[特別レポート]

石油・ガス/電気料金の高騰時代にコーポレートPPAは救世主となれるか!?

― 2021年に逆転! 太陽光発電は火力発電より安価に ―
2022/06/12
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ロシアによるウクライナ侵攻が2022年2月24日に開始されて以降、急激な石油・ガスなどのエネルギー燃料価格高騰が加速し、これに伴って電気料金(卸市場価格)が高止まりし、国際的にも電力・エネルギー市場は不安定な事態を迎えている。このような背景の中、2021年4月からの1年間(2021年度)に、日本における新電力(小売電気事業者)は、706社中31社が相次いで倒産・廃業・撤退(2022年3月現在)に追い込まれ、また大手電力各社は電力の新規契約を停止するなどの異常事態を迎えている。この事態の打開に向けて「コーポレートPPA」(電力購入契約)が注目され、その普及が始まっている。
「コーポレートPPA」は、脱炭素を目指す企業経営の持続可能性(サステナビリティ)を実現する救世主となれるのか。ここでは、2022年4月20日に開催されたオンラインイベント「脱炭素経営と電力市場高騰リスクに対応するコーポレートPPA」(注1)から、株式会社 UPDATER 専務取締役(COO)事業本部長の三宅 成也(みやけ せいや)氏の講演をレポートする。

UPDATER:「気候テック事業」を中核に多角的な事業を展開

 みんな電力株式会社(設立:2011年5月)は創業10年を迎え、2021年10月1日、カーボンニュートラルの実現に向けた社会課題を解決するソーシャル・アップデート(UPDATE)・カンパニーを目指して、「株式会社UPDATER」注2へと社名変更した。

 従来の「みんな電力」という名称は、同社の新たな中核事業として位置づけられた「Climateテック(気候テック)事業」のサービスブランドとして、引き続き使用していく。

〔1〕ブロックチェーン技術を基盤にした5事業

 図1に示すように、UPDATERは、現在、世界最速級のブロックチェーン技術注3などを活用した「顔の見える」、すなわち、再エネをどの生産者から購入したかを特定し証明できる、「電源トレーサビリティ」を中核に据え、

  1. Climateテック(気候テック)事業:みんな電力
  2. Well-beingテック事業:みんなエアー
  3. アグリテック事業:みんな大地
  4. Houseテック事業:みんなリビング
  5. SDGsプラットフォーム事業:オウンドメディア TADORi注4

などの多角的な事業を展開している。

図1 UPDATERが展開する多角的事業

図1 UPDATERが展開する多角的事業

BPO:Business Process Outsourcing、自社の業務を外部の専門業者へ委託すること
Well-being:「空気の見える化」によってオフィスの空気環境情報を提供し、ストレスのない快適な環境を実現する事業
出所 UPDATER「2022年度以降のエネルギー業界動向について」、2022年4月20日

図2 みんな電力の再エネ比率と電源構成(2020年度実績)

図2 みんな電力の再エネ比率と電源構成(2020年度実績)

※1 当社がFIT電気を調達する費用の一部は、当社のお客様以外の方も含め、電気をご利用の全ての皆様から集めた賦課金により賄われており、この電気のCO2排出量については、火力発電なども含めた全国平均の電気のCO2排出量を持った電気として扱われます。
FIT電気構成比:太陽光11.7% バイオマス5.8% 水力16.5% 風力40.0%
※2 再エネ構成比:太陽光1.6% 水力1.5% 風力4.6% バイオマス1.3%
※3 その他構成比:その他(インバランス分)17.0%
出所 https://minden.co.jp/biz/renewableenergy

〔2〕全国700カ所の「顔の見える発電所」から電力を調達

 このうち、Climateテック事業を展開する「みんな電力」(以降、同社の電力事業を解説するので「UPDATER」ではなく「みんな電力」と記述する)は、小売電気事業者として、

  1. 全国700カ所の「顔の見える発電所」からの電力調達
  2. 法人顧客:800社(4,000契約)
  3. 個人顧客:10,000世帯

へ電力を調達して提供している。全電力調達のうち、再エネ比率(FIT電気+再エネ)は83%〔図2に示す残りのその他17%はインバランス注5分〕に達し、業界ではトップクラスの再エネ調達比率となっている。

エネルギー資源の価格高騰と電力業界の動向

〔1〕2021年度は31社が倒産・廃業・撤退へ

 最近の天然ガス(LNG)などの化石燃料価格の高騰に伴い、電気料金(卸市場価格の高騰)が高止まりする中、2021年4月からの1年間で、706社中、31社もの新電力(小売電気事業者)が相次いで倒産・廃業・撤退(図3)し、同時に大手電力会社各社は電力の新規契約を停止するなど、深刻な状況となっている。

