IEAのネットゼロ排出シナリオのまとめ
これまで紹介したIEA『Net Zeo by 2050』のネットゼロ排出シナリオに関しては、次のようにまとめることができる。
第1に、今回発表されたIEA『Net Zeo by 2050』におけるIEAネットゼロ排出は、温室効果ガス全体のネットゼロ排出ということではなく、エネルギー由来の化石燃料の燃焼や、産業プロセス由来のCO2ゼロ排出を分析した内容であり、その2050年までのロードマップを示したものである。
第2は、2050年までの長期的な転換を踏まえた、2030年までの10年間の行動強化の必要性が強調されていることである。具体的には、再エネ(太陽光・風力発電)は4倍、電動車売上台数は18倍、エネルギー効率は年率4%で改善が想定されている。
第3は、省エネや再エネ、電化、水素などへのエネルギー投資や雇用に牽引される形で経済成長がなされ、気候変動政策が産業政策として行われていく時代への変化を示唆している。例えば、約500万人の化石燃料関連産業の雇用減に対して、約3,000万人のクリーンエネルギー関連の雇用増(〜2030年)が想定されている。
第4は、再エネを中心とするエネルギー安全保障に関して、大多数の国々はエネルギー安全保障環境が改善されるなど質的変化が起こる可能性がある。しかし、一方で中東諸国やカスピ海沿岸の産油国(化石燃料輸出国)などでは、化石燃料需要の大幅な下落によるGDP損失が想定されるため、再エネがいくら増加してもそれを賄い切れない面も懸念される。
第5は、脱炭素技術の市場拡大に伴って、例えば、電気自動車(蓄電池搭載)などに使用されるクリティカル・ミネラル(リチウムやニッケルなどレアメタルの重要鉱物)の消費量増大への懸念、すなわち資源制約にもぶつかる懸念がある。これは、レアアース(レアメタルの一種)の消費量を低減するイノベーション(材料技術の開発など)を起こしていく必要性を示唆している。
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『Net Zeo by 2050』のネットゼロ排出シナリオ分析結果は、脱炭素化に向けた1つの指標となるが、間もなく英国で開催されるCOP26では、パリ協定の実現に向けて、全参加国・地域の野心的な合意はなされるのだろうか。各国の取り組みに期待する。