[特集]

配電事業ライセンス/アグリゲーターライセンス制度の最新動向

― 進展する容量市場/需給調整市場とERABビジネス ―
2022/05/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

アグリゲーターライセンス制度とその要件

〔1〕アグリゲーターとは

 次に、同じく2022年4月1日からスタートした、アグリゲーター(Aggregator、特定卸供給事業者)ライセンス制度を見てみよう(表6)注10

表6 特定卸供給事業者(アグリゲーター)ライセンス制度の内容

表6 特定卸供給事業者(アグリゲーター)ライセンス制度の内容

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」、2022年3月1日をベースに編集部で作成

 特定卸供給とは、図4に示すように、契約した電気の供給能力(電源・蓄電池等)をもつ者(発電事業者を除く)から、

①DR(デマンドレスポンス)指示などによって、
②集約(アグリゲート)した電気を、
③小売電気事業や一般送配電事業、配電事業または特定送配電事業に供給(提供)する

ことであり、アグリゲーターは、その特定卸供給を行う事業のことである。

図4 特定卸供給事業者(アグリゲーター)の位置づけ

図4 特定卸供給事業者(アグリゲーター)の位置づけ

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」、2022年3月1日

 前述したように、このアグリゲーターは、改正電気事業法(前述したエネルギー供給強靱化法の一部)において「特定卸供給事業者」と位置付けられ、VPP技術によって太陽光発電や蓄電池、自家発電等の比較的小規模な分散電源(リソース)をIoTで束ね(アグリゲートし)、供給力や調整力を提供する事業者である。このため、「アグリゲーションビジネスを行う者」ともいわれている。

〔2〕アグリゲーターの要件:1,000kW超を供給すること

 アグリゲーターの要件として、発電事業者以外の供給能力をもつ他の者から、1,000kW(=1MW)を超えて電気を集約し、一般送配電事業者や小売電気事業者、特定送配電事業者、配電事業者に電気を供給することが求められている。

 また、特定卸供給事業を営もうとする事業者は、経済産業大臣への届出が必要となる。すなわち、経済産業省が審査しその可否を判断する「ライセンス制」注11が導入されたのだ。

 すでに第1号として、株式会社エナリス(東京都千代田区)が、2022年4月1日、経済産業大臣にアグリゲーターの届け出を行い、受理された注12

〔3〕上位のアグリゲーターのみ規制(届出制)

 しかし、アグリゲーターの規模は一律ではない。このため、図5に示すように、図右上に示す、小売電気事業者や一般送配電事業者、配電事業者などの電気事業者に対して、「直接電力の卸供給を行う上位のアグリゲーター」に対してのみ規制(届出制、ライセンス制)を設ける制度となっている。

図5 アグリゲーターの規制範囲

図5 アグリゲーターの規制範囲

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」、2022年3月1日

 すなわち、上位のアグリゲーターに対して、図5左下に示す下位のアグリゲーター(非規制と書いてあるアグリゲーター)を含めた責任を課すことで、下位のアグリゲーターについては、非規制とされている(届出制なし。すなわちライセンスの対象外)。下位のアグリゲーターは、図5右上の各事業者に直接卸供給を行うのではなく、別のアグリゲーターに対してのみ卸供給を行う。

〔4〕特定卸供給事業と兼業するケース

 一方、現在、特定卸供給事業に参入しようとする事業者には、すでに、小売電気事業や発電事業などを行っている場合もあるため、兼業するケースも出てくる。

 そこで、図6と表7に、特定卸供給事業を専業する場合と、他の事業と兼業する場合を示すが、いずれにしても特定卸供給事業としては、1,000kWを超えた電力を供給できることが要件となっている。

図6 特定卸供給事業の要件のイメージ(兼業しない場合と兼業する場合)

図6 特定卸供給事業の要件のイメージ(兼業しない場合と兼業する場合)

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」、2022年3月1日

表7 特定卸供給事業の要件:専業でも兼業でも1000kW超が供給できること

表7 特定卸供給事業の要件:専業でも兼業でも1000kW超が供給できること

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」(2022年3月1日)をもとに編集部で作成

〔5〕アグリゲーターに関するサイバーセキュリティ対策

 新しく法的に位置づけられたアグリゲーターは、基本的に発電システムなどをもたず、IoTなどを駆使するVPP技術などによって、電気を集約する事業者であるため、電気の供給能力とともに、サイバーセキュリティがきちんと確保されていることが求められている。

 そこで、アグリゲーターのサイバーセキュリティ対策については、表8に示す、

  1. 電力制御システムセキュリティガイドラインや、
  2. ERABセキュリティガイドライン
    の内容をサポートすることが重視されている。同時に、このたび、
  3. 「特定卸供給事業に係るサイバーセキュリティ確保の指針(2022年4月)

が発表された。

表8 アグリゲーターのサイバーセキュリティ対策に関するガイドライン/指針

表8 アグリゲーターのサイバーセキュリティ対策に関するガイドライン/指針

出所 資源エネルギー庁「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」(2022年3月1日)

 この指針は、アグリゲーターの届出に対する「変更命令や事業実施中の業務改善命令」などの処分の基準とし、発行されたものである。このため、アグリゲーターとして届出時には、この指針に基づいて審査が行われるため、この指針の記載事項を遵守しているかを証明する書類を添付することが求められている注13

今後の展開とアグリゲーターのビジネスモデル

 以上、容量市場や需給調整市場の最新動向を見ながら、これらと密接に関連して新しくスタートした、配電事業ライセンス制度、アグリゲーターライセンス制度の新しい展開を見てきた。

 図7は、今後のアグリゲーターのビジネスモデルを示しているが、容量市場や需給調整市場から配電事業に至るまで、アグリゲーターの事業機会はますます増大し、まさにERAB時代の到来でもある。

図7 今後のアグリゲーターのビジネスモデル

図7 今後のアグリゲーターのビジネスモデル

出所 資源エネルギー庁「分散型エネルギーリソースを活用したディマンドリスポンス等の活用状況について」、2022年2月21日

 電気事業法上に位置づけられたアグリゲーターは、従来(図7左、大口需要へのDRによる予備力の提供)のビジネスから脱皮し、今後は、太陽光等の再エネ発電や蓄電池など多様な分散電源を、IoTを駆使するVPPによって集約し、①通常時には電力需給のための調整力の提供や、②非常時には地域マイクログリッドなどによって需給調整をサポートするなど、配電事業のビジネス機会の拡大が期待されている。

 日本の電力市場は、いよいよ再エネの主力電源化と2050年カーボンニュートラルに向けて、本格的な制度とその整備が出そろってきたところである。


▼ 注10
資源エネルギー庁のサイトには「2022年4月より、特定卸供給事業者(アグリゲーター)制度が開始します。特定卸供給事業に該当する事業者は、事業を実施する30日前に経済産業大臣への届出を行う必要があります。」と掲載されている。

▼ 注11
ライセンス制:ライセンス制には、審査が緩い順に、「届出制」「登録制」「許可制」などがある。アグリゲーターライセンス制度は「届出制」であるが、一方の配電ライセンス制度は、厳しい「許可制」となっている。

▼ 注12
エナリス、ニュースリリース「特定卸供給事業制度に沿ったアグリゲーションビジネスを開始」、2022年4月1日

▼ 注13
資源エネルギー庁、「特定卸供給事業の届出に係る事業者説明会」、2022年3月1日

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