[脱炭素時代の実現に向けた半導体の最新動向]

第1回 EV(電気自動車)が本命視される理由

2021/09/06
(月)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

バッテリーとモーターはFCVにも

 水素を利用するクルマはどうか。水素を原料として酸素を燃焼させ、電気を起こすFCVはすでにあるものの、インフラがまったく整わない。加えて、ブレーキをかける時に回生ブレーキ注5によりバッテリーを充電し、その充電した電気エネルギーを始動時にも利用する。いわばFCVといっても、水素と電気の両方を使う(図1参照)。燃料電池だけだと始動時のモーターの回転力が弱く加速が不十分だからだ。

 FCVではなく、水素を酸素と反応させて燃焼を利用する水素エンジン車もある。このクルマは、内燃エンジン車に極めて近い。しかし、燃焼効率がどの程度なのか、クルマメーカーは明らかにしていない。しかし、日産自動車のe-POWERがそのヒントとなる(図2の中央)。

図2 日産e-POWERは内燃エンジンを発電するだけに使い、クルマの動力は電気モーターを使う

図2 日産e-POWERは内燃エンジンを発電するだけに使い、クルマの動力は電気モーターを使う

出所 日産自動車、「e-POWER」機能説明より

 同社のe-POWERは、ガソリンエンジンを回転させて発電し、バッテリーに電気を貯めると同時に、その発電した電力でモーターを回すというクルマである。日産自動車によると、図2の中央に示すように、

ガソリン(エンジン回転して発電)
⇒ 電気(バッテリーに蓄電)
⇒ 動力(モーターを回転)

という仕組みは、ガソリンから直接動力に変える内燃エンジンに比べて、一見無駄が多いように見えるが、電気を利用するほうが内燃エンジンよりも、動力に変換する効率が高いからだという。

 また、テスラのビデオによると、内燃エンジンの効率は最大35%、対してモーターの効率は最大90%だという(図3)。しかも内燃エンジンの回転数は2,000〜4,000RPM(Revolution Per Minute、回転数/分)だが、モーターの回転数は0〜18,000RPMと大幅に広く、かつ回転数が変わっても効率はさほど落ちない。かつて欧州でも水素エンジン車が開発されていたが、最近ではNOx(窒素酸化物)排出問題も登場し、EV化一色になりつつある。

図3 テスラ(Tesla)が公開している内燃エンジン車と電気自動車との効率の違い

図3 テスラ(Tesla)が公開している内燃エンジン車と電気自動車との効率の違い

RPM:Revolution Per Minute、回転数/分
※電気自動車が最大90%の効率が高いのに対して内燃エンジン車は最大35%程度で、回転数(RPM)が最大値よりも高くても低くても効率は落ちてしまう。通常時は10〜15%程度といわれている。
出所 テスラ(Tesla)社のビデオをもとに加筆修正して作成


▼ 注5
回生ブレーキ:走行中のクルマを減速する時に回転しているモーターを発電機として使うことで、発電した交流電力を直流に変換しバッテリーに充電すること。

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