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【事例2】脱炭素を推進するハイレゾのGPU特化型データセンター(石川県志賀町)

― 2,000台のGPU専用サーバを収容した第2データセンター、「違い棚屋根方式」で消費電力を削減 ―
2022/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ハイレゾが推進する「垂直統合モデル」とは

〔1〕「3階層モデル」と「垂直統合モデル」の比較

 現在、クラウドサービスの主流は、

  1. データセンター事業者がデータセンターをつくり、
  2. 標準仕様に基づいてサーバベンダが、データセンターにサーバを設置して、
  3. クラウドサービスプロバイダがクラウドサービスを提供する、

という3階層モデルとなっている(図3左)。 これに対してハイレゾでは、

  1. 自社設計のデータセンターをつくる、
  2. 自社設計のICTハードウェアを設置し、
  3. 自社設計のクラウドサービス「GPUSOROBAN」(GPUそろばん)を提供する、

という一気通貫でビジネスを展開している(図3右)。

図3 ハイレゾの垂直統合モデルによるクラウドサービスの提供

図3 ハイレゾの垂直統合モデルによるクラウドサービスの提供

HPC:High Performance Computing、データの処理と複雑な計算を高速で実行するコンピューティング機能
出所 株式会社ハイレゾ「株式会社ハイレゾ –会社事業概要のご紹介–」、2022年9月1日

 すなわち、サービスからサーバ、データセンターまでをすべて自社設計することによって、最適化、低コスト化した「垂直統合モデル」のデータセンターを実現している。これによって、総合的に効率のよいクラウドサービスを提供しているのだ。

〔2〕Facebook、Googleに続くハイレゾ

 藤巻氏は、「世界でこのような垂直統合モデルを展開しているのは、FacebookとGoogleの2社で、ハイレゾはこれに続く3社目です。Facebook、Googleもハイレゾと同様に、自社にデータセンターを設計する人、サーバを設計する人、サービスを設計する人がいるので、自社で最適化できる効率のよい『垂直統合モデル』のデータセンターを運営しています」と語った。

驚異の「PUE1.01」は本当なのか?

 ところで、通常、データセンターでPUE1.2を実現するのも容易ではないのに、DC1でPUE1.01という驚くようなPUEを実現できたのは、どのような仕組みによってなのだろうか。

 藤巻氏は、「前出の表3(1)に示すPUE1.01は、DC1における年間を通しての実測値です。これは、かなりすごい数字になっています。これを実現できた理由の1つは、外気導入だから電力消費が大きい空調機(エアコン)が不要なこと(送風機だけで済むこと)。もう1つは、建物が大きくないので照明用の消費電力などが少ないこと。さらに、これはハイレゾ特有のことですが、サービスを提供するサーバが30kVAのGPU専用サーバですので、IT機器の消費電力が非常に大きいことです(図4)。そうすると、前述の脚注 4で示した計算式から、PUEを計算する際の分母が大きくなるのです。このため、他のラック当たりの消費電力が4kVAや6kVAなどのデータセンターと比べると、分母(IT機器の消費電力)が5倍から7倍以上も大きい30kVAになるので、PUEという観点では有利に働いています」と説明する。

図4 GPUサーバ特有の消費電力と熱処理問題を解決【省電力化(PUE:1.01)と低コスト化の実現】

図4 GPUサーバ特有の消費電力と熱処理問題を解決【省電力化(PUE:1.01)と低コスト化の実現】

出所 株式会社ハイレゾ「株式会社ハイレゾ –会社事業概要のご紹介–」、2022年9月1日

 DC2はまだ稼働したばかりだが、DC1のPUE1.01もクリアできる可能性が高く、業界からの注目度が高いと、志倉氏は語る。

 ハイレゾのデータセンターは、従来のデータセンターの概念を変えた。新興のベンチャー企業が「一石を投じた」データセンターなのだ。「このようなデータセンターができる可能性が出てきた」と注目する他のデータセンター事業者もあり、最近では、毎月2〜3件もの見学者が訪れるという。

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