バイデン氏の気候変動危機への対策と3種類の計画
〔1〕気候変動ではなく気候危機だ!
パリ協定への復帰を、1月20日の就任初日に表明するという象徴的な行動を皮切りに、民主党バイデン政権は選挙中に公約していた気候変動対策をはじめとするさまざまな優先課題に積極的に対応していく姿勢を見せている。その一環として、就任以降、さまざまな大統領令に署名しているが、就任して1週間後の1月27日には気候変動対策を含む新たな大統領令に際してスピーチを行った(前出の写真1)。
このスピーチにおいて、バイデン氏は気候変動について置かれている現状を気候変動(Climate Change)ではなく気候危機(Climate Crisis)と呼び、この時に署名された大統領令の1つも「国内外の気候危機に対処するための大統領令(Executive Order on Tackling the Climate Crisis at Home and Abroad)」と命名されていた。
このように気候変動危機に対する積極的な姿勢は、民主党の大統領候補を決める予備選の頃から明確だった。ただし、当初のバイデン氏の対策は、民主党の公約よりも格段に具体的なものではあったものの、民主党の中でもバーニー・サンダース候補やエリザベス・ウォーレン候補が打ち出す野心的な対策案と比べると不十分であるという指摘も受けていた注4。バイデン候補として正式指名を受けたあとは、サンダース候補とタスクフォースを結成して政策検討を進めていった。
〔2〕3種類の計画の具体的な内容
バイデン氏の大統領選候補時代のWebサイト注5では、気候変動対策関連の計画として、表2に示す3種類が掲げられている。
表2 気候変動対策関連の3種類の計画
※1 https://joebiden.com/climate-plan/
※2 https://joebiden.com/clean-energy/
※3 https://joebiden.com/environmental-justice-plan/
出所 Joe's Visionをもとに著者作成
すべての計画に目を通すと、量は膨大ではあるものの、3種類の中で紹介されている具体的な施策の中には複数の文書で重複して紹介されているものも多い。
また、選挙中に整理されたものとあって、文章の中には政策的なものだけではなく、トランプ前大統領を批判する内容も入っている。例えば、「近代的で持続可能なインフラと環境に公平な、優しいクリーンエネルギーの未来を築くためのバイデン計画」の中では、トランプ前大統領がCOVID-19だけではなく、気候変動においても科学を否定し、必要な行動を取らなかった結果、それぞれ危機をもたらしていることを批判している。そのうえで、バイデン氏は、そのような状況を抜け出し、持続可能な未来を実現しつつ、新たな雇用も創出することを目的としたBuild Back Better注6と名づけた計画を掲げている。
気候変動対策に関する大統領令
〔1〕2つの大統領令
大統領就任後バイデン氏は、就任当日のパリ協定への復帰のように、事前の計画の中で掲げていた施策を実現に移していくための大統領令を数多く出している。そのうち気候変動対策に関するものは、次の2つである。
- 1月20日に出された「気候危機に対応するための公衆衛生と環境の保護と科学の回復に関する大統領令(Executive Order on Protecting Public Health and the Environment and Restoring Science to Tackle the Climate Crisis)」注7
- 1月27日に出された「国内外の気候危機に対処するための大統領令(Executive Order on Tackling the Climate Crisis at Home and Abroad)」注8
また2月11日には、「バイデン・ハリス政権、雇用を創出し、気候危機に対処するための米国におけるイノベーションの取り組みを開始(Biden-Harris Administration Launches American Innovation Effort to Create Jobs and Tackle the Climate Crisis)」注9という声明も発表している。
〔2〕バイデン政権の方針:科学に耳を傾け・・・・
このうち1月20日の大統領令のセクション1に書かれている内容は、正式に大統領となったバイデン氏の気候変動危機に対するスタンスがよく表れている。ここでは、米国が労働者や地域社会に力を与え、公衆衛生と環境を促進、保護する責務があることを述べた後に、次のように続けている。
「科学に耳を傾け、公衆衛生を改善して環境を保護し、きれいな空気と水へのアクセスを確保し、危険な化学物質や農薬への曝露を制限し、汚染者、中でも有色人種のコミュニティや低所得コミュニティに過度に害を与える者の責任を追及し、温室効果ガスの排出を削減し、気候変動の影響に対する回復力を強化し、国宝と記念碑を回復・拡大し、環境正義と、これらの目標を達成するために必要な高賃金の組合雇用の創出の両方を優先させることが、私の政権の方針である。」
▼ 注4
詳しい内容については、「米国大統領選における気候変動の議論の動向」などを参照。
▼ 注5
Joe’s Vision | Joe Biden for President: Official Campaign Website
▼ 注6
このBuild Back Betterは「より良い復興」とも訳され、2015年に仙台で開催された第3回国連防災世界会議において採択された仙台防災枠組2015-2030で公式に定義されたもので、災害などの復旧・復興において、次の災害発生に備えて、より回復力(レジリエンス)の高い地域づくりなどを行うことを指している。