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【事例2】脱炭素を推進するハイレゾのGPU特化型データセンター(石川県志賀町)

― 2,000台のGPU専用サーバを収容した第2データセンター、「違い棚屋根方式」で消費電力を削減 ―
2022/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2,000台のGPU専用サーバを収容したデータセンターが完成

 株式会社ハイレゾ(表1、本社:東京港区。以下、ハイレゾ)注1は、石川県羽咋郡志賀町(はくいぐん しかまち)に、日本で最大級のGPU注2専用のデータセンター設立し、IaaSモデル注3によってクラウドサービス「GPUSOROBAN」(GPUそろばん)を提供している。

表1 株式会社ハイレゾのプロフィール

表1 株式会社ハイレゾのプロフィール

出所 https://highreso.jp/company/ をもとに編集部で作成

 同社は、近年高まるAIデータの分析や画像解析などの需要を背景に、すでに、電力使用効率であるPUE注4が1.01を実現している第1データセンター(DC1、2019年8月稼働)を開設し運営しているが、これに続いて2,000台のGPU専用サーバ(NVIDIA注5のプロ向けGPU「NVIDIA RTX A4000」グラフィックスカードを搭載、表2)を収容した第2データセンター(DC2)を、同じ志賀町に開設し、2022年8月からサービスの提供を開始した〔図1、写真1、写真2、表2〕。

図1 ハイレゾのDC1とDC2の立地〔石川県羽咋郡志賀町若葉台(能登中核工業団地内)〕

図1 ハイレゾのDC1とDC2の立地〔石川県羽咋郡志賀町若葉台(能登中核工業団地内)〕

出所 「株式会社ハイレゾ 第2データセンター開所式の開催について

写真1 ハイレゾのDC2の外観と16台の外気を吸入するダクト群

写真1 ハイレゾのDC2の外観と16台の外気を吸入するダクト群

出所 編集部撮影

写真2 DC2のラック&GPUサーバの見本と実際のラック群

写真2 DC2のラック&GPUサーバの見本と実際のラック群

出所 編集部撮影

表2 ハイレゾが提供を開始したサービス仕様および料金

表2 ハイレゾが提供を開始したサービス仕様および料金

出所 ハイレゾ『「GPUSOROBAN」レンダリングサービスのベータ版をリリースしました』(2022年9月1日)をもとに編集部で作成

稼働したDC2は脱炭素を推進する先進的なデータセンター

 2019年8月に開設した同社のDC1(表3)は、エアコン(空調)を使用せずに、外気をサーバルームに送風することによって、従来のデータセンターに比べて、空調用の消費電力を90%も削減した。電力使用効率を示すPUEは世界トップレベルの驚異的な数字である1.01を実現している。

表3 ハイレゾのDC1とDC2の仕様

表3 ハイレゾのDC1とDC2の仕様

出所 株式会社ハイレゾ「株式会社ハイレゾ –会社事業概要のご紹介–」、2022年9月1日をもとに一部加筆修正して編集部で作成

 さらに、2022年8月に開設したDC2では、新たに「違い棚屋根方式」(図2)に示す段差を用いた屋根構造によって廃熱効率を高め、消費電力をおさえることによって温室効果ガス排出量を大幅に抑制することに成功した。

図2 DC2の「違い棚屋根方式」の解析図・温度分布(建物構造物にて特許権と意匠権を出願申請中)と空気と熱の流れ(空調機が不要な建物イメージ)

(1)気流解析(CFD解析)におけるモデル図

(1)気流解析(CFD解析)におけるモデル図

①外壁に据え付けられた有圧扇〔外風に対抗できる圧力(静圧)をもつ換気扇〕より外気を吸入し、
②パンチングメタル状吹出口を経て、
③サーバ内に設置された冷却ファンによりサーバ内に外気を吸入する。
④同じくサーバ内に設置された冷却ファンによりホットアイルゾーンへサーバ熱を放出する。
⑤サーバ熱は自然に上昇し、吸入された外気と混合される。
⑥排気ガラリがら建物外へ放出される。
※ホットアイル(サーバから廃熱される熱い空気の通路)ゾーンとコールドアイル(サーバを冷却するための冷たい空気の通路)ゾーンを明確に分けることで、外気吸入からサーバ熱放出を一方向にしている。

(2)データセンター内の温度分布状況

(2)データセンター内の温度分布状況

CFD:Computational Fluid Dynamics、数値流体力学(流体解析ともいわれる)。
コンピュータで流体解析を行うことによって、試作品を作らずにコンピュータ上でいろいろな状況をシミュレーション(模擬)できる
出所 株式会社ハイレゾ「株式会社ハイレゾ –会社事業概要のご紹介–」、2022年9月1日

 これらに加えて、北陸電力が2022年4月から提供を開始した、国際イニシアティブ「RE100」注6の要件に適合した、グリーンエネルギー「かがやきGREEN RE100」注7を採用し、脱炭素を推進する先進的なデータセンターともなっている。


▼ 注1
社名の由来:ソニーなどCDを超える高音質を実現するオーディオをハイレゾ(High-Resolution Audio、高解像度のオーディオ)として2013年に打ち出したため、「ハイレゾ」という用語がオーディオの世界で広く普及した。しかし、株式会社ハイレゾは、これ以前の2007年の創業当時から、高画質(高解像度:ハイレゾリューション)なゲームのグラフィック開発などを手掛けていたこともあり、オーディオの世界に先行して、社名として「ハイレゾ」を採用していた。

▼ 注2
GPU:ジーピーユー。Graphics Processing Unit、3Dグラフィックス(3次元画像)などを描写する際に必要な計算処理を行う半導体チップ。NVIDIAやAMDなどの半導体メーカーから提供されている。

▼ 注3
IaaS:Infrastructure as a Service、サーバやストレージ、ネットワークなどのハードウェアやインフラを提供するクラウドサービス。

▼ 注4
PUE:Power Usage Effectiveness、電力使用効率。データセンターの電力使用効率を表す指標で、次式で計算される。数値が1.0に近いほど効率的。国内主要データセンターのPUEの平均は1.4。
PUE=データセンター全体の消費電力÷IT機器の消費電力=〔(IT機器の消費電力+付帯設備※の消費電力)÷IT機器の消費電力〕
※付帯設備とは、データセンターの空調や照明、受配電設備などIT機器(サーバやスイッチ等)以外の設備のこと。

▼ 注5
NVIDIA:エヌビディアコーポレーション。米国カリフォルニア州サンタクララにある半導体メーカー。1993年に設立。半導体の中でも特にGPUに特化した半導体を提供。最近ではAIチップや自動運転システム向け半導体のリーダー的存在ともなっている。

▼ 注6
RE100:100% Renewable Electricity、世界で影響力のある企業が、事業で使用する電力を100%再エネにすることを目指す国際的なイニシアティブ。加盟数は381社(うち日本企業:73社、2022年9月時点)

▼ 注7
かがやきGREEN RE100:北陸電力が調達した再エネの電気や環境価値(非化石証書)を活用した、CO2排出量ゼロの電気を提供する再エネ電気料金メニュー。トラッキング付非化石証書を活用し、発電所が特定(トラッキング)された環境価値を使用した再エネ電気が提供される。トラッキング付非化石証書とは、環境価値の由来となった発電所情報等を国が非化石証書に付与する制度。

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