インフレ抑制法による期待される効果
このような、大きな金額を投資するにあたって注目されるのが、取り組みの効果である。民主党が公開している資料では、「2030年に約40%の排出量削減注7につながる」と書かれている。
インフレ抑制法を受けて、プリンストン大学のゼロラボ注8などが主導するREPEAT(Rapid Energy Policy Evaluation and Analysis Toolkit、迅速なエネルギー政策評価・分析ツールキット)プロジェクトは、今回の法律が米国の気候変動対策に与える影響を分析する速報レポート注9を発表した。
このレポートでは、インフレ抑制法が正式に成立する以前の、2022年7月27日時点のインフレ抑制法のリリースをもとに様々な分析を行っている。
そのうちの1つが、インフレ抑制法のほか、過去に検討されてきた法案を実施した場合の温室効果ガス排出量(Greenhouse Gas Emissions)の削減効果に関する分析である(図2)。
図2 インフレ抑制法等による温室効果ガス排出削減効果の分析
※1 CO2換算排出量の計算は、EPA(Environmental Protection Agency、米国環境保護庁)に基づく温室効果ガス排出量と吸収量のインベントリ(目録)に基づいている。 出所 Preliminary Report: The Climate and Energy Impacts of the Inflation Reduction Act of 2022
この分析結果を見てわかるとおり、インフレ抑制法を実施することで、2030年には2005年比42%の温室効果ガス排出量の削減が見込まれる。この他にも32〜42%の削減が見込まれるとする外部調査機関の分析結果注10なども出ており、民主党が掲げる約40%という数字が現実的なものであることがわかる。
ただし、図3に示すように、米国が掲げる削減目標(NDC:Nationally Determined Contribution、国別の削減目標)は、2030年に2005年比で50〜52%注11であることから、目標実現のためには、さらなる取り組みが必要となっている。
図3 世界主要国のNDC(国別の温室ガス削減目標)
(注)各国の最新の削減目標については、Webサイト(UNUNFCCC:NDC Registry)を参照のこと。
出所 https://www.jccca.org/download/13233
今後、インフレ抑制法で掲げた取り組みが本格化していくことで、どのような効果が現れてくるのか注視していきたい。
筆者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオ・プランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。最新刊は『実践 シナリオ・プランニング』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年5月30日発行)東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター。
▼ 注7
表2の注釈と同様、この部分も資料中に“roughly 40% emissions reduction by 2030”とだけ明記されており、排出対象(CO2等)については記されていない。
▼ 注8
正式名称は、‘Princeton Zero-carbon Energy systems Research and Optimization Laboratory’(プリンストン・ゼロカーボン・エネルギーシステム研究および最適化研究室)で、ネットゼロカーボンエネルギーシステムへの迅速、かつ効果的な移行を促進するための研究を行っている。
▼ 注9
https://repeatproject.org/docs/REPEAT_IRA_Prelminary_Report_2022-08-12.pdf
▼ 注10
A Turning Point for US Climate Progress: Assessing the Climate and Clean Energy Provisions in the Inflation Reduction Act
▼ 注11
FACT SHEET: President Biden Sets 2030 Greenhouse Gas Pollution Reduction Target Aimed at Creating Good-Paying Union Jobs and Securing U.S. Leadership on Clean Energy Technologies