図3 新電力の相次ぐ事業撤退の状況

図3 新電力の相次ぐ事業撤退の状況

出所 帝国データバンク『特別企画:「新電力会社」倒産動向調査』、2022年3月30日

 三宅氏は、「現在、需要家保護のための取り決めとして「最終供給保証約款」注6という仕組みがあります。この約款は、どこも契約してくれないときに、例えば高圧の場合は、一般送配電事業者が供給を継続するという制度ですが、需要家(企業)がこのような状況に至っているのは、国としても大きな問題だと捉えています」と語る。

〔2〕高騰するLNGなどと連動した電気料金

 なぜ、このようなことが起こっているのだろうか。

 例えば、図4の上図(日本・韓国天然ガスマーケット)に示すように、天然ガス(LNG)は、2021年10月頃から価格が上昇し始め、現在、100万BTU(英国熱量単位)注7当たり37.145ドル(約40ドル/100万BTU)となっており、通常時(5ドル/100万BTU)のほぼ8倍程度も上がっている。

図4 天然ガス価格と電力卸市場価格の関係

図4 天然ガス価格と電力卸市場価格の関係

JKM:Japan Korea Marker、日本や韓国、台湾、中国など北東アジア向けスポットLNG価格の指標
JEPX:Japan Electric Power Exchange、日本卸電力取引所(通称:卸電力取引所)
出所 UPDATER「2022年度以降のエネルギー業界動向について」、2022年4月20日

 一方、現状の日本の電力卸取引市場(JEPX)の価格推移を見ると、図4の下図に示すように、過去(図4の下図左側)は大体10円/kWhくらいで推移していた。しかし、天然ガス(LNG)価格の高騰に連動して、電力の市場価格(システムプライス)は徐々に上がってきている。去年(2021年)も寒波の到来によって1月に最高251円/kWhまで高騰したが、今年(2022年)の3月24日時点ではすでに上限80円/kWh(図5の下表)に達し、その後も、引き続き連続して高い値が続いている。

「2021年度の平均価格は2020年度よりも高く、13.3円/kWh(2020年度:11.2円/kWh)と上昇しています(図5)。さらに、ロシアによる2022年2月24日からのウクライナ侵攻開始以来、上昇はなおも止まらず、2022年4月20日現在では、平均市場価格は約20円/kWhまで高まっている状況となっています」と、三宅氏は厳しい現状を述べた。

図5 JEPXにおける市場価格の推移

図5 JEPXにおける市場価格の推移

(出典)経済産業省「スポット市場価格の動向等について」令和4(2022)年3月24日
スポット市場:JEPX(卸電力取引所)が開催する電力取引市場の1つ。翌日に発電または販売する電気を前日までに入札し、売買を成立させる市場のこと。
JEPXのシステムプライス:JEPX(卸電力取引所)において取引される、30分ごとの電力卸価格〔1日で48個(48コマ)=24時間÷0.5〕の推移をプロットして示したもの。
出所 UPDATER「2022年度以降のエネルギー業界動向について」、2022年4月20日

〔3〕一般家庭では3,000円/月もの値上げへ

 このような石油・ガスなどの燃料価格の高騰は、電気料金にどのように転嫁されているのだろうか。

 三宅氏は、燃料費調整制度注8に基づいて、図6(例:東京電力エリアの「高圧」需要家の場合)を示しながら、次のように解説した。

図6 電力小売価格への影響(燃料費調整単価:東京電力エリア)

図6 電力小売価格への影響(燃料費調整単価:東京電力エリア)

新電力ネットウェブサイトより引用

出所 UPDATER「2022年度以降のエネルギー業界動向について」、2022年4月20日

「具体的には、燃料費調整単価というものがあります。これは、各大手電力会社が電気料金単価の調整を、燃料費の調達価格に連動させて行っています。例えば、図6に示す東京電力の小売価格の推移を見ると、2021年の1月が底値だったんですね。この時点では、東京電力の基準燃料価格(図6の「0」点)から約マイナス5(-5)となっています。すなわち、電気料金を“基準単価から5円/kWh値引きする”状況でしたが、その後、どんどんと値上がりし、2022年5月には基準標準価格から2.64円/kWh(高圧の場合。一般家庭などの低圧の場合は2.74円/kWh)も上がっています。これは、2021年1月(高圧:マイナス5.02円/kWh)に比べて、約8円(高圧:7.66円/kWh=5.02円/kWh+2.64円/kWh)も上がっています。これを一般家庭のお客様(低圧:7.94円/kWh=5.20円/kWh+2.74円/kWh)の場合では、だいたい1カ月に400kWhくらいの電気を使いますから、約3,300円(=400kWh×7.94円)も値上げされている状況となっています。」

