[[10周年記念]特集]

【事例2】脱炭素を推進するハイレゾのGPU特化型データセンター(石川県志賀町)

― 2,000台のGPU専用サーバを収容した第2データセンター、「違い棚屋根方式」で消費電力を削減 ―
2022/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ハイレゾのデータセンター設計のコンセプト

〔1〕電力証書で、再エネを1年以内に100%へ

 次に、ハイレゾが目指す、2050年カーボンニュートラル(脱炭素)の実現に向けた「データセンターにおけるエネルギー戦略」を見てみよう。

 表5を見ると、ハイレゾでは赤枠で示す「自社設備再エネ」と「電力証書」を重点に、再エネ導入計画を推進している。表5に示す電力証書を含め、基本的に1年以内に、再エネ100%を実現する計画を推進している。またハイレゾは、北陸電力の出資を受けているが、北陸電力は再エネである水力発電が多いため再エネ導入がしやすい環境にあり、電力料金も大手のメガ電力の中でも安めの設定となっている。

表5 ハイレゾの再エネ化計画:隣接地での自社設備による再エネ発電も計画中

表5 ハイレゾの再エネ化計画:隣接地での自社設備による再エネ発電も計画中

PPA:Power Purchase Agreement、電力販売契約。PPAモデルとは、需要家がPPA事業者と契約することによって、需要家は太陽光発電設備の初期の導入費用をゼロにでき、保守・運用もしてもらえる。表5のようなオンサイトPPA、オフサイトPPA、バーチャルPPAなどがある
出所 株式会社ハイレゾ「株式会社ハイレゾ –会社事業概要のご紹介–」、2022年9月1日

 現在は、再エネの比率は20%程度となっているが、今後、DC2に隣接する土地に自家設備による太陽光発電を計画している。これによって、リアルな(非化石電力証書を除く)再エネ電力の比率は、当面30〜40%程度を目指しているという。

 志倉氏は、「究極の意味でベストなのは、データセンターと発電システムが一緒になっていることだと思います。GPU専用サーバを大量に稼働していくと、消費電力は凄まじく増えます。現在のDC1とDC2を合わせると、弊社はこの地域で一番電力を消費している企業になります。ですから、ある程度のデータセンターの規模になったら最終的には、SDGsの観点からも、水力発電の近くにデータセンターをつくることがベストかなと、感じています」、と語った。

 一方、藤巻氏は、「データセンター事業者は、発電事業者ではないので、自分のところで再エネ発電をするというのは限定的で、今後も大きく増えないと思います。2MWの消費電力〔DC2、表3(2)参照〕をもつデータセンターがあるということは、電力需給ひっ迫時に、2MWの下げDR注15に貢献できます。この点は電力会社にとっては利点になるかと思います。データセンターとしては下げDRに協力することで、そのインセンティブ(報酬)として電気代を安くしてもらえるとうれしいですよね」と、別の観点から、データセンターが電力需給ひっ迫時に大きく貢献できる役割をもっていることをアピールした。

〔2〕ティアフリーのデータセンター

 ハイレゾのデータセンターのDC1にもDC2にも、UPS注16や非常用発電機注17は設置されていない。ハイレゾでは、UPSや蓄電池など、停電時(非常時)のエネルギー(電力)対策は、どのように考えているのだろうか。

 ハイレゾのデータセンターは、スーパーコンピュータの「京」(けい)や「富岳」(ふがく)注18と同じコンセプト(後述)で、「ティア(Tier)フリー」といわれている。

 日本データセンター協会(JDCC)では、「データセンターのファシリティスタンダード(機能標準)」を制定し、地震などへの災害耐性やUPSの信頼性などをベースに評価基準を、「ティア1(最も低い)」「ティア2」「ティア3」「ティア4(最も高い)」と4段階に格付けているが、ハイレゾではDC1もDC2のいずれも、この4つのティアに該当していないためだ。

〔3〕停電になったら「止まる」というスーパーコンピュータと同じコンセプト

 藤巻氏は、「簡単にいいますと、DC1やDC2はティアフリーなので、停電になったらデータセンターは止まります。従来のデータセンターではあり得ないことですが、前述した「京」も「富岳」も停電になったら止まるというコンセプトなのです。その理由は、スーパーコンピュータには非常に大きい計算能力が求められますが、リアルタイム処理は求めていないからです。つまり、AIの処理やHPCの処理はバッチ処理(一括処理)ですから、例えば1週間なら1週間と期限を決めて、その期間内に処理結果が出ればよいわけです。途中、停電で止まったら、計算処理をやり直せばよいのです注19。このため、リアルタイム処理が求められる携帯電話などの通信キャリアの事故のように、通信ができなくなって救急車を呼べない、というようなことはないのです。データセンター建設のお金を、UPSや非常用発電機に使うよりは、基本的にノード(GPUサーバなど)の数を増やしてデータセンターの性能を上げましょう、という考え方なのです」と、ティアフリーである理由と併せて説明した。

