[特集]

2050年ネットゼロは実現できるのか!

― IEAが『Net Zero by 2050』で世界のエネルギー転換シナリオを分析 ―
2021/08/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「地球の気候危機・過熱化危機」の解決を目指し、最後のチャンスともいわれる「COP26」(注1)に向けて、各国は、温室効果ガス(CO2)排出量ネットゼロへの野心的な取り組みが加速している。世界では、米国主催の気候サミット(2021年4月)や、G7サミット(40カ国参加。同年6月)が開催され、日本では、2050年カーボンニュートラルに伴う成長戦略の最新版(同年6月)に続いて、同年7月には「第6次エネルギー基本計画」(素案)が発表されている(本誌3ページのトピックス参照)。
果たして世界(地球)規模での「2050年ネットゼロ」は、実現できるのか。
ここでは、IEA(国際エネルギー機関)(注2)が発表した『Net Zero by 2050』(2050年までにネットゼロ)のレポートをベースにした、IGES CEウェビナーシリーズ 気候変動トラック第6回「IEA(国際エネルギー機関)による2050年ネットゼロに向けたロードマップの解説」(注3)をもとにレポートする。

『Net Zero by 2050』の特徴と概要

〔1〕IEAの3つ目のフラグシップレポート

 エネルギー安全保障やエネルギー政策に関する国際協力のために、1974年11月に設立されたIEAは、エネルギーに関連するさまざまなデータ分析や情報発信を行っている。具体的には、図1に示すように、

  1. 『World Energy Outlook』(世界エネルギー展望)
  2. 『Energy Technology Perspectives』(エネルギー技術の展望)

など、毎年発行されるフラグシップレポートがある。

 これらに続いて、この2つを統合したような、『Net Zero by 2050』(2050年までにネットゼロ)というレポートが2021年5月に発表された。このレポートは、2050年にCO2ネットゼロを達成するためには、世界のエネルギー部門がどのように変わる必要があるかを、ロードマップで提示している。

 『Net Zero by 2050』の特徴は、バックキャスティング注4手法によって2050年の姿を定量的に推定しており、(単なる予測ではなくさまざまな想定に基づいたシナリオによって)説得力のあるレポートとなっている。

〔2〕『Net Zero by 2050』の構成

 『Net Zero by 2050』は、全体が4章構成(全文223ページ)となっている(図2)。

図2 IEA『Net Zero by 2050』の目次構成(全4章223ページ、2021年5月発行)

図2 IEA『Net Zero by 2050』の目次構成(全4章223ページ、2021年5月発行)

NDC:Nationally Determined Contribution、各国のCO2排出削減目標(日本では「約束草案」ともいう)。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガス(CO2)の削減目標。この目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する
出所 田村 堅太郎、有野 洋輔、「IEA(国際エネルギー機関)による2050年ネットゼロに向けたロードマップの解説」、IGES気候変動トラック第6回、2021年7月8日

 第1章は本レポート発行の背景情報、第2〜4章で、今回のテーマであるCO2ネットゼロ排出(NZE:Net Zero Emissions)シナリオの分析が行われている。第2章で世界全体のエネルギー部門の分析、第3章でそれをセクター(部門)別のエネルギー分野の分析、第4章では、さらに経済、エネルギー、市民や政府の分析が行われている。

 特に第2章では、脱炭素化の7本の柱として「省エネ」「行動変容」注5「電化」「再エネ」「水素」「バイオエネルギー」「CCUS」注6について分析している。第4章では、投資や経済活動だけでなく、行動変容や、エネルギー安全保障注7などにも言及している。


▼ 注1
COP26:COPはConference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change(国連気候変動枠組条約締約国会議)。COP25(第25回COP)は2019年12月2〜15日の14日間、スペイン・マドリードで開催された。COP26(第26回COP)は、2021年11月1〜12日にイギリス・グラスゴーで開催される予定(コロナ禍のため
1年延期されて開催)。

▼ 注2
IEA:International Energy Agency、国際エネルギー機関。1973年10月の第4次中東戦争による第1次石油ショックの直後、エネルギー安全保障やエネルギー政策に関する国際協力のために、1974年11月に設立された国際組織。本部所在地はフランス・パリ。加盟国数は30カ国(2021年7月現在。OECDの加盟国であることが基本)。

▼ 注3
IGES 気候変動とエネルギー プログラムディレクターの田村 堅太郎(たむら けんたろう)氏(トーク推進役)と、同気候変動とエネルギー領域研究員 有野 洋輔(ありの ようすけ)氏(講師)による解説。
IGES:Institute for Global Environmental Strategies、公益財団法人 地球環境戦略研究機関。本部所在地:神奈川県三浦郡葉山町、設立:1998年3月31日。

▼ 注4
バックキャスティング:Backcasting。将来の目標(ここでは「2050年ネットゼロ排出」)から逆算して、現在の施策を考えていく手法。これに対して、現状からの改善方法を積み重ねて将来を予測していく方法は、フォアキャスティング(Forecasting)という。

▼ 注5
行動変容:人の行動の変化。例えば、「1週間のうち3日は在宅勤務にする」「自転車で10分以内の距離は車は利用せず、自転車または徒歩とする」「都心部での車利用はライドシェア(相乗り)をする」「1時間以内の航空利用はやめて低炭素交通を利用する」など。

▼ 注6
CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage、分離・貯留したCO2を利用する技術。火力発電のCO2排出量を低炭素化する技術の1つ。

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