[クローズアップ]

「危機の時代における低炭素イノベーション」をテーマに「ICEF 2022 第9回年次総会」が開催!

― 「低炭素アンモニア」「ブルーカーボン」の新ロードマップを発表 ―
2022/11/13
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

テクノロジーセッション「二酸化炭素除去技術」

〔1〕DAC(空気中のCO2の直接回収技術)を標準化へ

 「二酸化炭素除去技術」を取り扱ったセッションでは、モデレーターのデービッド・サンダロー(David Sandalow)氏が、気候変動対策としては再生可能エネルギーが注目されているが、気候変動の問題を解決するためには二酸化炭素除去技術が重要で、これをこの10年でどれだけ広げていけるのかが重要だ、という点を強調してセッションが始まった。

 スピーカーによるプレゼンテーションの冒頭では、米国エネルギー省 化石燃料エネルギー・カーボンマネジメント担当次官補代理のジェニファー・ウィルコックス(Jennifer Wilcox)氏が、ネットゼロを目指すためには航空や長距離輸送、農業などの脱炭素化が難しい分野があることを認識しなければいけない点に触れ、二酸化炭素除去技術の重要性を強調した。

 そのうえで、DAC(ダック。Direct Air Capture、空気中のCO2の直接回収)などの技術が進んでいるものの、標準化が行われていないことが問題であることを指摘した。

 標準化が行われていないため、実際にどのくらいのCO2が吸収されたのかを確認する定量化ができないなどの課題があるとして、今後の取り組みの必要性を述べた。

〔2〕具体的な技術活用例を紹介

 また、セッションの中では、二酸化炭素除去技術を使ったビジネスを進めている米国カーボンダイレクト(Carbon Direct)社のシニアサイエンティストであるフリオ・フリードマン(Julio Friedmann)氏から、実例も含めた具体的な技術活用についての紹介がなされた。

 そのプレゼンテーションの最後で、この分野における3つの悩ましい点(chokepoints)として「人材不足」「インフラ不足」「投資不足」が挙げられた。

新たに2つのロードマップを発表

写真4 低炭素アンモニアのロードマップ(ドラフト版、2022年10月発行、全69ページ)

写真4 低炭素アンモニアのロードマップ(ドラフト版、2022年10月発行、全69ページ)

出所 ICEF 2022 Roadmap on “Low-Carbon Ammonia” (Draft for comment)

〔1〕低炭素アンモニア(Low-Carbon Ammonia)のロードマップ

 全セッションの最後に開催された閉会式では、新たなロードマップの発表、そして今回の会議のステートメント(声明)の発表などがあった。

 まずロードマップであるが、ICEFではこれまで二酸化炭素利用や、DAC、産業用途熱の脱炭素化などの技術についてのロードマップを作成してきたが、今回記念すべき10本目のロードマップとしてLow-Carbon Ammonia(低炭素アンモニア)のドラフト版注11が発表された(写真4)。

 このロードマップは、パブリックコメント(意見の公募)を募ったうえで、2022年11月6日からエジプトのシャルムエルシェイク(Sharm El Sheikh, Egypt)で開催される、COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)で最終版が発表される予定である。

〔2〕ブルーカーボン(Blue Carbon)のロードマップ:概要版の発表

 また、Low-Carbon Ammoniaとあわせて、Blue Carbon(ブルーカーボン)注12の概要版注13も発表された。このロードマップでは、大型の藻類の養殖によって回収・蓄積されるCO2のことをブルーカーボンと定義している。

 これについてもパブリックコメントを募り、COP27ではドラフト版が発表される予定となっている。

ICEF 2022ステートメント(声明)

 ICEF 2022の結果を受け、「危機の時代における低炭素イノベーション」というテーマをもとにした、ステートメントを発表した注14

 ステートメントは、次の5つの点(【1】〜【5】)から、現在置かれている状況の確認、ICEFにおける多様性を念頭に置いた取り組みを確認したうえで、カーボンニュートラルを目指すためのイノベーションの必要性を強調している。

 一般的に、カーボンニュートラルにかかわるイノベーションというと、供給側の面(原子力や水素、合成燃料、二酸化炭素除去技術・利用など)に意識が向きがちだが、ICEFでは需要側の面(省エネルギーなど)にも目を向けていることにも触れ、カーボンニュートラルに向けて、ICEFとして技術面と社会面でのイノベーションに深くコミットしていく、と宣言している。

【1】私たちが直面する様々な危機
【2】私たちのチャンス:多様なアプローチ
【3】2030年より前にアクション(実行)を加速させる必要性
【4】実行を伴うイノベーション
【5】終わりに

来年(2023年)に向けての課題

 最後のセッション(Summarising Session)では、来年(2023年)のICEF開催に向けて各委員が意見を述べる場面もあり、これまで取り上げられていないテーマである「水資源について取り上げるべき」という意見などが出ていた一方で、「次世代の人(若手の人)を巻き込んでいくべきだ」という意見も出た(写真5)。

写真5  Summarising SessionにおけるCIEF2022の総括の様子

写真5  Summarising SessionにおけるCIEF2022の総括の様子

出所 編集部撮影

 ICEF 2022ステートメントでも紹介されていたが、2050年カーボンニュートラルを実現するためには、2030年までの10年間が極めて重要だといわれている。その期間に、供給面、需要面の両面から重要なイノベーションを推進していく一旦を担う存在として、今後のICEFの取り組みに期待したい。

筆者Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオ・プランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。最新刊は『実践 シナリオ・プランニング』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年5 月30日発行)
東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター。


▼ 注11
https://www.icef.go.jp/pdf/summary/roadmap/icef2022_roadmap_Low-Carbon_Ammonia.pdf

▼ 注12
ブルーカーボンICEFのロードマップでは、マングローブ、干潟、藻場、天然の大型藻場、およびコンブやホンダワラなどの大型藻類の養殖によって回収・蓄積されるCO2をブルーカーボンだと定義している。
 なお、国土交通省港湾局の資料では、陸のグリーンカーボンと海のブルーカーボンという表現をしており、植物が光合成によって大気中のCO2を吸収し、隔離した炭素のことを「グリーンカーボン」と呼んでいることに対応するものとして、海の生物の作用で海中に取り込まれる炭素のことを「ブルーカーボン」と呼んでいる。

▼ 注13
https://www.icef.go.jp/pdf/summary/roadmap/icef2022_roadmap_Blue_Carbon.pdf

▼ 注14
ICEF 2022 運営委員会ステートメント【仮訳】

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