〔4〕みんな電力Rと燃料の値上がりの関係

 それでは、みんな電力と燃料の高騰問題はどのように関係しているのだろうか。

「需要家の皆さんは、みんな電力は再エネを扱っているから燃料の高騰と関係ないと考えられていると思いますが、実は再エネの価格も上がっていて、仕入価格が高騰しています。この原因は、現在、日本の再エネ価格のほとんどはFIT制度で決定されていますが、仕入れの際、再エネが市場価格の影響を受ける制度になってしまっているのです。みんな電力は、一切、JEPX(卸電力取引所)の卸電力取引市場からの仕入れはしていないのですが、再エネの仕入れには市場価格高騰の影響を受けてしまうという構造のため、弊社の法人のお客様には、値上げをお願いしている状況です」と、三宅氏は続けて述べた。


▼ 注1
【オンラインイベント】テーマ「脱炭素経営と電力市場高騰リスクに対応するコーポレートPPA」(敬称略)。開催日:2022年4月20日、主催:みんな電力(株式会社UPDATER)

  • PART1「2022年度以降のエネルギー業界動向について」:みんな電力(UPDATER)三宅 成也
  • PART2「脱炭素手法としてのコーポレートPPA」:自然エネルギー財団 石田 雅也
  • PART3「コーポレートPPA導入事例」:花王 大河内 秀記
  • PART4「みんな電力のコーポレートPPA概要」:みんな電力(UPDATER)竹野 渉

▼ 注2
株式会社UPDATER:本社 〒154-0024東京都世田谷区三軒茶屋2-11-22 サンタワーズセンタービル8F、創業は2011年5月。代表取締役:大石英司(おおいし えいじ)。資本金:13億498万円(資本準備金 20億3,918万円)。従業員数:80名(派遣、アルバイト・パート含む。2021年9月30日現在)。

▼ 注3
ブロックチェーン:Blockchain。ネットワークで接続されたコンピュータ上のデータを管理するIT技術(データベース技術)の1つ。「分散型台帳」といもいわれる。例えば取引関係にある、電力の取引データの履歴(ブロック)が、チェーン(鎖)のようにコンピュータが相互に接続されていくことから「ブロックチェーン」と呼ばれる。これによって、A社がもっている価値(例:電力の「kWh」値)をY社に、いつ何「kWh」を移動させた(提供した)か等を証明することが可能となる(価値の移転証明システム)。暗号技術がベースとなっているため、改ざんが困難であることも大きな特徴。

▼ 注4
TADORi:暮らしの中の身近
なモノやコトのルーツやストーリーをたどり(TADORi)ながら、「顔の見えるライフスタイル」を提案するオウンドメディア(自社で保有するメディア)。

▼ 注5
インバランス:小売電気事業者が予測した電力の需要量と実際の供給量の差(過不足)のこと。インバランス(例:不足)が生じた場合、小売電気事業者は一般送配電事業者から電力の供給(調整力という)を受け、不足分を補ってバランスをとる。インバランス分はそのための電力量のこと。

▼ 注6
最終供給保証約款:小売電気事業者の事業撤退・倒産の時の需要家保護のための取り決め(臨時的な料金が課せられる)。小売電気事業者と契約が締結できない需要家については、①低圧需要(主に100V/200Vの一般消費者)であれば、みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者の小売部門)に、②特別高圧・高圧需要(特別高圧:2万V以上、高圧:6,000Vの主に事業者)であれば一般送配電事業者(旧一般電気事業者の送配電部門)に供給義務が課されている。詳細は、下記URLを参照。
・経済産業省「最終保障供給料金の在り方について」令和4(2022)年3月24日

▼ 注7
BTU:British Thermal Unit、英国熱量単位。1BTUは、標準気圧(1気圧)において質量1ポンドの水の温度を60.5°F(華氏)から61.5°F(華氏)まで上昇させるのに必要な熱量。例えばLNGは、1MMBTU(1mmBTUとも表記)の単価で取引される。1MMBTUは100万BTUのこと。

▼ 注8
燃料費調整制度:原油や液化天然ガス(LNG)、石炭など火力発電に使用される燃料の価格変動を、需要家(例:図6は東京電力エリアの「高圧」需要家の場合)が毎月支払う電気料金に反映させるための仕組み。電力会社ごとに定められている「基準燃料価格(図6の「0」点)」と比較して、①燃料価格が上昇した場合は燃料費調整単価(例:高圧の場合:2022年5月は2.64円/kWh)がプラスとなり、②燃料価格が低下した場合は燃料費調整単価がマイナスとなる。

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