[特集]

配電事業ライセンス/アグリゲーターライセンス制度の最新動向

― 進展する容量市場/需給調整市場とERABビジネス ―
2022/05/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

普及拡大するERAB(アグリゲーションビジネス)

〔1〕ERABとその定義

 このような新しい制度が次々に開始される背景には、電力システムの大きな変化がある。すなわち、

①従来の大型発電所による集中的な電力システムから、太陽光発電や風力発電など再エネや蓄電池などの分散型電源による電力システムの普及・拡大
②同時に、これらの分散型電源をIoTによって統合し集約(アグリゲート)して活用するVPP注4や、需要家側の需要に応じてスマートに電力の利用パターンを変化させるDR(Demand Response、需要家側の応答)を活用する取り組みの活発化

などである。

 これらの取り組みは、新しくERAB〔Energy Resource Aggregation Business、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(イーラブ)。以降「アグリゲーションビジネス」〕と呼ばれ、現在、そのビジネスが急速に拡大し始めている。

 資源エネルギー庁が発行している「ERABに関するガイドライン」〔令和2(2020)年6月1日改定〕では、ERABを次のように定義している。

<ERABの定義>

ERABとは、VPPやDRを用いて、一般送配電事業者、小売電気事業者、需要家、再生可能エネルギー発電事業者といった取引先に対し、調整力、供給力、インバランス注5回避、電力料金削減、出力制御回避等の各種サービスを提供する事業のこと。

〔2〕ERABに関連する制度のロードマップ

 図2は、このようなアグリゲーションビジネスに関連する制度整備の状況と今後のロードマップを示したものである。

 図2は大きく、

  1. 市場新設(容量市場、需給調整市場)
  2. 既存制度改定(FIP制度、インバランス制度)
  3. その他関連制度〔機器個別計量、アグリゲーター(特定卸供給事業)ライセンス、配電事業ライセンス、次世代スマートメーター〕

を示している。

 以降では、これらのいくつかの制度について、その最新動向を紹介する。

容量市場と需給調整市場の最新動向

〔1〕容量市場の最新動向

 容量市場(kW)とは、卸電力取引所(JEPX:Japan Electric Power Exchange、日本卸電力取引所)で取引される、実際の発電電力量(kWh=kW×時間)ではない。将来、日本全体で「見込める供給力(kW)」を取引する市場のことである。つまり、必要な時に発電できる設備能力(発電事業者がもつ容量)に対して、小売電気事業者が対価を支払う仕組みである。

 この容量市場は、広域機関が市場管理・運営者となって、(容量の大きい発電所は短期間に建設できないので、実際に発電所を稼働させる)実需給する4年前に、全国で必要な供給力を一括して確保する仕組みである。すでに広域機関は、初回のオークションを2020年7月に開催。2020年以降は毎年オークションを開催(第2回は2021年10月)し、落札電源〔約定(取引)総容量〕と約定(取引)価格などが決定されている注6

 2021年度のオークション結果では、化石燃料による発電の比重が高いところから、2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ)の実現に向けて、電力の安定供給を前提としながら、化石電源を抑制していくことなどが課題となった。

〔2〕需給調整市場の最新動向

 需給調整市場とは、一般送配電事業者(TSO:Transmission System Operator)が系統電力の需要と供給のバランスを維持し、安定化するために必要な調整力〔ΔkW(デルタ・キロワット)とも呼ばれる〕を、小売電気事業者等から調達するための市場のことである。

 一般送配電事業者が、小売電気事業者(あるいは発電事業者)等から調整力を短時間に調達できるように、2021年度(2021年4月1日)からエリアを超えた広域的な調整力の調達を行う「需給調整市場」が開設された。

 通常時は、計画値同時同量制度注7で電力システムは安定的に運用されているが、地震や台風などによって電力設備が被災したり、あるいは猛暑や厳寒時には、電力の供給不足によって電力がひっ迫する状態となる。このとき、系統電力の需要と供給のバランスが崩れ、それによって系統電力の周波数(東日本:50Hz、西日本:60Hz)が低下してしまい、最悪の場合、大規模停電に至るケースもある。

 これを回避して、電力の需給バランスをとるために必要となるのが「調整力」なのだ。すなわち、調整力は、電力の需給バランスを短時間に制御・調整・制御する(周波数を一定の範囲に制御する等)注8ために必要な電力なのである。

(1)一般送配電事業者が調達する電源の種類

 それでは、一般送配電事業者が調達する電源には、どのような種類があるのだろうか。

 表2に、一般送配電事業者が確保、あるいは調達する5種類(電源Ⅰ、電源Ⅱ、電源Ⅲ、電源Ⅰ′、電源Ⅱ′)の電源を示す。

表2 一般送配電事業者が確保あるいは調達する電源の分類

表2 一般送配電事業者が確保あるいは調達する電源の分類

出所 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 事務局「2021年度向け調整力公募に向けた課題整理について」、2020年6月11日、等をベースに編集部で作成

 また、表3に、電源Ⅰ(一般送配電事業者が自分専用に確保した電源等)、電源Ⅱ(小売電気事業者が小売供給用として確保した電源等)に関する機能や用途として、次のようなものがある。

