッジがわかるが、サウジアラビアで37%、欧州やアジアで22%という数字になっている。

以上が、モバイルの最新状況とそれをもとにした将来予測となるが、以降では、モバイル通信関係で注目すべき「FirstNet」「グローバル企業のネットワーク強化」「クラウドゲーム」「通信事業者の3つのビジネス戦略」などのトピックスを見ていこう。

5G化でさらなる公共安全を目指すFirstNetのネットワーク

〔1〕注目される米国のFirstNet

FirstNetは、公共安全のための米国の全国無線ブロードバンド網である。FirstNetの構築事業者としては2017年にAT&Tが選定され、ネットワークを構築した(図5)。

図5 FirstNetのネットワークアーキテクチャ

図5 FirstNetのネットワークアーキテクチャ

出所 エリクソン・ジャパン 藤岡 雅宣氏、2020年12月17日オンラインメディアブリーフィング「エリクソンモビリティレポート2020年11月」資料を一部加筆・修正

帯域は700MHz帯の20MHz幅が付与され、予算は7,700億円規模のプロジェクトだった。2018年に全国での運用が開始されたが、2020年は自然災害が多かったため、FirstNetが活躍した。警察、消防、救急をはじめ、一部工場など1万4千施設がFirstNetにつながっている。

現在、FirstNetを4G LTEから5G化することで、低遅延化を図るアップグレードが進んでいる。これによって、一時的な対応をする警察官や消防士などと、さまざまな機関の境目のない通信を効率的に実現するのが狙いだ。

FirstNetのネットワークは、AT&Tのネットワークにオーバーレイ(重ね合わせて利用)することで、無線サイトを共有し、大量な高性能データを送るトランスポートネットも共有している。コアは分かれているが、FirstNetの緊急周波数がフルの場合にはAT&Tの商用帯域を利用でき、その逆も可能となっている。そのため、災害時などに信頼性の高い無線通信を利用できる。

〔2〕5G化による3つのユースケース

5G化による3つのユースケースとして想定されているのは、

  1. ドローンの利用による犯罪現場情報の提供や森林活動の消火サポート、
  2. リアルタイムの交通情報提供による救急車の最適ルートの選択を実現し、短時間で搬送を可能にすること、
  3. 消防で、3DのビルレイアウトをヘルメットのHUディスプレイ(HUD:Head-Up Display)に表示し救助の助けにする、内部の様子を撮影して無線で外部に知らせる、

などである。


▼ 注8
Wavelength:AWS Wavelengthのこと。通信事業者の5GネットワークのエッジにAWSのコンピューティングサービスとストレージサービスを組み込んだもの。これによって、AWSの顧客は、5Gネットワークのエッジで低遅延アプリケーションを実現できる。

▼ 注9
MEC:Mobile Edge Computing、ユーザー端末に近い場所サーバを分散しサービスを提供することで、超低遅延を実現する技術。MECは、その後、MECの標準化を進めるETSI(欧州電気通信標準化機構)において、モバイル網だけでなく固定網にも対応するところから、Multi-access Edge Computingと呼ばれるようになった。

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