[米国バイデン大統領主催の「気候サミット」をひも解く]

【前編】 気候サミットで発表された各国の削減目標値と日本の野心的取り組み

2021/05/02
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって、一時期は減少に転じた世界におけるCO2排出量は再び増加傾向にあり、今後、積極的な取り組みを行わない限り、この傾向はさらに悪化する可能性がある。この状況に対応するための取り組みを促進する目的として、米国のバイデン大統領が主催した気候サミットが、2021年4月22〜23日の2日間、オンラインで開催された。
前編では、気候サミット開催に至る経緯や概要を紹介し、特に同サミットで公表された各国の温室効果ガス削減目標を整理し、日本の取り組みを紹介する。

世界におけるCO2排出量の推移

〔1〕IEAの発表:戦後最大の減少率

 IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)が2021年3月2日に発表した記事注1によると、2020年の世界におけるエネルギー関連のCO2排出量は、第二次世界大戦(1939〜1945年)以降で最大の減少率である5.8%を記録した(図1)。

図1 世界におけるエネルギー関連のCO2排出量の推移

図1 世界におけるエネルギー関連のCO<sub>2</sub>排出量の推移

出所 Global Energy Review: CO2 Emissions in 2020 − Analysis - IEA

 2019年の排出量が33.4ギガトンCO2だったのに対して、2020年は31.5ギガトンCO2にまで減少した。これは、化石燃料の需要が大幅に減少したことが影響している。具体的な減少幅を見ると石油が8.6%、石炭は4%となっており、特に石油の減少幅は過去最大となっている。これは、COVID-19の拡大によって多くの経済活動が停滞したことが影響したもので、石油の需要の減少のうち、道路交通活動の低下が50%、航空部門の低迷が約35%を占めている。

 しかし、このCO2排出量の大幅な減少は一時的なものに終わる可能性が高い。同じくIEAが2021年4月20日に発表したプレスリリース注2によると、2021年のエネルギー関連のCO2排出量は、史上2番目に大きな増加となる可能性があることが発表されたからだ。

〔2〕2021年のCO2排出量は2010年以来、最大の増加量

 IEAが最新の国別のデータなどをもとに分析した結果、2020年のコロナ禍における経済危機からの回復を受け、電力部門の石炭使用が復活していることなどが影響し、2021年のCO2排出量は33.0ギガトンCO2にまで増加すると見込まれており、2020年から1.5ギガトンCO2の増加(=33.0ギガトンCO2−31.5ギガトンCO2)となる。これは2010年以来、最大の増加量だと、IEAは指摘している。

 このプレスリリースの中でIEAのエグゼクティブ・ディレクターであるファティ・ビロル(Fatih Birol)氏は、世界中の政府がCO2排出量削減に迅速に取り組まなければ、2022年はさらに悪い状況になる可能性を指摘したうえで、2021年4月22日から始まった米国のバイデン大統領主催の「気候サミット」(Leaders Summit on Climate)注3が、英国のグラスゴーで2021年11月1〜12日に開催される「COP26」(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に先駆けて、明確かつ迅速な行動を約束する重要な機会になる、とコメントした。


▼ 注1
Global Energy Review: CO2 Emissions in 2020 - Analysis - IEA

▼ 注2
Global carbon dioxide emissions are set for their second-biggest increase in history - News - IEA

▼ 注3
サミット名称を直訳すると「気候に関するリーダーズサミット」となるが、本稿では外務省での表記に従い「気候サミット」という表記で統一する。以下を参照。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page6_000548.html

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...