表3 「周波数制御用」の調整力と「需給バランス調整用」の調整力

表3 「周波数制御用」の調整力と「需給バランス調整用」の調整力

出所 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 事務局「2021年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて」(報告)、2021年6月18日

①電源Ⅰ-a、電源Ⅱ-aは周波数制御機能があり、高速発動(高速応動ともいう)向けに使用する
②電源Ⅰ-b、電源Ⅱ-bは周波数制御機能がなく、需給バランス調整用に使用する
③電源Ⅰ′電源Ⅱ′は周波数制御機能がなく、低速発動向けで、需給バランス調整用に使用する

(2)2022年4月1日から「三次調整力①」を開始へ

 このような背景から、電力がひっ迫する際に、一般送配電事業者が小売電気事業者(あるいは発電事業者)などから調整力を短時間に調達できるように、2021年度からエリアを超えた広域的な調整力の調達を行う「需給調整市場」が開設された。

 具体的には、2021年4月1日からの需給調整市場の開設と同時に、地域間連系線を介した最も低速な「三次調整力②(後述)」の取引(広域調達)が開始された。さらにこれに続いて、2022年4月1日から「三次調整力①」の取引が開始された(図2および後出の表4)。

(3)需給調整市場における商品の種類

 需給調整市場において具体的に取引される商品を見てみると、一般送配電事業者からの指令(DR指令)に対して、「即時に対応できる調整力」〔応動時間(発動時間)が速い〕、あるいは「比較的応答に時間がかかる調整力」(応動時間が遅い)によって、一次調整力、二次調整力、三次調整力などの種類がある(表4)。

表4 調整力に関する商品の種類と主な要件(応動時間・継続時間)

表4 調整力に関する商品の種類と主な要件(応動時間・継続時間)

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/energy_resource/pdf/016_06_00.pdf
※1 2025年以降は60分以内に変更される予定。
※2 2025年以降は30分に変更される予定。
※3 商品ブロック時間:公表されている調整力の各単価[円/kW]は、1コマ(30分)あたりの単価。1コマ(30分)あたりの約定(取引)料金は次のように算定。
■1コマあたりのΔkW料金(税抜き)[円]=ΔkW約定単価[円/kW]×ΔkW約定量[kW]
 また、三次調整力は継続時間が長いため、現行では3時間(商品ブロック時間)単位となっている。すなわち、1ブロック=3時間=6コマ(1コマ=30分)であるため、例えば、約定量1,000kW、落札価格5円/kWの場合、1ブロック(3時間)あたりのΔkW約定料金は、次のように算定。
■1ブロックあたりΔkW料金(税抜き)[円]=1,000[kW]×5[円/kW]×6コマ=30,000円
出所 送配電網協議会「よくある質問」、および送配電網協議会「需給調整市場の概要・商品要件第3版」(2022年4月1日)

 需給調整市場では、応動時間の遅い三次調整力②から取引が開始され、順次、応動時間の速い調整力へと、商品を拡大していく予定となっている。


▼ 注4
VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所。住宅やビル、工場などの需要家側に設置されている太陽光発電や蓄電池、電気自動車(BEV)、自家発電設備など、多様な場所に散在するエネルギー資源を、IoTによって束ねて遠隔制御し、まとまった電力を創出して、集中型発電所(例:既存の火力発電等)と同等の機能を提供する新しい電力システム。

▼ 注5
インバランス:電力の需要量と供給量の差(ズレ。アンバランスが生じること)を「インバランス」(電力供給量の過不足)と呼ぶ。仮に、不足インバランスが発生すると、発電事業者などは一般送配電事業者が確保している「調整力」で、その不足分の電力量を補ってもらうことになる。この場合、不足分のインバランス料金を一般送配電事業者に支払うことになり、発電事業者などにはコストの負担がかかる。

▼ 注6
容量市場メインオークション開催による約定結果(広域機関発表)
①約定(取引)総容量(2020年7月1日~7日開催):1億6,769万kW(実需給年度:2024年度)、エリアプライス:14,137円/kW(全エリア一律)。
②約定(取引)総容量(2021年10月1~14日開催):1億6,534万kW(実需給年度:2025年度)、エリアプライス:5,254円/kW(北海道エリア/九州エリア)~3,495円/kW(北海道エリア/九州エリア以外のエリア)。
https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2021/files/youryou_kentoukai_35_03_2.pdf
https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2021/files/211222_mainauction_keiyakukekka_kouhyou_jitsujukyu2025.pdf (22ページ参照)

▼ 注7
計画値同時同量制度:電力の需給バランスを保つため、事前に、小売電気事業者(あるいは発電事業者)等が、30分(1コマ)ごとに、電力の需要計画(または発電計画)と需要実績(または発電実績)を一致させるように調整を行うこと。電気事業法で定められた制度。小売電気事業者等の需要計画や発電計画は、広域機関を通じて、一般送配電事業者に提出される。

▼ 注8
例えば、東京電力パワーグリッド(一般送配電事業者)の「周波数調整・需給運用ルール」(2021年4月1日改定)では、常時の周波数の調整範囲は、50.0±0.2Hz(49.8~50.2Hz)、常時の時差の調整範囲±15秒以内と定められている。

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