ラーム・エマニュエル駐日米国大使の講演
写真3 ラーム・エマニュエル駐日米国大使による講演
出所 編集部撮影
ICEF 2022では、ラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)駐日米国大使の講演と田中委員長との対談が行われた、2日目(10月6日)のキーノートセッションが特に注目を集めた。
エマニュエル駐日米国大使は、同セッション冒頭の講演において日米のパートナーシップについては、これまでは国家の安全保障のこととして話をしてきているが、エネルギー安全保障においても非常に重要である点を述べた(写真3)。
そのうえで、日米のパートナーシップが重要である理由として、両国がSMR(Small Modular Reactors、小型モジュール原子炉)のリーダーである点、日本は水素技術における世界のリーダーであり、アメリカもそれに追いつこうとしている点、日本は世界でも最大規模のLNG輸入国であるが、その輸入先で米国は第4位である点などを紹介した。
その後の田中委員長との対談では、エマニュエル駐日米国大使の講演に続くテクノロジーセッションのテーマが「持続可能な原子力システム」であったため、原子力に関しては、廃棄物処理への積極的な取り組みの必要性や、既存の原子力プラントの寿命延長についてコメントした。
また、原子力以外では、エマニュエル駐日米国大使がシカゴ市長を務めていた時代に、5,800万平方フィート(約539万平方メートル)の官民のビルをエネルギー効率の良いものにして、温室効果ガスの排出量を2桁下げ、経済を2桁伸ばしたことを紹介し、気候変動対策やエネルギー安全保障に関する取り組みは、エネルギーに限らず総合的に取り組むべきである点を強調した。
注目された2つのテクノロジーセッション
テクノロジーセッションでは、水素や原子力などのエネルギーそのものについてのセッション(表1参照)に加え、「需要主導型エネルギー転換」や「二酸化炭素除去技術」など、各エネルギーを活用したイノベーションに関するセッションがあった。
以降は、これらについて取り上げる。
テクノロジーセッション「需要主導型エネルギー転換」
〔1〕エネルギーを利用する需要側に焦点
「需要主導型エネルギー転換」というテーマでは、近年のカーボンニュートラルに関する取り組みの議論は、どちらかというと供給側についてのものが多くなっているが、このセッションでは、エネルギーを利用する需要側に焦点を当てている。
セッションの最後に、モデレーターの黒田玲子氏からは、この「需要主導型エネルギー転換」のセッションは、昨年のICEF 2021から採用されたテーマだというコメントがあったように、ICEFの中でも新しいテーマである。
このセッションでは、日本人を含む5人のスピーカーがプレゼンテーションを行ったが、5人のうち2人が国連のIPCC AR6(気候変動に関する政府間パネルによる第6次評価報告書。IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、AR6:Sixth Assessment Report)のWG3(Working Group III)報告書内の「地球温暖化抑制のためのシステム変革」という部分で取り上げられた、「需要側の緩和」についての取り組みを取り上げた(図1)。
図1 IPCCが示した2050年までの需要側緩和オプションの暗示的な潜在的可能性
出所 「AR6 WG3報告書 政策決定者向け要約」をもとに一部加筆修正して作成
〔2〕米国カリフォルニア州でのDRの取り組み
IPCCのレポートで示されている「需要側の緩和」とは、社会文化的な変化注6やユーザーが最終的に利用するサービスの提供方法の変化注7などによって、引き起こされるものを指している。
この内容を踏まえて、例えば国際応用システム分析研究所のレイラ・ニアーミール(Leila Niamir)研究員は、自身のプレゼンテーションにおいて、テレワーキングやアクティブモビリティ注8によって5%(0〜15%)の排出量削減効果注9を期待できると発表した(図2)。
図2 レイラ・ニアーミール氏によるプレゼンテーション
出所 https://www.youtube.com/watch?v=fDaxryCm2Fkをもとに日本語化して作成
また、米国カリフォルニア州エネルギー委員会のシヴァ・グンダ(Siva Gunda)副委員長は、Flex Alert注10と呼ばれるカリフォルニア州でのデマンドレスポンス(DR)の取り組みを紹介したプレゼンテーションの後で、デマンドレスポンスでの一時的な行動変容の効果は認めつつも、それをライフスタイルそのものの変容にまでつなげるためには、どうしたらよいのかを考えなくてはいけないと述べていた。
▼ 注6
例えば、従来型のオフィスへ通勤する働き方からテレワークや在宅勤務などへの変化。
▼ 注7
例えば、電気自動車への移行や、よりエネルギー効率の高い機器への移行など。
▼ 注8
人間の身体活動を中心に自動車を使わないで人や物を運ぶことを指し、ウォーキングやサイクリングなどを指す。https://en.wikipedia.org/wiki/Active_mobility
▼ 注9
プレゼンテーションでは、何の排出量削減なのか(CO2なのかGHGなのかなど)までは明言していなかった。