〔4〕データセンタービジネスも大変革の時代へ

 先進的なハイレゾのデータセンターは進化を続けているが、DC1、DC2の先にどのようなビジネスを考えているのだろうか。

 志倉氏は、「弊社のデータセンターは、『大きな計算機をレンタルしている』イメージなのだという。

「今は、いわゆる時間貸しや月貸しのビジネスをしていますが、将来的には、航空券のシステムのように、搭乗期日が先のものは安く、搭乗期日が近くなってくると高くなるというようなサービスを提供したいと思っています。データセンターにおいても同様に、ʻいつまでにこの計算を終わらせくださいʼとエンドの期限を指定してもらうようなサービスを提供したいと思っています。そうするとデータセンターの稼働スケジュールが立てやすくなり、期限が先になると(航空券のように)安い価格でサービスを提供できるようになります。そのようなニーズは実際に多くなっています。また、現在は、それとは別に、お客様からリアルタイム処理の需要も少しずつ出てきていますので、今後はそちらに対応したサービスを提供していく計画も検討しています」と、志倉氏は新たな取り組みについて語った。

今後の展開:ハイパースケール&都市型データセンターを目指して

 ハイレゾは、DC1、DC2に続いてDC3(第3データセンター)を計画している。

 ハイレゾの今後のビジネス展開について志倉氏は、大きく次の2つを述べて締めくくった。

「1つは、ハイパースケールデータセンター注20と呼ばれているような、特別高圧注21を使ったデータセンターをつくることです。現在のDC1(1.5MW)、DC2(2MW)は高圧6,600Vを使用していますが、2MWの設備が限界なのです。1事業所で、消費電力の容量が2MWを超えるようになると、特別高圧にする必要があります。もう1つは、都市型のデータセンターを計画しています。現在のDC1やDC2では計算能力は高いのですが、レイテンシー(データ処理の遅延時間)はあまり重視しないデータセンターです。2〜3年後には、レイテンシーを重視し、リアルタイムサービスにも対応した都市型データセンター(DC3)をつくっていきたいと考えています。」

◎取材協力

志倉 喜幸(しくら よしゆき)氏

志倉 喜幸(しくら よしゆき)氏

株式会社ハイレゾ 代表取締役社長

藤巻 秀明(ふじまき ひであき)氏

藤巻 秀明(ふじまき ひであき)氏

株式会社ハイレゾ 技術顧問/スパイラルグループ・ドット・ビズ 代表取締役

瀧田 正樹(たきだ まさき)氏

瀧田 正樹(たきだ まさき)氏

株式会社ハイレゾ 第1データセンター長


▼ 注15
下げDR:電力会社からの節電要請によって2MWの電気の消費量を減らす(下げる)ことができること。DR(Demand Response)は需要側の電気使用量を制御すること。

▼ 注16
UPS:Uninterruptible Power Supply、無停電電源装置。蓄電池を内蔵し、停電が起きた際は蓄電池から給電され切れ目なくそれぞれの機器に電気を供給できる。しかし発電機ではないので供給は短時間である。

▼ 注17
非常用発電機:停電発生時に起動させる発電機。長時間にわたって停電が続く場合に効果的である。一般的に停電時はまずUPSでバックアップし、その間に非常用発電機を起動し、安定動作に入ったところでUPSから非常用発電機に切り替える。UPSと非常用発電機はセットで設置する。

▼ 注18
「京」(K Computer)は2012年9月から稼働し、「京」の後継機となる「富岳」(Fugaku)は、2021年3月から本格稼働した。ともに、理化学研究所と富士通によって共同開発された世界トップクラスのスーパーコンピュータ。https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/05/30-1.html

▼ 注19
スーパーコンピュータのオリジナルのデータは、必ず外(例:先述したWASABIのようなストレージ用データセンター)にあり、計算処理結果もそこ(外)に置かれる。スーパーコンピュータが計算中に停電になったら、そのデータは消失してしまうが、オリジナルのデータは外のストレージ用データセンターに保存してあるので、もう一度、計算をやり直せばよい。これが、京や富岳の基本コンセプトとなっている。

▼ 注20
ハイパースケールデータセンター:キャパシティが非常に大きく、かつデータセンターの利用テナントが、クラウド事業者であるようなデータセンター。

▼ 注21
特別高圧:電気設備技術基準では7,000Vを超えるものと定義されている。2MW以上のデータセンターは、その受電契約容量が大きくなるため特別高圧による受電となる。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...