太陽光電力を蓄電、直流1500V幹線経由で直流のまま利用
NTTアノードエナジー株式会社〔NTT-AE:NTT Anode Energy。以下、NTTアノードエナジー)と学校法人金沢工業大学(KIT:Kanazawa Institute of Technology)は、同大学扇が丘(おうぎがおか)キャンパス(石川県野々市市)において共同で構築を進めてきた直流による電力融通システム(以下、新システム)の完成を11月2日に発表、同日から本格運用と共同事業を開始した。
今回の電力システムは、同キャンパス内に太陽光発電設備と蓄電池を設置し、南北に分かれた同キャンパス校地に、それぞれ図1に示す直流1500V(青線)/380V(緑線)の自営線網を敷設し、両校地間で電力融通を行うというもの(図2に具体的な構成を示す)。さらに各施設では、電力を(交流変換せずに)直流のまま供給する点も特徴だ。大学キャンパス間での直流による電力融通を行うシステムとしては日本初注1で、これによって年間175トン(設備導入前比43%)のCO2削減をめざしている。
図1 金沢工業大学扇が丘キャンパスの直流給電システムの概要
出所 金沢工業大学ニュース2023年11月2日、「金沢工業大学とNTTアノードエナジー、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について」
NTTアノードエナジーと金沢工業大学、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について(PDF)
図2 金沢工業大学扇が丘キャンパスの直流給電システムの設備構成
出所 金沢工業大学ニュース2023年11月2日、「金沢工業大学とNTTアノードエナジー、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について」
NTTアノードエナジーと金沢工業大学、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について(PDF)
交流入力とされていた既設機器の特性に着目し、直流のまま供給
太陽光発電や蓄電池の電気は直流であるため、太陽光発電の電力を蓄電池(リチウムイオン蓄電池)に貯めて自家消費する場合、交流に変換せずに直流のまま給電し利用する方が無駄がない。しかし、設備機器は交流入力のものが多いため、直流・交流変換回路などの設備を付加する必要があり、この変換時に電力のロスが発生するなどの課題があった。
今回の電力システムでは、換気や空調設備(熱搬送ポンプやファンコイル)など、一般的に交流入力とされていた設備において、内部の変換装置(インバーター。直流・交流変換装置)によって直流入力でも動作することに着目し、直流のまま既設の設備に供給している。加えて、直流のLED照明やデータサーバ、EV充電器なども整備し、これらをエネルギーマネジメントシステム(EMS)で統合的に監視制御している。
さらに、直流1500V幹線による電力損失の大幅な低減、配電事故に柔軟に対応できるループ系統注2(図1の青線)によるレジリエンス(事故などからの回復力)確保、再エネ分散電源による地産地消の実現に適した自律分散制御といった点も特徴となっている。
大学内に設置されたラボで、環境省補助により事業運営
同キャンパスの南校地(図2)は野々市市の指定避難所となっており、災害などの系統停電時には今回のシステムで構築された太陽光発電と蓄電池、双方向直流EV急速充電器注3(写真1)とEVによって必要な電力を自立的に供給することで、停電時などの電源バックアップの時間を大幅に増やしている。
なお、この電力システムはオンサイトPPA注4として、運用開始とともに同キャンパス内に設置された産学共創の「KIT × NTT-AE スマートエネルギーラボ」によって運営される。また、地域の再エネ主力化やレジリエンス強化などの事業として、環境省の各種補助注5を受けている。
写真1 金沢工業大学扇が丘キャンパス内に設置された、直流による双方向EV急速充電器
出所 金沢工業大学ニュース2023年11月2日、「金沢工業大学とNTTアノードエナジー、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について」
NTTアノードエナジーと金沢工業大学、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について(PDF)
注1:直流自営線により公道を跨いだ大学キャンパスの建物間の電力融通を行うシステムとして、2023年11月1日時点、金沢工業大学およびNTTアノードエナジー調べ。
注2:ループ系統:発電所や蓄電池の間を異なったルートの電線路で環状(ループ状)に接続、運用されている系統。
注3:双方向直流EV急速充電器:EVのバッテリーから送電網へと電力を供給することもできる充電システム。
注4:PPA:Power Purchase Agreement、電力購入契約。発電事業者が需要家の敷地内に太陽光発電設備を発電事業者の費用によって設置し、発電設備から発電された電気を需要家に供給する仕組み。
注5:環境省「令和3(2021)年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業)平時の省CO2と災害時避難施設を両立する直流による建物間融通支援事業」、「令和4(2022)年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(PPA活用等による地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業)平時の省CO2と災害時避難施設を両立する直流による建物間融通支援事業」。
参考サイト
ニュースリリース 2023年11月2日、「金沢工業大学とNTTアノードエナジー、日本初の直流電力融通システムによる 共同事業の開始および産学共創ラボの設立について」
https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2023/1102_smart-energy-lab.html
https://www.ntt-ae.co.jp/pdf/press20231102.pdf
ニュースリリース 2022年2月4日、「金沢工業大学扇が丘キャンパスにおける直流による共同事業の実施について」
https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2022/0204_ntt-ae.html
https://www.ntt-ae.co.jp/pdf/press20220204.pdf